212.剣には剣・・・とか言ってられません(2回戦:vs グラナータ)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(212)
【格闘大会編】
212.剣には剣・・・とか言ってられません(2回戦:vs グラナータ)
やっぱり剣には剣だよな。
僕はグラナータさんの迫力に押されながらも、この試合の戦い方を考えていた。
そして決断すると、右手を真っ直ぐに横に伸ばす。
その伸ばした手の中に真っ黒な長剣が出現した。
「ほう、剣も使うのか。」
大剣を構えたままでグラナータさんが呟いた。
グラナータさん、口調がいつもと違いますけど。
あの丁寧な喋り方はお仕事仕様ですかね。
そしてこちらが戦闘仕様というか、素なんでしょうね。
「しかし、その長剣で私の大剣を凌げるかな。」
グラナータさんはそう言葉を続けると、ゆっくりと大剣を振りかぶり、僕に向かってそれを振り下ろしてきた。
あれっ、何かがおかしい。
じゅうぶん間合いを取っていたはずなのに、いつの間にか詰められている。
カタラットさん程の俊敏さはないのに、なぜかその攻撃範囲から逃げ切れない。
僕は仕方なくグラナータさんの大剣を長剣で斜めに受けて横に逸らすことにした。
ドコンッ。
大剣と長剣が触れた瞬間、ものすごい音がして同時に強い風圧が僕を襲った。
僕はなんとか長剣を保持したまま後方に飛び退いた。
斜めに当てたはずなのに、なにこの威力。
「今ので折れないとは、その剣、かなりの業物だな。」
いやいや、剣がどうこうより僕の腕が折れるかと思いましたよ。
グラナータさん、その大剣、斬撃というより爆撃ですよね。
ああそれで「ダイナマイト」なんですね。
てっきりボディの事かと・・・いや、失礼しました。
それにしても今の一連の動きはなんだったんだろう。
魔力はまったく感知しなかったので、純粋に体術なんだろうな。
魔法を使わなくても、技を極めればこんなこともできるのか。
「では参る!」
そう叫ぶと、グラナータさんが動いた。
今度は速い。
避け切れない。
ブーン、ドコン。
僕が立っていた場所にグラナータさんの大剣が叩きつけられ、地面が爆ぜた。
僕は間一髪で『転移陣』を発動し、グラナータさんの背後に回り込んだ。
あわよくばそのまま攻撃しようと考えてたけど自重した。
返す大剣で吹っ飛ばされる自分の映像が頭の中に浮かんだから。
「今のは・・・転移か。」
予想通りグラナータさんは一瞬の隙もなく、右手一本で大剣を背後に向け、僕の方を振り返った。
でもグラナータさん、よく初見ですぐ転移だと分かりましたね。
あっ、そう言えば冒険者ギルドでスキルの説明した時に転移も伝えてましたね。
グラナータさん、メモ取ってましたもんね。
「発動の速さ、位置取りの正確さ、厄介だな。」
グラナータさん、そうは言いますが、あなたの大剣爆撃の方が厄介ですよ。
転移で逃げることはできますけど、攻撃の方法が思いつきません。
もう「剣には剣」とか言ってられません。
既に『転移』も使っちゃいましたし。
それからあの足捌きも厄介です。
間合いが全く読み切れません。
グラナータさんのスキルにそれらしいものは無かったので、おそらく独自に鍛え上げたものと思われます。
つまりこの世界には、スキルに表示されない能力もあるということですね。
ブーン、ドコン。
カキーン、ドコン。
ブーン、ドコン。
カキーン、ドコン。
僕は短距離の『転移』を繰り返しながらグラナータさんの爆撃をかわす。
そしてわずかな隙を見つけては切り掛かってみるけど、ことごとく大剣で迎撃された。
しかも大剣と長剣がぶつかる度に、衝撃が僕の全身に重く響く。
これは長くは保たないかも。
それにしても失敗したな。
『剣術』スキルを上げる方法を探しておけば良かった。
当然だけど初級じゃ全く太刀打ちできない。
こうなったら、ものすごくズルい気がするけど、あれを使うしかないな。
さっき係員の人に確認したら「普通にありです。」って言ってくれてたし。
ということで、僕はあっさりと奥の手を使うことにした。
「お願い! ディーくん!」
僕がそう叫ぶと、僕とグラナータさんの間に上空から光の粒子が舞い降りて、クルクルと回りながら小熊の形になり、そこからディーくんが現れた。
両手に青いポンポンを持ったままで。
「おおっと、これはどうしたことでしょうか。闘技場にいきなり小熊のぬいぐるみが現れました。いやよく見ると動いています。これは魔物なのか。ということは謎の男ウィンはテイマーなのでしょうか!」
予想外の展開に司会者が大声で叫ぶ。
その言葉に僕は心の中で答える。
そうなんです。
僕はテイマーでもあるんです。
だからこれはズルじゃありません。
れっきとした僕の能力です。
僕は自分自身に言い訳しながらグラナータさんの方を見た。
グラナータさんはそのルビー色の瞳を少し見開いて、ディーくんを見つめている。
「テイマーなのは分かっていたが、こんなにかわいい小熊とは・・・。これと戦えと言うのか。」
グラナータさん、気持ちは分かりますが、その見た目は詐欺ですからね。
めちゃくちゃ強いですから。
僕が呼び出しておいてあれですけど、気をつけてくださいね。
そんなことを心の中で思っていると、ディーくんが念話で話しかけてきた。
(あるじ〜。)
はい、何でしょう、ディーくん。
(グラちゃんと戦えばいいの〜?)
はい、お願いできますでしょうか。
(いいけどね〜。あるじの剣術鍛えてなかったの、ぼくのミスだしね〜。でも〜、このポンポンどうしようかな〜)
はい、謹んでお預かりさせて頂きます。
(りょうか〜い。)
ディーくんはそう(念話で)言うと、トコトコと僕の方に歩いてきて、2つの青いポンポンを僕に差し出した。
(じゃあ、ちょっと戦ってくるね〜。あるじ〜、よく見ててね〜)
ディーくんは軽い調子でそう言うと、グラナータさんの方を振り向いた。
その小さな手には、いつの間にか刀が握られていた。
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