200.生まれたての子牛?(子鹿ではなく?:ルル語)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(200)
【アマレパークス編・白の森シルワ】
200.生まれたての子牛?(子鹿ではなく?:ルル語)
『魅了(極)』の発動に失敗した僕は、しばらく無言でうなだれていた。
ちょっと気合が入っていた自分の姿を思うと、なんだかとても恥ずかしい。
それにしても「中の侍」さん、補足事項を伝えるの、遅すぎじゃない?
(友好度100%の相手には効かない。)って、けっこう重要な情報だと思うけど。
…面目次第もござらぬ・・・・・…
まあ、大事に至るたぐいのことじゃなかったからいいけど・・・
次からは僕も特殊な補足事項がないか、よく確認しよう。
そんなことを考えていると、
「「ウィンさん、大丈夫ですか?」」
黙り込んだ僕を心配して、フィオーレさんとミエーレさんが同時に声をかけてきた。
親子だけに見事にハモっていた。
「花畑エルフ、小娘エルフ、気にするな。いつものことだ。」
ルルさんは僕の行動に慣れているので気にする素振りは全くない。
でも食事までご馳走になったのに、まだ二人の名前を覚えてないんですね。
正確に名前を呼ぶようになる境界線がどこにあるのか、未だによく分かりません。
「据え膳食べ放題〜、串焼き食べ放題〜。」
リベルさんは訳の分からない歌を口ずさんでいる。
僕が言い訳に使った『無料スキル(無料で食べ物が手に入る)』をまだ信じてるんだろうか。
でもどこかで聞いたことのあるメロディーだな。
どこで聞いたんだろう?
「ところでウィン、どうするんだ?」
「えっ、何を?」
「求婚されたら返事が必要だ。それが常識だろう。」
えっ、ルルさんに常識を説かれた?
言ってることは至極まともなことだけど、ルルさんに言われると何か納得いかない気分になる。
それにしてもせっかく話題が逸れてたのに、ここでまだ元に戻すんですね。
まあ、誤魔化す訳にはいかないよね。
「分かりました。僕の正直な気持ちを話させて頂きます。」
僕はそう前置きして、フィオーレさんとミエーレさんの方を向いた。
「フィオーレさん、ミエーレさん、とても光栄なお話ですが、僕はまだそういうことはまったく考えていません。まだまだやらなきゃいけないことがいっぱいあるんです。この世界を隅々まで見て周りたいし、まだ知らないことをたくさん吸収したいし、もっと色々な経験を積みたいし、それに何より、自分自身が何者であるかを探さなきゃいけないんです。」
僕の身の上を知らないフィオーレさんとミエーレさんには理解しにくい説明だったと思う。
特に最後の「自分探し」の部分は。
それでも2人は、黙って僕の話を聞いてくれた。
そして僕の話が終わると、すぐにルルさんが話し出した。
「つまりこういうことだ、花畑エルフ、小娘エルフ。」
フィオーレさんとミエーレさんがルルさんを見る。
「ウィンはな、まだ生まれたての子牛のようなものだ。」
生まれたての子牛?
子鹿ではなく?
「生まれたての子鹿」は確か、フラフラして頼りないことの例えだよね。
足がプルプルしてるイメージ。
でも「子牛」だとどうなるんだろう?
この世界だと表現が違うんだろうか。
「ウィンさんが生まれたての子牛というのは、どういう意味でしょうか?」
ルルさんの言葉に対して、フィオーレさんが不思議そうにそう呟いた。
ミエーレさんもよく分からないって顔をしている。
やっぱりこの世界でもそんな言い回しはないのだろう。
ルル語(ルルさん独自の言葉の使い方)だな。
「ウィンはこれからまだまだ大きくなる。育ってから食べた方が、たくさん食べられるし、美味いぞ。」
ルルさんはそう言うと、ニヤリと笑った。
ルルさん、言いたいことは分かりますが、相変わらず言葉のチョイスが紛らわし過ぎます。
もう少しどうにかなりませんか?
「聖女様、よく理解しました。焦り過ぎるなということですね。家宝は寝て待てと。」
フィオーレさんが深く頷きながらそう言った。
そうか、あれで理解できちゃうんですね。
でもちょっと例えが違う気がしますが。
まあ、窮地を脱したのであれば文句はありませんけどね。
毎回、ルルさんの意味不明な説得力には感心させられます。
「そういうことだ。ではご馳走になった。これで失礼する。」
ルルさんはそう言うと、ヒラリと体を回転させて扉に向かい、そのまま外に出てしまった。
僕は呆気に取られてただルルさんの背中を見送っていた。
なんと見事な戦線離脱。
ていうか完全に置いて行かれた。
僕もこのタイミングで撤退しないと。
「フィオーレさん、ミエーレさん、ご馳走様でした。とっても美味しかったです。ではまた。」
僕はそう言って頭を下げると、ルルさんの後を追いかけた。
花で飾られた門をくぐって通りに出ると、ルルさんがそこで待っていた。
「ウィン、意外に早く出て来たな。」
「話が長引くと面倒そうだったので。」
「そうだな。血を取り込むことに関しては、エルフたちは熱心だからな。」
「そうなんですか。確かにメルママもそんな感じでしたけど。」
「エルフは長生きで子供が少ない。そして強い血が好きだ。」
ルルさんの説明は相変わらず短いので、一瞬理解しにくいけど、言葉を吟味するとだいたい分かる。
長生きで子供が少ないってことは、寿命が長いと生殖能力は落ちるってことかな?
確かにどこかでそんな話を聞いたことがあるような。
長寿で多産だと果てしなく人口が増えるので、自然の摂理でそうなってるのかもしれない。
それから強い血が好きと。
それだけ聞いたらなんか吸血鬼みたいだけど、要は子供が少ないので種族強化のために優秀な遺伝子を欲しがるってことだろう。
まあ、理解できなくもない。
逆に寿命が長くなると、恋愛とかはどうでも良くなるのかもしれないな。
恋愛って、気の迷いというか勘違いというか過度の幻想というか、そういうものがないと燃え上がらないからね。
長生きしてると、そういうものって薄れてしまう気がする。
そんなことを考えていると、後ろからあの変な歌が聞こえてきた。
「串焼き食べ放題〜、お肉も食べ放題〜、魚も食べ放題〜。」
そう言えば、リベルさんとスラちゃんのことをすっかり忘れてた。
リベルさんはどうでもいいけど、スラちゃんを置き去りにしたのはちょっと失敗したな。
そう思って振り返ると、そこにはリベルさんとスラちゃんの他にもう一人、フェイスさんが立っていた。
いや正確にはフェイスさんの胸にスラちゃんが抱っこされていた。
フェイスさん、いつの間に戻って来たのかな?
それから、スラちゃんとフェイスさん、いつの間にそんなに仲良くなったのかな?
そんなことを思いながら僕はスラちゃんを見つめた。
いや、けしてスラちゃんの背後にあるフェイスさんの胸を見つめている訳じゃありません。
まあ必然的に視界には入りますけど。
「ウィン、何を見ている?」
心の中で自分に言い訳をしていると、背後からルルさんの低い声が響いた。
そしてその声に続いて、こめかみを激しい痛みが襲った。
「中の侍」さん、お願いですから『ぐりぐり耐性』クエストを作ってもらえませんか。
マジで痛いんです。
ルルさんのぐりぐり。
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