205.格闘大会に登録します(コンゲム:格闘士ギルド・ギルド長)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(205)
【格闘大会編】
205.格闘大会に登録します(コンゲム:格闘士ギルド・ギルド長)
「出場登録をお願いしたい。私と私のパートナーの2名だ。」
「かしこまり・・・えっ、せ、聖女様! す、すみません。少々、お待ち下さい。」
ルルさんが格闘場の受付でルルさんと僕の出場登録を申し込もうとすると、受付のウサギ獣人の女性が慌てて立ち上がり、そのままいなくなってしまった。
彼女、かなり慌ててたね。
そりゃ、いきなり聖女様が現れたら普通の人は驚くよね。
特にこの国だと、ルルさん、めちゃくちゃ有名だからな。
ここはコロンバールの首都、コロンの郊外にある格闘場。
名称はひねりも何もなく、そのまま『コロン格闘場』。
僕とルルさんは、神様に会う方法について話をした翌日、朝一番で格闘場の受付前に転移してきた。
ルルさんが言うには、ここで開催される格闘大会に優勝すると武神に会えるらしい。
本日、僕に同行している従魔はタコさん。
順番がきちんと決まってるのかと思ったら、同行者はその日の従魔たちの気分で決まるとのこと。
希望者が複数いる場合は「ジャンケン」で決めるって言うんだけど・・・従魔たちってどうやって「ジャンケン」するんだろう?
今日のタコさんはなぜか青い「ポンポン」を2つ持っている。
あの応援団とかが使っている丸くてフサフサしたやつだ。
誰かを応援するつもりなんだろうか?
そしてそのポンポンは、どこから持って来たのかな?
ルルさんの説明によると、『コロン格闘場』では毎月月末に二日間かけて格闘大会が開かれるらしい。
参加条件は、大会の前日までに参加料銀貨1枚(約1万円)を支払うこと。
そして今月の大会は明日からなので、今日が参加申請の期限となる。
参加料が少し高めなのは、冗談半分で参加することを防ぐ意味もあるらしい。
有象無象が出場すると収拾がつかなくなるしね。
そして優勝者はギルドからの賞金とは別に、この参加料を総取りできるとのこと。
大会には毎回100名前後が出場し、格闘士ギルドが各出場者の強さをを勘案しながら試合の組み合わせを決めていく。
相手の命を奪うような攻撃は禁止されているが、それでも毎回たくさんの怪我人が出るようだ。
各試合が賭けの対象になるので、毎月末、多くの観客が詰めかけておおいに盛り上がるとのこと。
まあどんな世界でも、娯楽は大切だからね。
「これはこれは、聖女様、わざわざお越し頂き心より感謝申し上げます。格闘大会にご参加下さるとお伺いしましたが、誠でございますか?」
しばらく受付で待っていると、両手で揉み手をしながら狐獣人の男性がやって来た。
前屈みの姿勢で腰も低く、少し上目遣いにルルさんを見ている。
彼の後ろには、先ほど慌てて席を外したウサギ獣人の受付嬢が控えていて、頭を下げた状態で動かない。
聖女様の相手は自分では荷が重いと思って、上司を呼んで丸投げしたって感じだろうか。
「狐ギルド長、その通りだ。明日出場する。私と、このウィンの2名参加だ。」
ルルさんの言葉を聞いて、僕は少し驚いた。
どうやらこの狐獣人は格闘士ギルドのギルド長のようだ。
どう見ても戦いを職業にしている人間には見えないけど。
ルルさんが「狐ギルド長」と呼んでいるところから判断すると、それほど親しいわけでもなさそうだ。
ヒョロリとした体型、腰の低い姿勢に揉み手、丁寧だけどどこか信用できない喋り方。
人を見かけで判断しちゃいけないんだろうけど、抜け目のない商人のような雰囲気を纏っている。
少なくても格闘士ギルドが似合うタイプじゃない。
まあ、戦闘向きじゃなくてもギルド長にはなれるのかもしれないけど。
「それはそれは、ありがたいことでございます。聖女様がご参加下さるなら、明日の大会はかつてない程盛り上がることでしょう。」
「私だけじゃないぞ。ウィンも出る。」
ルルさんが僕の方を指差しながら重ねて僕の出場をアピールすると、狐獣人のギルド長は、今初めて気づいたかのように目を瞬き、僕の方を見た。
「これはこれは、大変失礼いたしました。私など凡人は、聖女様を前にすると舞い上がってしまいまして、他のことが見えなくなってしまうのです。申し訳ありません、ウィン様。ウィン様も大会に出場するということでよろしいのでしょうか?」
言葉は丁寧だけど、明らかにルルさん以外はどうでもいいという感じ。
むしろ「聖女様がいれば十分なのでお前は必要ない」という心の声がヒシヒシと伝わってくる。
「狐ギルド長、言ったはずだ。ウィンも出場する。何か問題があるか?」
ルルさんの声が少し低くなった。
その声にギルド長が素早く反応する。
「いえいえいえいえ、何も問題などあるはずがございません。大歓迎でございますとも。ただ聖女様、ウィン様の強さが分かりませんとギルドとしても対戦が組めませんので・・・・・」
ギルド長の言うことはもっともだ。
おそらく対戦カードは実力の近い者同士で組んでいるのだろう。
強弱がはっきりし過ぎていると賭け事としては面白くないからね。
格闘士ギルドには僕の情報が何もないはずなので、何か判断基準が必要ということだろう。
「狐ギルド長、簡単だ。一番弱い者と組んでくれ。」
「さてさてさてさて、聖女様のお言葉とあればこのコンゲム、何なりと尽くさせて頂きますが、大会参加者は強者のみなのでございます。ウィン様に釣り合う相手を見繕えますかどうか・・・・・」
このギルド長、名前が「コンゲム」って言うんだね。
会話の最初がいつも「重ね言葉」なのは口癖かな?
