209.声に出さないと伝わりません(武神クエスト:ウィン)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(209)
【格闘大会編】
209.声に出さないと伝わりません(武神クエスト:ウィン)
「ウィン、初戦から派手にやってくれたな。」
試合が終わり東側出入口に戻ってくると、ルルさんが腕を組んで仁王立ちの状態で、そう言葉をかけて来た。
「そうですか? どちらかというと見た目には地味な戦いだったと思うんですけど。」
カタラットさんの体術は凄かったけど、風魔法は観客の目には見えなかっただろうし、僕はほとんど逃げまくってただけだし、大規模な魔法も壮絶な殴り合いもなく、最後はなぜかカタラットさんが敗北宣言。
観客からしたら、何が何だか分からないうちに試合が終わったように感じたんじゃないだろうか。
「ウィン、ここの観客を舐めるんじゃない。格闘試合を見慣れた彼らが声も出せずに見入っていたんだ。それだけすごい試合だったってことだ。」
「そうなんですね。」
「そうだ。それに前回優勝者相手に『石魔法』だけで勝つなんて、余裕だな。」
「それは・・・・・訓練のつもりで『石』縛りにしてみましたが・・・最後に『風』も使っちゃいました。」
僕がそう答えると、いきなり後ろから声がかかった。
「やはりそうか。ハンデを付けられていたとはな。」
ええっ、カタラットさん、いつの間に!
西側の出入口に向かったんじゃないんですか?
もしかして全部聞いてました?
試合で手抜きしたと思われてないですよね?
なんかちょっとお怒りモードな感じが・・・・・。
「久しぶりだな、カタラット。」
「ご無沙汰しております、聖女ルル様。」
狼狽える僕の横で、2人が軽く挨拶を交わした。
しかもルルさんが相手を名前で呼んでる。
「大きくて硬くて速いドワーフ」とかじゃなくて、「カタラット」と呼んでる。
つまり2人は、かなり親しい間柄ってことだ。
「カタラット、相変わらず大きくて硬くて速いな。」
「ルル様、それでもウィン殿には完敗でした。しかも力を制限されていたご様子。」
「当然だ。ウィンは私のパートナーだぞ。」
「その噂、真実でしたか。ルル様もついに・・・」
「それにウィンが全力なら、試合は3秒以内に終わる。」
「なんと、それほどとは!」
「カタラット、ウィンは私を瞬殺する男だぞ。」
「!」
ルルさん、いろんな意味でハードルを上げるの、やめてもらっていいですか。
「パートナー」の前には必ず「冒険者パーティーの」って枕詞をつけましょうね。
それに「瞬殺」って、初めて会った頃のことでしょう。
今はそんなに簡単に倒せませんよ。
「ウィン殿、格闘士として、そして男として、負けを認めさせて頂く。」
カタラットさんが僕の方を向いてそう言いながら目礼してきた。
カタラットさん、「格闘士として」という部分は理解しますが、「男として」ってどういう意味でしょうか。
カタラットさん、もしかして「ルルさん推し」でした?
「しかしウィン殿、真の力を隠したままでその強さ、天晴れと言うしかない。いつか全力のウィン殿と戦ってみたいものだ。」
カタラットさんはそう言って屈託の無い笑顔を見せた。
そこには勝ち負けよりも、強者との戦いを楽しみたいという想いが見て取れた。
何この男前。
強くて硬くて速くて、さらに性格が男前って、ちょっとずるくない?
