196.スライムに口はあるのか(食前チーズ2種)
見つけて頂いてありがとうございます。
第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(196)
(アマレパークス編)
196.スライムに口はあるのか(食前チーズ2種)
森エルフの女性が2人、向かい合って話をしている。
背景には季節の花々で飾られた可愛らしい家。
庭にもベランダにも、手入れされた色とりどりの花が溢れている。
2人の外見はそれほど似ていない。
どちらかというと対照的だ。
だけどよく見ると、右手を腰に当てて立っている姿勢がそっくりだった。
「ミエーレったら、もう帰って来たの? 花酒はどうしたの?」
背の高い方の女性がそう質問する。
「ママ、全部売れたから帰って来たのよ。」
小柄な方の女性がそう答える。
「もう全部売れちゃったの? 凄いじゃない。ミエーレって、商才があるんじゃない?」
琥珀色の瞳の女性が驚いた表情を見せる。
「違うの。ほとんど全部買ってくれた人がいたのよ。」
緑色の瞳の女性が苦笑いする。
「ええっ、ミエーレ、それって、パトロンってこと? その年でパトロンはちょっと早いと思うけど、ミエーレがいいなら、ママは何も言わないわ。」
「ママ! 何言ってるの。そんなんじゃないから。」
「あらだって、そうでもなきゃ花酒を全部買い上げるような物好きなんてどこにいるっていうの?」
「ママ、そこにいるわよ。ママの隣に。」
シルワで花酒用の花の栽培をしているフィオーレさん。
シルワ出身でアマレの港で花酒を売っていたミエーレさん。
きっと何か関係があるんだろうなと思ってたけど、どうやら親子のようだ。
エルフの方々は年齢が推測しにくいので、親子なのか姉妹なのか祖母と孫なのか、見た目だけでは判断が難しい。
あっ、そもそもエルフ族が何歳くらいで子供を産むのかとか、何歳くらいまで子供を産むのかとか、恋愛観とか、結婚観とか、何も知らないな。
面と向かっては聞きにくいし、そのうち誰か教えてくれないかな。
「ウィンさん、あなたのことですよ。」
返事もせずにボーッと考え事をしていると、ミエーレさんに強く睨まれた。
声も低くなっている。
まずい、まずい、ここはきちんと対応しなければ。
「はい、ミエーレさんの花酒をほとんど全部買い上げた物好きです。」
そう答えると、ミエーレママのフィオーレさんが僕の方を見て目を見開いた。
「まあ、ウィンさんが・・・・・。そうなんですね。ふつつかな娘ですが、よろしくお願いします。」
「フィオーレさん、それ、違いますから。僕はお酒をたくさん買う物好きであって、パトロンではありません。」
フィオーレさんがとんでもないことを言い出したので、僕は慌てて否定した。
メルママといい、ミエーレママといい、エルフ族のママさんってみんなこんな早合点系なんだろうか。
いや、早合点系を装ったしたたか系のような気もする。
「フフフ、分かってますよ、ウィンさん。ちょっと揶揄ってみただけです。」
「フィオーレさん、そういう冗談は勘弁してください。」
「でもミエーレもなかなかのものだと思いませんか? あと50年もすれば立派に育ちますよ。」
あと50年って・・・
これ、エルフ族の普通の時間感覚なんだろうか。
それともエルフ流のジョーク?
フィオーレさんのあの笑顔を見ると、やっぱり揶揄われてるような気がする。
これって、冗談で返すべき?
それとも真面目に答えるべき?
