211.やっぱり出場していたようです(『赤いダイナマイト』:グラナータ)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(211)
【格闘大会編】
211.やっぱり出場していたようです(『赤いダイナマイト』:グラナータ)
2回戦まではかなり時間があったので、ルルさんと控え室で待機することにした。
『聖女ルル』の参戦効果もあってか、いつもより出場者が多いようだ。
初日は予選ラウンド扱いで、ベスト8が決まるまで対戦を行い、準々決勝以降は、明日の決勝ラウンドで行われる。
僕の場合、あと3つ勝てばベスト8に残れるらしい。
ちなみにルルさんの初戦は瞬殺だった。
風魔法と水魔法を温存した上で、拳と体術だけで完勝だ。
でも対戦相手は初めから勝つつもりなんてなかったんじゃないかな。
試合開始前から顔がデレてたし、ルルさんの右ストレートをまともに喰らった後も、すごく幸せそうな笑顔で気絶してた。
「ルルさん、楽勝でしたね。」
「つまらん。」
「1秒で終わりましたしね。」
「もっと骨のあるやつはいないのか。」
「まあ、まだ一回戦ですから。」
「ウィンは、初戦からカタラットだっただろう。」
「ルルさん、それはコンゲムさんの策略でしょう。」
「私も強いやつと戦いたい。」
「勝ち抜けばそのうち強い相手に当たりますよ。」
僕はとりあえずそう言ってルルさんを宥めた。
しかし実際のところ、前回優勝のカタラットさんより強い格闘士が他にいるのかどうか、僕には分からない。
カタラットさん情報によると、コンゲムさんが正体不明の二人を追加で参加させたらしいので、その二人はきっと強いのだろう。
でも間違いなくルルさんではなく、僕の対戦相手に組まれるはずだ。
「ウィンはずるいぞ。」
「どうしてですか?」
「狐ギルド長に贔屓されてるじゃないか。」
「ルルさん、それは贔屓じゃなくて嫌がらせだと思いますけど。」
「なぜだ? 強い相手と戦えるなんて恵まれてるじゃないか。」
「それは、その・・・価値観によると言うか・・・」
物事の見え方は人により多面的だ。
一方から見たら『純愛』でも、他方から見たら『ストーカー行為』だったり。
ある人の頭の中では『正義』でも、他の人たちにとっては『迷惑行為』だったり。
こちらから見れば『英雄』でも、あちらから見れば『虐殺者』だったり。
格闘士ギルドのギルド長コンゲムさんの行為は、僕にとっては『嫌がらせ』だけど、ルルさんには『贔屓』に見えるらしい。
「ところでルルさん、今さらながら質問があるんですが。」
「何だ、ウィン?」
「この大会に優勝したら武神に会えるって、どういう意味ですか?」
「ん? そのままの意味だが。」
え〜と、どう訊けばいいかな。
ルルさんから正しい情報を引き出すには、質問の仕方を工夫しないといけないからな。
「ルルさん、この大会で優勝すると、何が起こるんですか?」
「そうだな、まず賞金が手に入るな。」
「それから?」
「優勝経験者として格闘士ギルドに登録される。」
「他には?」
「有名になるな。優勝者の名前は各国の格闘士ギルドに伝えられるからな。」
「まだありますよね?」
「そうだな。格闘王決定戦への挑戦権が得られる。」
えっ、何ですか、その「格闘王決定戦」って?
っていうか、ルルさん、わざと武神関係の話を避けてません?
「格闘王決定戦」というのもかなり気になりますが、今はそれより武神のことが知りたいんですけど。
「ルルさん、武神関係も何かあるんじゃないですか?」
「おっ、そうだった。表彰式で武神から祝福される。」
「祝福?」
「そうだ。」
「それって、『おめでとう』とか言われるってことですか?」
「いや、微妙にパワーアップするらしい。」
パワーアップ?
微妙に?
ステータスにプラス補正が付くってことかな。
それは『加護』とは違うんだろうか?