リベルさん、ちょっとは見習った方がいいよ。
そう言えばリベルさん、まだ寝てるんだろうか。
そんなことを考えていると、カタラットさんが真面目な表情になり、少し声を落として話し出した。
「ところでウィン殿、ギルド長のコンゲムには気をつけた方がいい。何か企んでるようだ。」
「やっぱり。」
「心当たりがあるようだな。」
「はい、たっぷり。」
初対面から嫌われてた気がするし、その上シルフィさん(九尾様?)が虐めたからな。
悪の三冠王(騙す・取り入る・陥れる)だし、絶対根に持つタイプだよね。
「あの狐ギルド長が何かしてくるのか?」
ルルさんが横からカタラットさんに尋ねた。
「はい、ルル様。ウィン殿と私の対戦は直前になってコンゲムの指示で組まれました。それから正体不明の格闘士を2名、ギルド長権限で今朝追加したようです。」
「なるほどな。面白そうだな。」
ルルさん、その話、全然面白くないです。
流れから言って、面倒くさそうな相手を次々に僕にぶつけてくるってことですよね。
「ウィン、不満そうな顔をするな。普通の奴らと戦っても準備運動にもならん。簡単な戦いなど、つまらんだろう。」
いえ、僕としては「簡単な戦い」大歓迎です。
戦闘狂じゃないので、戦闘自体にそんなに興味はありません。
楽に勝てるなら、その方がいいんですけど。
「ウィン殿、食事や飲み物にも気をつけた方が良い。ウィン殿の強さを知った以上、コンゲムは手段を選ばず仕掛けてくるだろう。」
「カタラット、それは心配ない。」
カタラットさんの忠告をルルさんはあっさりと却下した。
「ルル様、しかし・・・」
「何かあれば、私が・・・『ヒール』で治す。」
「ヒール!・・・・・ルル様ついに念願のヒールを習得されたのですか?」
「ああ、まだ・・・『上級』だがな。」
ルルさん、さりげなく言ってるつもりでしょうが、『ヒール』のところと『上級』のところ、かなり力が入ってましたよ。
仕草も妙に芝居がかってましたし。
『ヒール』のこと、誰かに言いたくてしょうがなかったんですね。
でも言った後で照れるくらいなら、普通に自慢した方がいいと思います。
「ルル様、おめでとうございます。それならウィン殿も安心できるというもの。」
カタラットさんが微笑みながらルルさんにそう告げた。
ルルさんもちょっと嬉しそうな表情をしている。
いえいえカタラットさん。
こう見えて僕も『ヒール(上級)」持ちなんで、自分で対処可能です。
なんならその前に毒無効もあるし、ルルさんがいなくても大丈夫だと思いますが。
そんなことを考えていると、カタラットさんが僕のことをじっと見つめてきた。
何か気になることでもあるんだろうか。
「ウィン殿、先程から黙ったままだが、何か問題でもあるのか?」
えっ?
あっそうか。
最近、ルルさんもフェイスさんも心の中を読んでくるので、声に出して喋るの、すっかり忘れてた。
「カタラット、ウィンは黙って心で語るタイプだ。気にするな。」
「なるほど。第一印象はとぼけた奴って感じだったが、中身は武人なのだな。」
ちょっと待って・・・そうじゃなくて・・・。
「ちょっと待って下さい、カタラットさん。考え事してただけで普段は普通に喋りますので。」
「そうなのか? てっきり戦う時以外は無口な男なのかと思ったぞ。」
「いやどちらかと言うとよく喋る方です。たまに考え込んで周りが見えなくなりますけど。」
「強者とはそういうものだ。常人のものさしでは計りきれぬ。」
「いやそう言うことでは・・・」
そんなやり取りのタイミングで、視界の中にメッセージが流れた。
…ウィン様、申し訳ありません。忘れる前に新規で成立したクエストを表示させて頂きます(ポッ)…
○武神クエスト
クエスト : 格闘大会①
報酬 : 武神の加護(1個)
達成目標 : 格闘大会で優勝する
※加護の内容は選択できる。
あれ、口調(文体)が違う。
(ポッ)も付いてるし。
そうか、ここはコロンバールだから「中の女性」の管轄か。
お久しぶりです、「中の女性」。
…お久しぶりです。いつも「中」からご活躍は拝見させて頂いております…
あ、やっぱりそうなんですね。
担当以外の中の人たちも状況は把握していると。
…はい、そうでないとスムーズに引き継ぎができませんので…
国別で担当はいるけど、中の人たち全体に見守られてる感じ?
中の人って、まだ他にもいるの?
…そこは、中の人の秘匿事項ということで。今後に乞うご期待です…
了解です。
相変わらず「中の女性」の言葉のチョイスって・・・。
いえ、なんでもありません。
それよりも新しいクエストですね。
僕は表示されたクエストを見直した。
達成目標が格闘大会優勝で、報酬が武神の加護って・・・
「武闘大会で優勝すれば武神に会える」って、このクエストのことだったのかな。
いや、ルルさんがこのクエストのことを知ってる訳がないな。
そもそもルルさんの言う「武神に会える」ってどういう意味だろう?
肝心な部分の確認を忘れてた。
やっぱりこの世界の僕は、どこかが抜けている気がする。
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次回投稿は12月29日(金)です。
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