191.お花畑の決闘(ディーくん vs 花小熊)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(191)
【アマレパークス編・白の森シルワ】
191.お花畑の決闘(ディーくん vs 花小熊)
それは、花コウモリではなかった。
全身花柄模様なのは同じだが、明らかにシルエットが違う。
コウモリ型じゃなくて、なんというか、小さいクマさん?
「魔物鑑定。」
考えてる暇があったら鑑定した方が早いので、『魔物鑑定』をかけてみた。
すぐに結果が表示される。
(鑑定結果)
○フロース・リトルベア(花小熊) ☆☆
体型 : 小型
体色 : 緑色
食性 : 雑食(花が大好物)
生息地: 森林
特徴 : 全身を花柄で偽装する。
咆哮で威嚇する。
腕力が強く、鋭く長い爪を持つ。
基本は単独行動。
おっとりしているようで好戦的。
可食(鍋物がおすすめ)
特技 : 花偽装・剛腕・切裂・威圧
種族がフロース・リトルベアで通称が花小熊。
シルエットから想像した通り、クマ型の魔物だった。
でも星2つなので、花コウモリよりかなり強いはずだ。
緑色の体に全身花柄で偽装してるので、花畑の中ではかなり視認しずらい。
特技が4つあるし、中でも『切裂』は要注意だな。
僕には斬撃耐性が無いからね。
「ウィン、任せた。」
「えっ?」
近接戦闘系の相手だし、花コウモリ討伐ではあまり出番がなかったので、てっきりルルさんが行くと思ってたら、いきなり「任せた」発言。
ルルさんどうしたんですか?
「花柄の小熊さんを殴るなんて、私にはできない。」
はいっ?
どの口からそんな乙女発言が出てくるんですか?
待望の星2つの魔物ですよ。
あんなに強い魔物と闘いたいって言ってたじゃないですか。
まあ確かに、ちょっと殴りにくい見た目ではありますが、見た目で差別するのは良くないんじゃないですかね。
ルルさんと僕がそんなやりとりをしている間、花小熊はぼんやり立ったままだった。
鑑定の「おっとりしてるようで好戦的」って、どう理解すればいいんだろう?
こちらから仕掛けなければ向かって来ないということだろうか。
でも「花が大好物」らしいので、放置しておくと花畑が食い荒らされてしまう。
僕はしばらく考えてから決心した。
よし、ディーくんに任せよう。
つまり、丸投げだ。
いや別に戦うのが嫌なわけじゃないよ。
クマ対決の方が面白いかなと思っただけで。
「ディーくん、カモン。」
僕がそう叫ぶと、光の粒子とともにディーくんが現れた。
そしてディーくんは、召喚される前から状況が分かっていたかのように、何も言わずに花小熊と対峙する。
大きさはほぼ互角だ。
シルエットもほとんど同じ。
違うのは体色。
茶色対花柄。
見た目はディーくんがちょっと劣勢?
でも実力では星3つのディーくんが優勢だ。
睨み合うディーくんと花小熊。
お互いに身動き一つせず、相手の目を見つめている。
クマ型同士、何か思うところがあるのかもしれない。
「ゴゴゴー」とか「メラメラメラ」とかの効果音が流れそうな場面だけど、周囲がお花畑なのでちょっと雰囲気がメルヘンしてる。
あっ、ディーくん、できるだけお花畑を荒らさないようにお願いね。まあ念話で伝わってると思うけど。
睨み合いの後、先に動いたのは花小熊だった。
花柄の両腕をゆっくり上げると、そこから何かがニョキっと伸びた。
おそらく『切裂』スキルに対応した長い爪だろう。
一方でディーくんは無手のままだ。
得意の剣は使わないんだろうか。
星1つ分のレベル差があるので、素手で十分ということかもしれない。
花小熊の体がゆらりと揺れたかと思うと、素早い動きでディーくんに迫る。
花柄の見た目からは想像がつかないような俊敏さだ。
背景のお花畑と花柄の体が重なって距離感が掴みにくい。
ディーくんに接近した花小熊がその右腕を斜めに振り下ろす。
ディーくんがギリギリで花小熊の長い爪をかわす。