「ルルさん、祝福と加護は違うんですか?」
「違う。」
「どう違うんですか?」
「そうだな・・・祝福は他人を祝う気持ち、加護は身内を守る気持ちだな。」
ルルさん、説明が分かりにくいです。
分かりにくいのに、なんとなく分かってしまうところがちょっとイラっとします。
「つまり、この大会で優勝すると、武神が現れて祝福してくれるんですね。そこで武神に会えると。」
「そうだ。最初にそう言っただろう。」
はい、ようやく正確に状況が飲み込めました。
でもそれって、優勝しなくても会場にいれば会えるんじゃないのか。
まあ、「神に会う」という言葉の定義によるけど。
とりあえず、優勝目指して頑張ればいいか。
そんなことを考えていると、控室の係員が僕に声をかけてきた。
「ウィン様、2回戦が始まりますので会場へお願いします。」
僕は頷いて立ち上がった。
* * * * *
1回戦の時に通った通路を抜けて格闘技場に出ると、2回戦の相手が既に待ち構えていた。
燃えるような赤い髪。
ルビー色の鋭い眼光。
鍛え上げられた筋肉をまとった2m超えの巨体。
腰にはトレードマークの大剣を提げている。
それはもちろん、冒険者ギルド・コロン本部の副ギルド長、グラナータさんだった。
(鑑定結果)
グラナータ(GRANATA) コロンギルド 副ギルド長
名前 : グラナータ(30歳) 女性
種族 : ドワーフ族
職業 : 冒険者(B)・副ギルド長・ウィンギルド会員
スキル: 剛腕・鎧通し・激怒・硬化
魔力 : 77
称号 : 『赤いダイナマイト』
友好度: 80%
信頼度: 80%
グラナータさんの鑑定結果を確認しないとな。
そう思っただけで情報が表示された。
しかも新しい情報に更新されている。
初めて鑑定した時は『称号』がなかったけど、今回は『赤いダイナマイト』と表示されている。
それから『友好度』と『信頼度』の項目が追加され、それぞれ80%となっている。
一瞬「100%じゃないんだ」とか思ったけど、よく考えてみればまだそれほど接点があったわけじゃないので、「こんなもんだよな」と思い直した。
そして最後に職業に・・・「ウィンギルド会員」と表示されている。
ウィンギルド会員って、職業なのか?
「グラナータさん、やっぱり出場してたんですね。」
「もちろんです、ウィン様。ウィン様と死合ができる機会を、みすみす逃す訳には参りませんので。」
グラナータさん、今、言葉の中に誤字があったような気がしますが。
ギルドにいる時と違って殺気立ってませんか。
「言ってくれればいつでも『試合』くらい、冒険者ギルドの練習場で付き合いますけど。」
「いえ、それでは意味がありません。『死合』じゃないと実力が把握できませんので。」
「なぜそこまで?」
「冒険者の実力の正確な把握は、副ギルド長としての責務ですから。」
グラナータさんは、そう言うとニッコリ笑った。
とても綺麗な笑顔だったけど、その後ろに夜叉が見えた気がした。
この世界の女性って、戦闘狂が多いんだろうか?
まあ魔物がいる世界なので、男女を問わず戦闘系の職業の人たちはそうならざるを得ないのかもしれないけど。
「あの〜グラナータさん、ひとつ質問してもいいですか?」
「ウィン様、構いませんよ。」
「グラナータさんって、カタラットさんより強いんですか?」
「ふふふ、それはご想像にお任せします。」
あっ、これはあれだ。
絶対的に強いってことだ。
あの笑顔は、そこは比べちゃいけませんよって意味だ。
副ギルド長の肩書きは伊達じゃないってことだろう。
「それでは2回戦を始めます。東サイドからは、あの剛腕のカタラットを破り大番狂わせで2回戦へ駒を進めた謎の男ウィン。なんとセコンドに聖女様がついています。羨まし過ぎる〜。聖女ファンの皆様、どうか盛大な怨嗟の声をお願いしま〜す。」
「「「「ウォー!」」」」
「「「「許せねぇー!」」」」
「「「「転んじまえー!」」」」
「「「「負けちまえー!」」」」
司会の人、何煽ってんの。
審判役なんだから私情を挟んじゃいけないんじゃないかな。
それにしても聖女ファンの皆さん、相変わらず元気だね。
でもディスられてるんだけど、ちょっと気持ちいいかも。
悪役の醍醐味みたいな感じ?
「西サイドからは、なんと冒険者ギルドからの参加者です! それもあの、誰もが恐れる『赤いダイナマイト』、副ギルド長のグラナータ様! もちろん格闘大会初参加! 謎の男ウィンをボコボコにしてくれることを期待しましょう!」
「「「「キャ〜!」」」」
「「「「グラナータ様〜!」」」」
「「「「素敵です〜!」」」」
「「「「そんな男に負けないで〜!」」」」
グラナータさん、スゲェな。
黄色い声援が飛びまくってる。
圧倒的な女性人気。
まあ格好いいもんな。
それにしても「赤いダイナマイト」って・・・。
どう言う意味なんだろう。
「それでは、ウィン対グラナータ戦、試合開始。」
司会者がそう宣言すると、グラナータさんはゆっくりと大剣を腰から抜き、正眼に構えた。
ただそれだけの動作なのに、僕の中で危険を知らせる警報がけたたましく鳴り始めた。
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