それにしても、僕1人を出場させるくらい、どうってことないと思うけど。
何とか理由をつけて止めさせようとしてるように見えるよね。
なぜだろう。
「参加者の中で一番弱い者でよい。」
「それはそれは、聖女様、そうは申されましても、このコンゲム、聖女様の従者様にお怪我をさせる訳にも・・・・・」
「従者ではない。私のパートナーだ。」
ルルさんは、いつも通り僕のことをパートナー呼びする。
コンゲムさんは一瞬動きを止めたけど、すぐに会話を続行する。
「なんとなんと、聖女様、パートナーとはどのような意味でございましょうか? このコンゲム、いささか理解が追いついておらぬようでございまして・・・・・」
「パートナーはパートナーだ。このウィンとは共にパーティーを組んでいるし、この後の人生も共に歩んで行く。」
久しぶりに「ルルさん節」が炸裂してます。
可哀想に、ここまで何とか持ちこたえていたコンゲムさんも、口を開いたまま固まってしまいました。
「狐ギルド長、とにかく私とウィンを登録しておけ。ほら、参加料だ。」
ルルさんはそう言うと、固まったままのコンゲムさんの手に銀貨を2枚握らせた。
そして転移で『小屋』に戻った。
「タコさん、どうして怒ってるの?」
ルルさんと僕とタコさんで『小屋』に転移で戻ると、なぜかタコさんがプンスカしていた。
よくよく聞いてみると、せっかくポンポンまで準備したのに、応援できなかったのが気に入らないようだ。
でもタコさん、それは自分の確認不足では?
今日は登録だけだから応援は必要ないよね。
僕もなぜタコさんがポンポンを持ってるのか不思議だったんだけど、従魔たちの行動にいちいち疑問を抱いてたらキリがないし、あえて何も言わなかったんだよね。
えっ?
これからは気づいたら指摘しろって?
分かったよ、タコさん。
でも気づいたらね。
ほとんどはスルーしちゃうと思うけど。
タコさん対応はそれくらいにして、僕はルルさんの行動に疑問があったので尋ねてみた。
「ルルさん、なぜ僕の対戦相手に弱い人を指定したんですか?」
「それはな、ウィンが世の中の普通を理解していないからだ。」
「どういうことですか?」
「ウィン、格闘大会に出場するメンバーはそれなりに強い。」
「そうなんでしょうね。」
「騎士や宮廷魔導士や名のある冒険者たちは参加しないが、それでも市井には事情持ちの強者がたくさんいる。」
「それもなんとなく分かります。」
そこでルルさんは、ちょっと間を置いて僕の目を見つめた。
視線だけで「本当に理解してるのか」と確認された感じだ。
そしてルルさんは会話を再開した。
「例えば、ウィンが大会でいきなり強い相手と対戦したとする。」
「はい、対戦したとします。」
「ウィンはあっさり勝つ。」
「あっさり勝てるんですか?」
「そしてウィンは、ああたまたま弱い相手に恵まれたんだなと考える。」
「そうかもしれません。」
「それでは意味がないんだ。」
「意味がないんですか?」
「そうだ。弱い相手から順番に勝っていって、この世界の基準を理解しろ。」
う〜ん、分かったような分からないような。
この世界の強さの基準とか、知る必要があるんだろうか。
そもそも魔物相手でも人相手でも、そんなに戦うつもりはないんだけどな。
僕はルルさんとは違って、戦闘狂ではないので。
「とにかく、明日は大会で優勝しろ。」
ルルさんは煮え切らない僕の表情を見ながらそう言った。
そうだった。
本来の目的を忘れるところだった。
優勝しなければ「神様」に会えないんだった。
でもそれなら・・・・・
どうしてルルさんも参加料を払ったんだろう?
これだと、ルルさんを倒さないと優勝できないんですけど。
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