193.監視小屋にもなるようです(散歩:リベル)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(193)
【アマレパークス編・白の森シルワ】
193.監視小屋にもなるようです(散歩:リベル)
「スラちゃん、小屋を出せばいいの?」
「リン(主人)、リン(お願い)。」
理由は分からないけど、『小屋』を出すくらいはたいした労力でもないし、スラちゃんからのお願いなんてレア案件なので、言われたままに応じることにした。
「フィオーレさん、ここに小屋を出してもいいですか?」
僕は、少し前に『小屋』を出したのと同じ場所を指差して、フィオーレさんに確認した。
いきなり出すと、またルルさんに怒られそうな気がしたので。
「空いてる場所ならどこでも構いませんよ。」
直前に一度、出すところと消すところを見ていたこともあるのだろう、フィオーレさんは即座に承諾してくれた。
それじゃあ、改めて『小屋』を出しますね。
「小屋!」
別に声に出す必要はないんだけど、フィオーレさんに分かりやすいように僕は少し大きめの声でそう叫んだ。
するとさっきとまったく同じ場所に『小屋』が出現した。
「ウィンさん、これって本当に魔法なんですか?」
「魔法です。」
フィオーレさんの問いかけに僕は迷いなく断言する。
「見たことも聞いたこともないんですが。」
「それでも魔法です。」
フィオーレさん、どうしても気になるようだ。
まあ逆の立場だったら、僕も小一時間ほど問い詰めたくなると思う。
さて、スラちゃんの提案通り『小屋』を出したけど、次に何をすればいいんだろう?
そう考えてスラちゃんに尋ねようとしたところで、『小屋』の扉がゆっくりと開き始めた。
誰だろう?
自分で出入りできるということは従魔の誰かだよな。
ここは新規の設置場所だから、他の人は使用できないはずだし。
そう思って見ていると、開ききった扉の向こうにディーくんの姿が見えた。
でもなぜか扉から出て来ない。
「ディーくん、どうしたの? 自分で出られるよね。」
「あるじ〜、もう1人出したいから権限付与してくれないかな〜」
「もう1人? 誰?」
「リベルくんだよ〜」
ああ、そんな人、いましたね。
なんかすっかり忘れてましたけど。
確か『庭』で従魔ブートキャンプ中だったよね。
もう終了したのかな。
「いいけど、もう鍛え終わったの?」
「そんなことはないよ〜。まだ全然だよ〜」
まだ全然なのに連れて来るというのはどういうことだろう。
もしかしてリベルさんがここで起こってる問題の秘密兵器か何かなんだろうか?
「リベルさん、外に出してもいいの?」
「いいよ〜。たまに息抜きさせないともたないし〜。散歩みたいな感じかな〜」
散歩なの?
花畑問題とは関係ないの?
でもディーくん、リベルさんに対してその言葉遣いはどうなのかな。
まあ人間も「散歩」はするけどね。
リベルさん、もう飼い犬扱いみたいになってますけど、大丈夫ですか。
まあとりあえず、リベルさんにも権限付与しますか。
「ウィンさ〜ん、会いたかったです〜」
扉から出られるようになった途端に、ディーくんの後ろにいたリベルさんが飛び出してきた。
そして僕に抱きつこうとしたので、華麗なステップで避けてみた。
リベルさんの両手が空を切り、そのままバランスを崩したリベルさんは見事にすっ転んだ。
ちょっと大袈裟だよな。
昨日会ってるからまだ1日しか経ってないのに。
でも1日で相当やつれてるね。
それから喋り方がディーくんぽくなってる。
「痛いです〜。ウィンさん、避けるなんて酷いです〜。」
「リベルさん、とりあえず落ち着きましょうか。ブートキャンプ、どうですか?」
「ウィンさん、鬼がいます。従魔さんたちみんな鬼です。追いかけられてビリビリされたり、転がりまわってビシバシされたり、逃げ回ってゴンゴンされたり、吊るされたり、吹っ飛ばされたり、突撃されたり、シュワシュワされたり、もう限界です。だから串焼きくださ〜い。」
うん、長い前置きだったけど言いたかったのは最後の「串焼きください」だけだな。
まだまだ元気そうだね。
どんな訓練かだいたい想像つくけど、「シュワシュワ」ってなんだろう。
スラちゃんに溶かされたりしたのかな。
まあ興味ないけど。
「大変だったんですね。じゃあ串焼き出しますね。魚貝じゃなくて焼き鳥みたいなものですけど、いいですか?」
「はいください。すぐください。」
犬のように両手で「ちょうだい」しているリベルさんに、空間収納から取り出した「焼き鳥」を10本まとめて渡した。
もちろん、花コウモリ退治の戦利品だ。
「モグモグ、ウィンさん、モグモグ、これ美味しい、モグモグ、さっぱりしてて、モグモグ、でも肉汁が溢れて、モグモグ、塩味が効いてて、モグモグ・・・・・おかわりください。」
リベルさんはあっという間に「花コウモリ」の串焼きを10本食べきった。
在庫はたくさんあるので、ご要望にお応えしてさらに10本追加する。
そしてそのままリベルさんを放置して、ディーくんの方を向いた。
「ディーくん、スラちゃんに言われて小屋を出したけど、リベルさんの散歩のためだったの?」
「あるじ〜、違うよ〜。リベルくんはついでだよ〜」
「じゃあどうして小屋が必要だったの?」
「監視のためだよ〜」
監視のため?
