197.世界樹の意志(森の幸:フィオーレ)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(197)
【アマレパークス編・白の森シルワ】
197.世界樹の意志(森の幸:フィオーレ)
「食前チーズ2種」の次には、「お花畑のサラダ」が出てきた。
緑色の野菜サラダの上に、食用花がお花畑のように散らされている。
フィオーレさんらしい演出だなと感心する。
一方、大口を開けてチーズをパクリと食べたスラちゃんは、サラダに関しても触手を器用に使いながらフォークでパクパク食べている。
初めて見たスラちゃんの口にかなり驚いたけど、本人に確認してみると、タネ明かしはとても単純だった。
「スラちゃん、口あったっけ?」
「リン(ない)。」
「でも今、口で食べてるよね。」
「リン(擬態で)、リン(可能)。」
「擬態で口があるように見せてるってこと?」
「リン(そう)。」
「どうして?」
「リン(みんなと)、リン(同じ)。」
いつもは鉱石の上に被さるようにして体内に取り込み、シュワシュワして吸収しているスラちゃんだけど、今回は他のみんなと同じ食べ方に挑戦してみたようだ。
『擬態』の能力で、体を変形させてるらしい。
みんなと同じがいいとか、なんか、ちょっといじらしいよね。
スラちゃんからすれば、単なる興味本位なのかもしれないけど。
3皿目は、「3種のきのこのポタージュスープ」だった。
乾燥きのこの出汁に、香り系きのこと旨味系きのこを加えてポタージュ仕立てにしたものだ。
フィオーレさんによると、きのこの組み合わせ方が各家庭によって違うとのこと。
味噌汁の具や味が地域や家によって異なるみたいな感じだろうか。
メインは、「森うさぎのパイ包み焼き」。
焼き立ての状態で供されたそれは、香ばしい匂いが食欲をかき立てる。
でもリベルさん、涎は垂らさずに飲み込んで下さいね。
仮にも元勇者なんですから。
最後のデザートは、「天然桃のタルト」だった。
もちろん、ほっぺが落ちそうなほど絶品だったけど、僕はそのネーミングが気になってフィオーレさんに質問した。
「フィオーレさん、天然桃ということは、他に栽培モノもあるってことですか?」
「はい、今日助けていただいた花畑と同じように、森の中には果樹園もあるんです。野菜やきのこも栽培してますよ。」
「でもこれは果樹園のものではないと?」
「ええ、自然に実ってるものを採取しました。」
「味が違うんですか?」
「不思議なんですが、同じ森の中で育ったものでも、天然モノの方がはるかに味がいいんです。果樹に限らず。」
「じゃあみなさん、天然モノを探し回るんじゃないですか?」
「それが・・・・・天然モノをみつけるのは、運任せと言いますか、なかなか難しいんですよ。」
天然モノは数が少なくて稀少品なのかなと思ったら、どうやらちょっと事情が違うらしい。
詳しく話を聞いてみると、簡単に見つかる時と、いくら探しても見つからない時があるとのこと。
例えばお世話になった人にお礼をしたいとか、久しぶりに帰郷する我が子に美味しいものを食べさせたいとか、そういう時は簡単に見つかる。
でも商売のためにたくさん採取して売ろうとか、誰かに取り入るために手土産にしようとか、そういう時は絶対に見つからない。
また一度見つけた場所に後日また行っても見つからなかったり、たくさん取りすぎると持ち帰る前に腐ったりもするらしい。
森エルフの間では、世界樹が森の幸をコントロールしていると信じられているとのことだった。
「実はここ数日、森の中で天然の野菜や花、きのこ、桃と立て続けに見つけてしまったんです。理由が分からず困惑してたんですが、今日、ウィンさんたちに出会って、ようやく納得がいきました。」
そんなことがあるんですね。
これはルルさんに言われた通り、フィオーレさんの好意を受け入れて良かったかも。
逆に食事を断ってたら、世界樹の怒りに触れてたかもしれない。
「私(世界樹)のお膳立てを無駄にするのか」って感じで。
あっ、だからお礼の食事を承諾した時、フィオーレさん、ホッとしてたのか。
そんなことを考えていると、料理を前にして言葉を発することもなく、ただ食べることだけに集中していた右隣の元勇者が口を開いた。
「ウィンさん、据え膳、逃さなくて良かったですね〜。美味しくて最高です〜。」
うん、リベルさん、今回は認めましょう。
あなたは間違ってなかった。
この料理は食べるべき料理だったんだね。
世界樹の意志に沿うという意味で。
リベルさんのこと、ちょっとだけ見直したかも。
言葉のチョイスは、考え直して欲しいけどね。
「ウィンさん、酒鑑定についてお伺いしても構わないでしょうか?」
全員がデザートの「天然桃のタルト」を食べ終わると、フィオーレさんがテーブルの対面に座り、そう話しかけてきた。
ミエーレさんはワイングラスと花酒のボトル(たぶん)を持って、食後酒の準備をしている。
「どうぞ、構いませんよ。」
僕が了解の意を伝えると、フィオーレさんの質問が始まった。
「失礼ですが、ウィンさんの酒鑑定のレベルを教えて頂いてもよろしいですか?」
「はい、上級です。」
「まあ、テイマーや魔術師だけでなく、鑑定士としても一流なんですね。」
「そうなんですか? 実はその辺の基準がよく分かってなくて。」
僕がそう答えると、フィオーレさんは意外そうな顔をして、一瞬言葉を失った。
酒鑑定(上級)を持ってるのに、社会におけるその位置付けが分からないって、誰が聞いてもおかしな話だろうからな。
「ママ、ウィンさん、凄いけど変わってるから、お話しするなら常識は捨てた方がいいよ。」
黙り込んだフィオーレさんに、ミエーレさんがアドバイスを送る。
えっ、ミエーレさん、そんなふうに思ってたの?
アマレの港で話した時は、普通に接してくれてた気がするんだけど。
しかも「常識は捨てた方がいい」って、結構なパワーワードだよね。
なんだかちょっとショックかも。
「ミエーレ、本人の前でその言い方は良くないわよ。」
「大丈夫よママ、ウィンさん、変わってるけどいい人だし。それに凄いのよ。鑑定スキルだけで5種類も持ってるの。」
ミエーレさんはそう言うと、僕にニッコリと笑いかけた。
その笑顔を見ただけで僕の落ち込んだ気持ちがかなり回復した。
男って単純だよね。
自分で言うのも変だけど。
「ミエーレ、鑑定5種持ちなんてあり得ないでしょ。あの伝説の大商人でも4種持ちなのに。」
「嘘じゃないわ。ウィンさんに直接聞けば。」
あの伝説の大商人?
もしかしてジャコモさん?
ジャコモさんの鑑定スキルってなんだったっけ?
そんな疑問が頭に浮かぶと、
…表示するでござる…
○ジャコモ
植物鑑定(上級)・鉱石鑑定(上級)・武具鑑定(上級)
人物鑑定(中級)
視界にジャコモさんの鑑定スキルが表示された。
一度鑑定した結果は、何度でも見る事ができるのは知ってたけど、部分表示も可能だったんだね。
…うぃん殿、左様にござる…
これは鑑定についても使い方を検証しないといけないなと考えていると、女性の真剣味を帯びた声が僕の耳に届いた。
「ウィンさん、本当に鑑定スキルを5つ持っているんですか?」
顔を上げると、フィオーレさんが怖い表情で僕を睨んでいた。
えっ、フィオーレさん、怒ってる?
怒らせるようなこと、何かしたっけ?
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