そんなふうに対応に困っていると、いつもの人がいつものように割り込んできた。
「ウィンさ〜ん、据え膳まだですか〜。もうお腹と背中がくっついちゃうんですけど〜」
空気読めよ、「はらぺこ勇者」。
いや今回は・・・ちょっと助かったけど。
フィオーレさんの家は、室内も花で溢れていた。
森エルフの家はどこもそうなのかと思って尋ねてみたら、そういう訳でもないらしい。
フィオーレさんが特別花好きなだけとのことだった。
僕たちはダイニングの大きなテーブルの一辺に並んで座っている。
シルフィさんは引き続き情報収集に向かい、魔道具士の男性はギルドへの報告があるからと、食事を辞退して帰って行ったので、席についているのは僕、ルルさん、リベルさんの3人だ。
フィオーレさんとミエーレさんはキッチンで料理をしている。
ちなみにスラちゃんは・・・テーブルの上で球型になってコロコロしてる。
「そう言えば、ミエーレさんが売ってた花酒、フィオーレさんが造り手ですよね。」
「あら、そんなことまで娘が話したんですか?」
フィオーレさんはサラダの盛り付けをしながら、僕の言葉にそう返してきた。
「いえ、ミエーレさんは何も言ってません。僕が勝手に鑑定で観ました。」
「まあ、ウィンさん、酒鑑定ができるんですか?」
「はい。」
「あとでいろいろ聞かせてもらっても構いませんか?」
「もちろんです。」
そこで一旦、会話が途切れた。
まあ、あんまり話しかけて料理の邪魔しちゃいけないしね。
すると右隣の「はらぺこ勇者」が話しかけてきた。
「ウィンさん、フィオーレさんの手料理、楽しみですね。」
「そうだね。でもリベルさん、串焼きじゃなくていいの?」
「美味しければなんでも来いです。あっ、串焼きは別腹なので、あとでください。」
うん、相手にしなければよかった。
串焼きは別腹って・・・さっき花コウモリの串焼き、たらふく食べてたよね。
リベルさん、串焼き専用の胃が別に3つくらいあるんじゃないのかな。
そんな感想を抱いていると、
「ウィン、私も魚貝定食は別腹だ。あとで頼む。」
左隣のルルさんからもまさかの別腹発言。
これからフィオーレさんの手料理をご馳走になるのに、みんなちょっと失礼過ぎる。
まあ、出された食事は全部平らげるだろうけどね、このメンツなら。
しばらく待っていると、フィオーレさんとミエーレさんがお皿を両手に持ってテーブルまでやって来た。
一人一人の前に並べられたお皿は少し小さめで、その上に木の匙が2つずつ載っている。
「食前チーズ2種です。ハードタイプとウォッシュタイプになります。」
フィオーレさんがそう説明してくれた。
確かに、木の匙の上にそれぞれ、一口サイズの固形物とトロッとした塊りが載せられている。
見た目は前の世界のコン○とモン・ドー○に似ている。
でもチーズって食前に食べるものだっけ?
「チーズは食後に食べるものじゃないんですか?」
「お店では食後に食べることが多いみたいですね。うちでは食前に食べます。家庭によって違うみたいですね。」
フィオーレさんが答えてくれた。
そういうものなんだなと思いながら木の匙を口に入れると、ちょっとびっくり。
どちらのチーズもとても熟成感があるのに、チーズにありがちなしつこさがない。
量が少ないせいかもしれないけど、口の中に強い味と香りが一瞬広がり、すぐに消えていく。
食感も一方がシャリっとしていて、もう一方は舌の上でとろける。
なんだか食べていて楽しくなってきた。
いいね、食前チーズ。
チーズの味を堪能していて、ふとあることに気がついた。
確かチーズのお皿、4つあったはず。
フィオーレさんとミエーレさんの両手に一皿ずつ。
2人とも一緒に食べる様子がないということは、4つ目は・・・・・
そう思ってルルさんの隣を見ると、スラちゃんの前にもお皿が並べられていた。
スラちゃんは、目の前のお皿をじっと見つめている。
どうしようかなと考えてるように見える。
スラちゃんって、チーズ食べれたっけ?
鉱石以外ではおにぎりをよく食べてるけど・・・
まあ、うちの従魔たち、魔物鑑定の食性表示無視して、ほぼ雑食になってるし、大丈夫かな。
しばらくスラちゃんを見守っていると、スラちゃんは何か覚悟を決めたように、一度プルルンと体を震わせた。
そして、体の一部を触手型にして伸ばし、その先でチーズが載っている木の匙をつかむ。
そのまま木の匙を自分の体の方に引き寄せると、スラちゃんのまんまるお目目の下に口のような裂け目が現れた。
あれっ、スラちゃん、口なんてあったっけ。
記憶にないんですけど。
そんなことを考えているうちに、食前チーズ2種は、スラちゃんの口の中に消えていった。
読んで頂いてありがとうございます。
徐々に読んで頂ける方が増え、励みになります。
誤字・脱字のご指摘、ありがとうございます。
ご感想を頂いた皆様、感謝いたします。
ブックマーク・評価を頂いた皆様、とても励みになります。
ありがとうございます。
次回投稿は11月29日(水)です。
よろしくお願いします。