かわしたところに花小熊の左腕が下から振り上げられる。
その攻撃もディーくんが紙一重で避ける。
どうやらディーくんは短距離の『転移』も使わないようだ。
純粋に体術で倒すつもりなのかもしれない。
しばらく、花小熊が攻めディーくんが守る展開が続いた。
しかし、花小熊の爪はディーくんにかすりもしない。
逆にディーくんは花小熊の『切裂』攻撃を余裕で見切っているように見える。
やっぱり実力差は明らかだ。
やがて花小熊に疲れが見え始めた。
心なしかスピードが落ちている気がする。
そして花小熊の右腕の振り上げが少し緩慢だなと思った瞬間、それまで攻撃をかわし続けていたディーくんが一歩踏み込んで右ストレートを花小熊のお腹に突き刺した。
「あっ!」
僕は思わず叫んでいた。
花小熊の花柄の体が宙を舞い、お花畑の上にドサリと落ちる。
これは・・・1発で決まってしまったかもしれない。
そう思って倒れている花小熊を見ていると、彼は(彼女かもしれない)意外と根性があった。
ディーくんの右ストレートを食らって吹っ飛んだにも関わらず、なんとか立ち上がったのだ。
そしてファイティングポーズまでして見せた。
花小熊、なかなかやるな。
これまでの攻防で実力差は分かっているだろうに、それでも諦めないあたり、ちょっと感動したよ。
花小熊はよろめきながらも体勢を立て直し、再びディーくんに向かって行く。
しかし、そこからは一方的な展開になった。
花小熊の攻撃は当たらず、カウンターでディーくんに倒される。
それでも花小熊は何度も立ち上がる。
「立て! 立つんだ花小熊!」
「気合いだ! 花柄!」
気付くと、いつの間にか僕は花小熊を応援していた。
隣でルルさんも花小熊を応援している。
だって、ディーくん、弱いものイジメしてる悪役にしか見えないし。
ルルさんと僕の声援が届いたのか、花小熊は死力をふりしぼるようにして立ち上がり、ディーくんの方に向き直った。
しかし、もう足取りはフラフラだ。
すると、ディーくんは一瞬で花小熊の懐に入り込み、最後の一撃を・・・・・と思ったら花小熊の両腕を掴んだ。
そして花小熊に何やら言葉をかけている。
花小熊はしばらくディーくんの言葉を聞いた後、戦意を失ったのかその場に座り込んだ。
どうやら戦闘は終了したようだ。
ディーくんは花小熊をその場に残したまま、僕たちの方に歩いてきた。
そして顔をしかめながらルルさんと僕に不満を述べた。
「あるじ〜、ちょっと酷くないかな〜。どうしてハナちゃんの応援してるの〜。ルルちゃんも酷いよ〜」
ごもっともです。
ディーくんを呼び出したのは僕なのに、相手方の応援をするなんて、従魔の主人としてあるまじき行為だよね。
ごめんね、ディーくん。
でもねぇ、展開がねぇ。
ほら、「判官贔屓」ってあるじゃない?
弱いのに頑張ってる方に感情移入しちゃうみたいな。
「クマさん、申し訳ない。でも花柄がどうしても不憫に思えてな。」
ルルさんも同じような言い訳をしてる。
ディーくんは納得のいかない表情をしてるけど、それ以上の抗議はしてこなかった。
「あるじ〜、ハナちゃん、弟子にしたから〜」
ん?
ハナちゃん?
弟子?
そう言えば、さっきもハナちゃんって呼んでたような。
「ハナちゃんって、あの花小熊のこと?」
「そうだよ〜。花小熊のハナちゃんだよ〜」
「そういう名前なの?」
「ディーくんが名前付けたんだよ〜」
「それで、弟子って?」
「ディーくんの弟子だよ〜。彼女、見込みあるし〜」
「あっ、性別は女性なんだ?」
「そうだよ〜。」
ということで花小熊のハナちゃんが仲間に加わった。
従魔の弟子だけど、従魔ではないらしい。
タコさんにとっての雷鰻みたいなものだろうか。
それからルルさん、なぜか大喜びしてハナちゃんのこと高い高いしてますけど、その子、長い爪出しますからね。
切り裂かれても知りませんよ。
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