207.大きくて硬くて速そうな人(初戦: vs 剛腕のカタラット)
見つけて頂いてありがとうございます。
第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(207)
【格闘大会編】
207.大きくて硬くて速そうな人(初戦:vs 剛腕のカタラット)
ということで、初めての格闘大会です。
始まる前にいろいろありましたが、僕は無事に大会に参加できることになりました。
「必ず必ず、ウィン様に相応しい対戦を組ませて頂きます。」
そう言った時のコンゲムさんの暗い微笑みがちょっと気になりますが、まあ殺し合いをするわけじゃないので大丈夫でしょう。
* * * * *
「ウィン、格闘大会は何でもありだ。そのつもりで行け。」
僕とルルさんは出場者控え室のような場所で並んで座っていた。
どこで待機していてもいいらしいけど、出番が回ってきた時に格闘場にすぐ出て行かないと失格になるらしい。
控え室にいれば、係の人がタイミングを見て声をかけてくれるとのことなので、ここにいることにした。
ルルさんも僕も初出場だし、勝手がよく分かってないからね。
「ルルさん、何でもありってどういう意味ですか?」
「そのままだ。物理、魔法、武器、暗器、心理戦、罠、何でもだ。」
「ずるいとか、卑怯とか、関係ないってことですね。」
「その通り。現実の戦いにはルールなんてないからな。」
「でも殺しちゃいけないんですよね。」
「相手を殺すと失格になる。だから・・・」
「だから?」
「半殺しにしろ。」
了解しました。
でもルルさん、ここ、他の人たちも結構いますからね。
聖女様が「半殺し」とか言わないほうがいいと思いますけど。
ほら、ルルさんに見惚れてた人たちがかなりドン引きしてますよ。
『聖女』なんだから、イメージのダメージコントロールも大事だと思います。
そんなことを考えていると、
「ウィン様、出番です。」
意外とすぐに僕の名前が呼ばれた。
コンゲムさん、大急ぎで僕の対戦カードを準備したんだろうか。
控え室を出て、係の人に従って薄暗い廊下を進んでいく。
少し先に長方形の出口があり、そこから光が差し込んでいる。
あの向こうに格闘場があるんだろう。
僕は特に何も考えることなく、光の中へ一歩踏み出した。
「「「「「ウォー!」」」」」
格闘場に入った瞬間、耳の鼓膜を圧迫する程の歓声が響き渡った。
びっくりして周囲を見回すと、観客席は溢れんばかりの超満員で、人々は口々に何か叫び、旗や横断幕や青いポンポンが揺れていた。
「なんじゃこりゃ。」
思わず変な感想が口から飛び出す。
だってまだ一回戦だよな。
しかも僕は初参戦なんだけど。
皆さん、朝から盛り上がり過ぎじゃないかな。
しかしその疑問に対する答えは場内アナウンスで判明した。
「皆様、お待たせ致しました。東サイドから登場しましたのは、今大会注目の新人、なんと、恐れ多くもあの聖女様のパートナーだという噂のある、謎の男ウィン! 格闘大会初参加のため、ほとんど情報はありません! 果たしてどれだけの実力を有しているのか。どのような戦いを繰り広げるのか。そして、どこまで男性陣の罵声に耐えられるのか。皆様、たっぷりとお楽しみください。」
「「「「「ウォー!」」」」」
「「「「「ふざけんなぁ!」」」」」
「「「「「許せねぇ!」」」」」
「「「「「死んじまえー!」」」」」
あっ、これ、歓声じゃなくて罵詈雑言だ。
しかも野太い男の声ばっかり。
聖女ファンの魂の叫びというか、パートナーと言われている僕に対する怨嗟の声だな。
「続きまして西サイドから現れましたのは、前回大会の覇者であり、今大会におきましても準優勝候補筆頭、剛腕のカタラット! その実力は折り紙付きです。新人相手にどのような戦いを見せるのか。時間をかけて甚振るのか、瞬殺するのか。うっかり失格にならないよう、力加減が難しいかもしれません。」
「「「「「ウォー!」」」」」
「「「「「ぶっ潰せぇー!」」」」」
「「「「「ズタズタにしろー!」」」」」
「「「「「殺っちまえー!」」」」」
反対側から登場したのは、大きくて硬くて速そうな人だった。
「剛腕の」と呼ばれるだけあって、筋肉のつき方が半端ない。
それに身体の捌きを見る限り、敏捷性もかなり高そうだ。