『小屋』を置いておくと監視できるってこと?
ディーくん、詳しく説明プリーズ。
「あるじ〜、小屋の周囲の魔力は、小屋の中でも感知できるんだよ〜。リーたんが小屋の中にいても、洞窟の様子が分かるのと一緒だよ〜」
そういうことか。
ここに『小屋』を設置しておけば、花畑に何か異変があった時に『小屋』の中の誰かが気づくと。
『小屋』の中にはだいたいいつも従魔の誰かがいるから、それで対応可能ってことだね。
スラちゃん、ディーくん、ナイスアイデア。
「ということで、フィオーレさん、ここに小屋を設置しておいてもいいですか? (ゴン) 痛っ!」
「ウィン、何がということでだ! 自分の中だけで完結するんじゃない! ちゃんと説明しろ!」
ルルさんに頭を殴られた。
ルルさん、今、グーで殴りましたね。
当りどころが悪かったらどうしてくれるんですか。
言葉に出してる部分と心の声の区別がついていなかった僕が悪いのは確かですけど。
「フィオーレさん、すみませんでした。説明しますね。」
「いえいえ、だいたい理解できたので大丈夫です。この小屋があれば、皆さんが守ってくれるってことですよね。」
フィオーレさん、鋭い。
ていうか、これ殴られ損だよね。
フィオーレさん、ちゃんと理解してるし。
ルルさん、自分の勝手な判断で殴るの、やめてもらっていいですか。
「ウィン、花畑エルフが勘が良かっただけだ。万人に通用すると思うな。」
僕の不服そうな顔を見て、ルルさんがきっちり釘を刺してきた。
悔しいけど、正論なので反論できない。
ルルさん、そこで得意そうな顔するのやめてください。
余計にムカつきます。
「さあ、皆さん、問題は解決ですよね。それならすぐに食事に行きましょう。ウィンさん、次はエルフさんのお宅で食事ですよね。」
話をまとめるように、リベルさんがそう言った。
すでに追加の串焼き10本はその手から消えている。
それよりもどうしてリベルさんが食事のこと知ってるのかな。
こと「食べ物」に関しては天才的な嗅覚してるよね。
「リベルさん、あなたは何もしてないのでお礼の食事には参加できないと思いますけど。」
「ええっ、そんなバカな。ウィンさん、『据え膳食わぬは男の恥』っていうじゃないですか〜」
リベルさん、その言い回し、使い方が激しく間違ってますから。
特に女性たちの前で使うべきじゃないと思います。
勇者としての品性を疑われますよ。
まあ、とっくに疑われてるとは思いますが。
「勇者様、是非我が家にお越しください。食事を用意させていただきます。」
心の中で元勇者にツッコミを入れていると、フィオーレさんから予期せぬ言葉が飛び出した。
「フィオーレさん、リベルさんのこと知ってるんですか?」
「光の勇者様はエルフ族の間では有名ですから。」
「元勇者ですけどね。」
「ウィンさん、勇者様には『現』も『元』もないんですよ。少なくともエルフ族の中では。」
「そうなんですね。勉強になりました。ありがとうございます。」
僕が素直にそうお礼を言うと、フィオーレさんはフフフと笑った後で僕に言った。
「ウィンさん、あなたはとても不思議な人ですね。」
「どうしてですか?」
「聖女様と勇者様を従えているなんて、普通なら王族以外考えられません。でもそんな雰囲気はどこにもありませんし。」
「王族じゃないし、別に従えてませんよ。みんな勝手にいるだけです。」
「それは分かります。ルル様もリベル様も誰かの下につくようなタイプじゃありませんし。でもだからこそ、この状況が不思議で面白いんです。」
ルルさんはまあ、誰の下にもつかないだろうな。
『孤高の聖女』って呼ばれてるくらいだし。
でもリベルさんってどうなんだろう。
美味しいものさえ与えれば誰にでもついて行く気がするけど。
「フフフ、ウィンさん、リベル様はああ見えて頑固なんですよ。王様に命令されても、嫌なら従わないくらいに。」
あっ、フィオーレさんにも考えを読まれた。
そんなに顔に出てるかな。
それよりも、リベルさんが頑固?
王様の命令も聞かない?
命令するからダメなんじゃないのかな。
美味しいものをあげて、お願いすれば聞いてくれる気がするんだけど。
「ウィンさ〜ん、早く行きましょう。据え膳が逃げちゃいますよ〜」
フィオーレさん、本当にアレを「勇者様」と呼んでいいんですか。
エルフ族として、いろいろ大丈夫なんですか?
そんなことを考えていると、フィオーレさんの笑顔が少し引きつったような気がした。
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