213.外側から見ることも重要です(クエスト:見取稽古)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(213)
【格闘大会編】
213.外側から見ることも重要です(クエスト:見取稽古)
ディーくんとグラナータさんの戦いは静かに始まった。
ディーくんは右手に刀を持ったまま、グラナータさんに向かってトコトコと近づいて行く。
戦意とか、気迫とか、やる気とか、そういうものは一切感じられない。
一方のグラナータさんは、そんなディーくんの様子を呆気に取られて見ていたが、さすがにすぐ真剣な表情を取り戻し、大剣を両手で構え直した。
二人の距離がある程度まで縮まると、グラナータさんが先に仕掛けた。
あの独特の足運びでグラナータさんが間合いを詰める。
ディーくんはまだ刀を構えてもいない。
グラナータさんが大剣を振り上げると、ようやくそれに合わせるようにディーくんも下段に構えた。
僕は真剣にグラナータさんとディーくんの一挙手一投足を目で追う。
僕にはなぜか二人の動きがスローモーションのように見えた。
グラナータさんの大剣が上段からまっすぐに振り下ろされる。
ディーくんの刀が下から滑らかに切り上げられる。
ふたつの武器がぶつかる瞬間、僕は思わず叫んでいた。
「ディーくん、危ない!」
グラナータさんの斬撃は爆撃だ。
まともに切り結んだら爆風で吹き飛ばされてしまう。
体が小さいディーくんなら尚更だろう。
しかし、僕が予想した状況は、実際には発生しなかった。
キン。
グラナータさんの大剣とディーくんの刀が触れた瞬間、ドコンという重い音ではなく、とても軽い金属音が辺りに響いた。
いったい何が起こったんだろう。
そう思って二人の方を改めて見ると、刀を振り抜いた体勢のディーくんと、大剣を弾き返されて驚愕の表情をしているグラナータさんがそこにいた。
ディーくん、どうやってあの爆撃を跳ね返したのかな?
しかもあんなに軽々と。
その小さな体の中に、どれだけの力と技が詰まってるの?
ディーくんは刀を振り抜いた体勢から一歩下がり、今度は刀を正眼に構えた。
それを見たグラナータさんも慌てて間合いを取り直し、同じく正眼に大剣を構える。
二人は互いの視線を合わせたまま動かない。
二人の呼吸が段々シンクロしていくように見える。
緊張感が徐々に高まり、周囲から熱や音が消えていく。
そしてあらゆるものが静止した、そう感じた瞬間、二人は同時に動き出した。
キン、キン、キン、キン・・・・・
そこからは激しい打ち合いが展開された。
グラナータさんが間合いやタイミングを変化させつつ、ディーくんに向かって大剣を振る。
しかし、ディーくんはその斬撃を全て刀で振り払う。
優勢なのは明らかにディーくんだ。
ディーくんは常に刀を振り切っていて、グラナータさんの大剣は全て途中で弾かれている。
体格差を考えれば、あり得ない光景だ。
僕はディーくんに言われた通りに、しっかりと二人の攻防を観察していた。
グラナータさんの足捌きや大剣の扱い方。
視線の動きや筋肉の動き。
攻守の連携のさせ方や緩急の付け方。
実際に自分で戦っている時よりも、一歩下がって見ている方が、たくさんの情報を得ることができる。
ディーくんは僕に「見取稽古」をさせたかったのかもしれない。
もちろん僕は、ディーくんの戦い方もじっくりと観察していた。
なぜあの爆撃を喰らうことなく、軽々と大剣を捌くことができるのか。
力なのか、速さなのか、技なのか、それとも何かのスキルなのか。
最初はその理由が全く分からなかったけど、しばらく二人の攻防を見ているうちに、段々と目の前で起こっている状況が理解できるようになってきた。
なぜグラナータさんの斬撃が爆撃にならず、なぜディーくんの剣戟が軽々と大剣を弾けるのか。
簡単に言えば、型の問題だ。
よく見ると、グラナータさんの攻撃の型は毎回微妙に崩れている。
それに対してディーくんの防御は綺麗に型にハマっている。
ちょっとした位置取りや微かなタイミングのずれ。
視線や剣先のフェイントに細かな重心の移動。
そういったものを多用して、ディーくんはグラナータさんの型を崩している。
そのせいでグラナータさんの攻撃には十分な力が乗っていない。
全力で正面からぶつかることだけが戦いじゃない。
相手に実力を出させないことも戦いの重要な要素だということだろう。
しかしそんな事、誰でもできる訳じゃない。
ディーくん、神か。
…ウィン様、クエストを達成しましたので表示させて頂きます…
○見取稽古クエスト (by ディーくん)
クエスト : 見て勉強しろ
報酬 : 剣術(中級)
達成目標 : ディーくんの模範試合を観察する
カウント : 1/1
予想しないタイミングで「中の女性」からクエスト達成のメッセージが表示された。
ディーくんの戦い方を見て、その内容を理解した段階で達成扱いになったようだ。
外側から他の人の戦いを見て学ぶことも、大事な訓練だとういうことだろう。
何にしろ、剣術が中級に上がったのはありがたい。
(あるじ〜。クエスト達成したみたいだし、もう終わらせるね〜)
クエスト内容を確認していると、グラナータさんと戦闘中のディーくんから『念話』が飛んできた。
もう終わらせるね〜ってことは、ホントはいつでも終わらせることができたってことだよね。
まあ、そんなことだろうとは思ってたけど。
でもあんまり簡単に終わらせると、グラナータさんの心が折れちゃうんじゃないかな。
そんな心配をしながら見ていると、グラナータさんが大剣を振りかぶった瞬間、ディーくんの姿が消えた。
そして次の瞬間、ディーくんはグラナータさんの目の前に現れて、すれ違い様に彼女の腹部を刀で横薙ぎにした。
剣道の「抜き胴」のような形だ。
ディーくんの一撃は、それほど威力があるようには見えなかったけど、グラナータさんは腹部を押さえて、その場で片膝をついた。
そしてそのまま立ち上がることができなかった。
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