(何でもありということなので、ちょっと鑑定させてもらいます。)
僕は誰にともなく言い訳しながら、カタラットさんに鑑定をかけた。
(鑑定結果)
名前 : カタラット(32歳) 男性
種族 : ドワーフ族
職業 : 格闘士・魔術師
スキル: 敏捷・剛腕・風魔術・身体強化
魔力 : 888
称号 : 『剛腕のカタラット』
友好度: 50
信頼度: 50
なるほど。
『剛腕』というから物理攻撃型かと思ったけど、風魔術との混合型なんだね。
もしかすると風魔術の方は上手く隠しながら使ってるのかもしれない。
奥の手があるっていうのは、対人戦ではすごく有利だからね。
それにしてもいきなり前回優勝者をぶつけてくるとか、コンゲムさん、腹黒さ全開だね。
フェイスさんにいじめられたこと、相当根に持ってるな。
でもこのカタラットさんが準優勝候補筆頭ってことは、優勝予想はルルさん一択なんだろうな。
そして僕は初戦でボロボロになることを期待されていると。
まあ、期待に答えるつもりはないけどね。
「それでは、ウィン対カタラット戦、試合開始!」
歓声、というか僕に対する怒号が轟く中で、アナウンサーが試合開始を宣言した。
審判とか、そういう役回りの人は見当たらない。
どちらかが動けなくなるまで戦えってことなのだろうか。
僕はゆっくりと格闘場内を見渡した。
高い壁が楕円形に周囲を囲み、その上に観客席が設置されている。
区切られた試合会場のようなものは存在しないので、この楕円形の中全体が戦いの場なのだろう。
「おい新人、余裕だな。」
そう声をかけられて僕は対戦相手の方を見た。
カタラットさんは、慎重に僕の様子を伺いながらファイティングポーズをとっている。
新人だからといって侮ったりせず、僕のことを見極めようとするあたり、彼は本当の実力者なのだろう。
初対面の相手を弱いと決めつけてバカにするのは二流以下の人間だからね。
「初めてなので、勝手がよく分からなくて。」
僕は素直に思ったことをカタラットさんに返した。
「何も難しいことはない。どちらかが倒れるまで戦うだけだ。」
カタラットさんはそういってニヤリと笑った。
それは嫌な感じのものではなく、これからの戦いが楽しくてしょうがないという笑顔に見えた。
カタラットさん、ルルさんに負けず劣らず戦闘狂っぽいですね。
でもそういうの、嫌いじゃないです。
対戦相手ではあるけど、僕はカタラットさんに好感を持った。
「では参る。」
宣戦布告と同時に、カタラットさんの全身が魔力に包まれる。
身体強化をかけたようだ。
僕の『魔力感知』は以前のように意識しなくても、常に魔力に反応するようになっている。
カタラットさんは弾かれたように僕に接近し、右腕を振り抜いてきた。
その右腕には身体強化とは別の魔力が纏わり付いている。
これは、空振りしても風魔法が飛んでくるやつだ。
僕は、腕の軌道と風魔法の方向を読みながら、大きく左側にステップして攻撃を躱した。
「やはり相当の力量だな。」
空振りしても体勢を崩さずに、カタラットさんは僕から少し距離をとって構え直し、そう呟いた。
「身体強化に剛腕、さらに風魔法。さすが前回の優勝者ですね。」
僕もカタラットさんにだけ聞こえる声量でそう呟き返した。
「ハッハッハッ、これは益々楽しめそうだ。ウィンと言ったか、今までどこに隠れていた?」
別に隠れていた訳じゃないんですけどね。
ルルさんみたいに戦闘狂じゃないので、人前で好き好んで戦っていないだけです。
でも「戦闘狂の格闘士」ってしっくりくるけど、「戦闘狂の聖女」ってやっぱり変ですよね。
そんなことを考えていると、いきなり背中に悪寒が走った。
僕は慌てて右側に飛んだ。
直後に僕がいた場所を特大の「風刃」が通り抜けて行った。
ルルさん、いくら何でもありでも、場外から仲間の背中に風魔法を放つのはさすがにどうかと思いますよ。
余計なことを考えずに試合に集中しろ?
はい、すみませんでした。
読んで頂いてありがとうございます。
徐々に読んで頂ける方が増え、励みになります。
誤字・脱字のご指摘、ありがとうございます。
ご感想を頂いた皆様、感謝いたします。
ブックマーク・評価を頂いた皆様、とても励みになります。
ありがとうございます。
次回投稿は12月25日(月)です。
よろしくお願いします。




