215.ホラーは苦手なんですけど(機械仕掛けのコンゲムさん)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(215)
【格闘大会編】
215.ホラーは苦手なんですけど(機械仕掛けのコンゲムさん)
「もうひとつ、お伝えすべきことがありますわ。」
格闘技場にシルフィさんの声が低く響いた。
その声の迫力のせいで、周囲はすぐに静まり返った。
声の調子は淡々としているけど、シルフィさんの顔には冷たい怒りが溢れている。
『能面の青姫』の称号を持つシルフィさんが『夜叉面の青姫』になってしまった。
すごく怖い。
「格闘士ギルドの責任者に問います。従魔章による従魔証明は無効、これは格闘士ギルドとしての統一見解と理解してよろしいでしょうか?」
うわぁ、そこか。
確かに落ち着いて考えると、テイマーギルドが発行している従魔章を無視するということは、完全に喧嘩を売る行為だよな。
コンゲムさん、僕に対する嫌がらせをしようとして、虎の尾を踏んじゃったね。
いや、虎の尾というよりドラゴンの逆鱗に触れた感じかな。
格闘技場の中にしばらく沈黙が続く。
シルフィさんの問いかけに対して答える者は誰もいない。
「それでは司会者の方、あなた個人の見解ですか?」
「いえ、運営サイド、つまり格闘士ギルドからの指示です。」
司会者がすぐに答えた。
司会者の人、完全に運営サイドから離れたね。
そりゃそうだよな。
いくら司会者として雇われているといっても、このシルフィさんの怒りを一人で受け止める筋合いはないよね。
下手するとテイマーギルド全体を敵に回す問題だし。
「格闘士ギルドの責任者に告げます。先ほどの言葉の撤回と説明を求めます。」
司会者の言質を取ったシルフィさんは、格闘士ギルドの責任者、すなわちコンゲムさんに要求を突き付けた。
しかしやはりどこからも反応はない。
コンゲムさん、逃げたな。
もしくは必死になって対応策を考えてるのかもしれない。
「仕方がありませんわね。今回の案件はテイマーギルド連合会に報告の上、格闘士ギルド連合会に提訴することに致しますわ。」
シルフィさん、それはもう最後通告ですよね。
コンゲムさん、どうするんだろう。
まあどうなっても全然構わないんだけど。
「これはこれは皆様方、少し現場を離れている間に、いったい何があったのでしょうか? どなたか、このコンゲムにご説明願えませんでしょうか?」
ここに至って、ようやくコンゲムさんが揉み手をしながら現れた。
このままでは誤魔化しきれないと判断したんだろう。
それにしても白々しいセリフ。
厚顔無恥の極みだね。
私は全く知りませんでしたという態度を貫くつもりらしい。
「ここのギルド長はあなたですか?」
「まさにまさに、私がギルド長のコンゲムでございます。貴方様はどなたでございますか?」
「私はアマレのテイマーギルド長、シルフィですわ。」
「なんとなんと、テイマーギルド史上最年少ギルド長として名高い、あのシルフィ様でございますか。お目にかかれて光栄でございます。」
シルフィさんとコンゲムさんのやり取りが始まった。
シルフィさんは「お怒りモード」、コンゲムさんは「おとぼけモード」で対応している。
「コロン格闘士ギルドがテイマーギルドの従魔章を無効と宣言しました。責任者としてどう落とし前をつけるおつもりですか?」
「なんとなんと、そんなことはあり得ないことでございます。」
「私の言葉が信じられないと? 証人はこの大観衆全員ですわ。」
「それはそれは、なんということでしょう。このコンゲム、あまりの事態に混乱しております。ところでその言葉は誰が発したものでしょうか?」
あっ、全部司会者のせいにして逃げるつもりだな。
コンゲムさん、三拍子(騙す・取り入る・陥れる)の中の「陥れる」を発動しようとしてる。
「誰が発したかは問題ではありませんわ。この大会の運営の中で行われたことは、すべてギルド長、あなたの責任です。」
さすがシルフィさん、コンゲムさんの逃げ道を速攻で潰した。
「これはこれは、まさに正論でございます。このコンゲム、非力なギルド長ゆえ、部下のものたちに勝手な行動を許してしまい、心からお詫び申し上げます。」
コンゲムさん、今度は部下のせいにして誤魔化そうとしてる。
それでもギルド長としての責任は逃れられないけどね。
「ならば、従魔章は無効という言葉は撤回して頂けますわね。」
「もちろんもちろん、撤回も何も、このコンゲム、最初からそんな考えは微塵もございません。」
コンゲムさんはそう言って、深く頭を下げた。
本心はハラワタが煮え繰り返ってるんだろうけど、さすがは悪の三冠王、そんな様子はカケラも見せない。
「分かりました。それなら連合会への提訴はとりあえず見合わせますわ。但し・・・」
シルフィさん、あっさりコンゲムさんの謝罪を受け入れるのかと思ったら、追加条件があるようだ。
コンゲムさんも、思わず頭を上げかけて途中で止まる.
「今後、ウィン様に対して不当な扱いがあった場合、従魔章に対する暴言も含めて、格闘士ギルド連合会に私の名前で提訴致しますわ。肝に銘じて下さいませ。」
シルフィさんは、それだけ告げるとクルリと背中を見せて、東サイドの出入り口へと歩き去って行った。
一方のコンゲムさんは、申し訳なさそうな表情のままシルフィさんの背中を見送っていたけど、シルフィさんの姿が見えなくなった瞬間、表情を一変させた。
「何故何故、こんなことに。このコンゲム、あのような者の言葉を信じたばかりにこの失態。必ずや必ずや、埋め合わせはさせて頂きますぞ。」
コンゲムさん、なんか一人でぶつぶつ言ってる。
何を言ってるのか、僕には理解できない。
でも顔を歪めてうつむき加減で独り言をつぶやく姿って、かなり不気味なんですけど。
フェイスさんとか、シルフィさんとかに責められて、どこか壊れちゃったのかもしれない.
そんなことを考えていると、コンゲムさんがゆっくりと顔を上げた。
そして顔を上げるのに合わせて、暗い表情を徐々に笑顔に変化させた。
それはまるで機械仕掛けの人形のようだった。
うわぁ、嫌なもの見ちゃったな。
背中を悪寒が駆け抜けたんですけど。
この人にはあんまり関わりたくないな。
もう退場してもいいですか。
心の中で誰にともなくそう問いかけて、こっそり逃げようとしていると、コンゲムさんがゆっくりと僕の方を見た。
そして目と目が合った瞬間、僕はビクッとしてしまった。
これって、もう、完全にホラー展開じゃないかな。
ホラーっぽいのって、ウゾウゾしてる虫の集団と同じくらい苦手なんだけど。
「これはこれは、ウィン様。色々と不手際があったようで誠に申し訳ありません。今後は純粋に戦いに専念できますよう、最大限の配慮をさせて頂きます。存分に格闘大会を堪能して頂ければ、このコンゲム、これに勝る喜びはございません。」
コンゲムさんの口調はとても丁寧で優しげだった。
その笑顔も直前に作ったとは思えないほど自然だった。
そして発言内容も至極真っ当なものだ。
しかし僕の耳には、それらの言葉はすべて呪いの言葉にしか聞こえなかった。
“逃げらると思わないでくださいね。
とびっきりのお相手を用意させて頂きますので。
精魂尽き果てて倒れるお姿を拝見できますことを、
心からご期待申し上げます。”
僕にはコンゲムさんの言葉がそんな風に聞こえていた。
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