189.空飛ぶお花畑(花コウモリ:Flos Bat)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(189)
【アマレパークス編・白の森シルワ】
189.空飛ぶお花畑(花コウモリ:Flos Bat)
「お花畑が・・・空を飛んでる?」
転移した先には、見たことがない光景が拡がっていた。
シルワの街から少し離れた森の中に、割と広く切り開かれた空間があり、その土地には色とりどりの花が咲き乱れていた。
おそらく森エルフの女性が言った「花畑」というのは、様々な種類の花を栽培するための場所なのだろう。
そして視線を上に向けると、そこにも色とりどりの花が咲き乱れて、いや、飛び回っていた。
一瞬、地面と空中に2層の花畑があるように錯覚してしまったけど、よく見れば空中を飛び回る花はコウモリの形をしている。
「何ですか、これ?」
「フロース・バット、通称花コウモリだな。」
隣に立っているルルさんに尋ねると、魔物の名前を教えてくれた。
花コウモリ?
それにしても、カラフル過ぎない?
全身に花柄が入ってるし、ベースの色も黄色とかピンクとかオレンジとか、目がチカチカしそうな色をしている。
ルルさん、それ以上の説明をする気がなさそうなので、とりあえず魔物鑑定しておこう。
(鑑定結果)
○フロース・バット(花コウモリ) ☆
体型 : 小型
体色 : カラフル(黄・ピンク・オレンジ・紫等)
食性 : 花食(果実も食べる)
生息地: 草原・森林(花のある所)
特徴 : 全身を花柄で偽装する。
音波(物理系)と超音波(精神作用系)を発する。
一定数のコロニーで行動する。
好戦的。(食事を邪魔すると激怒する。)
可食(鶏肉に準ずる)
特技 : 花偽装・音波
全身を花柄で偽装するコウモリって・・・・・メルヘンなのか不気味なのか微妙な感じ。
これも「中の女性」の趣味なのか。
いや、あれはクエストに関してだけで魔物には関係ないはずだ。
関係ないよね?
「ウィン、気を抜くな。音波が来るぞ。」
魔物鑑定を見ながら余計なことを考えていると、ルルさんから注意喚起の言葉が飛んできた。
魔物たちは空中で群れながら、時々地上の花畑に急降下して花を捕食する行為を繰り返している。
確かにあの数で花を食べられたら、花畑が全滅しちゃうよね。
「ルルさん、音波の威力は?」
「知らん。避けろ。」
はい、分かり易いアドバイス、ありがとうございます。
音波攻撃はフルーツラプトル以来だな。
何体かの花コウモリはこちらに気づいて警戒してるようだ。
なんて思ってたら、いきなり音波攻撃が飛んできた。
横っ飛びに回避すると、足元の地面が抉れてはじける。
花コウモリ、超好戦的なんですけど。
食事中を邪魔したからかな。
「ルルさん、どうやって討伐します?」
「火は避けろ。花が燃える。」
そうだよな。
炎系は延焼の恐れがあるから禁じ手と。
でも水系も花畑が水浸しになるし、風系も花を吹き飛ばしそうだし、石系や氷系も花を潰しそうだし・・・・・。
森に被害を与えず、花畑を守りながら戦うのって、かなり制約が多いんだけど、どうしたらいい?
「この花畑、普段はどうやって守ってるんですか?」
僕は一緒に転移して、今は背後の森の中に隠れている森エルフの女性にそう尋ねた。
「普段は結界の魔道具で守ってるんですが、壊れたみたいで。」
結界の魔道具か。
そう言えば、マッテオさんの葡萄農園も同じだった気がする。
この世界の畑や果樹園は、基本的に結界を使って魔物や野生動物から守ってるのかな。
「修理できますか?」
「いいえ。魔道具士じゃないと無理です。」
「魔道具士はどこにいます?」
「魔道具士ギルドです。」
「了解。転移。」
僕は状況を理解すると同時に森エルフの女性と共に魔道具士ギルド・シルワ支部に転移した。
花コウモリの音波攻撃は続いてるけど、ルルさんなら1人でも大丈夫だろう。
「ひゃっ!」
何の説明もなくいきなり転移したので、森エルフの女性は小さく叫び声を上げた。
突然、作業着姿の森エルフと普段着の僕がロビーに現れたので、ギルドの受付前にいた人たちは驚き、ざわついていた。
「時間がないので細かいことは後です。お名前は?」
「えっ、フィオーレです。」
「フィオーレさん、ここは魔道具士ギルドです。魔道具士に状況を説明して下さい。」
「はい。」
「その後できるだけ早く花畑に魔道具士を連れて来て下さい。」
「はい。他の冒険者の応援は?」
「必要ありません。じゃあ戻ります。」
僕はそう言って、フィオーレさんを魔道具士ギルドに残したままで、すぐに花畑に転移した。
時間をかけて詳しく説明するのは後でいい。
森の中の花畑に戻ると、ルルさんは『風壁』を器用に使って花コウモリたちを閉じ込めていた。
花コウモリたちは、四方と上下にある『風壁』に向かって音波攻撃をしているようだけど、崩すことはできないようだ。
ルルさん、これはもう『風壁』じゃなくて『風籠』、あるいは『風牢』と呼んだ方がいいかもしれませんね。
「ウィン、代われ。」
「どうしました?」
「魔力がもたん。」
「了解。」
花コウモリを取り囲むように、四方と上下に『風壁』を張り巡らすのは、さすがに魔力消費量が大きかったようで、ルルさんが選手交代をアピールしてきた。
僕はすぐにルルさんの役割を引き継ぎ、ちょっと考えて『風壁』の形を変えることにした。
六面体から球状に。
四角い鳥籠が丸い鳥籠に変形した感じかな。
「ウィン、相変わらず、器用な魔法操作だな。」
「いえいえ、ルルさんみたいに6つの風壁を同時に出して風の籠を作る方が器用だと思います。」
「あれは、音波攻撃を防いだり、花コウモリたちを逃さないようにしてたら、たまたまああなっただけだ。」
「たまたまでも、できるだけ凄いです。」
そんな話をしている間も、閉じ込められた花コウモリたちは、『風籠(球型)』から逃れようと、音波攻撃を打ちまくっていた。
しかし攻撃はすべて風の壁に吸い込まれて、そこでかき消されているように見える。
体当たりで壁を抜けようとした個体もいたが、もれなく弾き返されて空中でクルクルしていた。
さて、ここまではいいとして、この後どうすればいいんだろう?
カネバッタの時みたいに氷で固めて空間収納に入れるって方法もあるけど、空中でそれをやると、巨大な氷の塊が花畑の上に落ちる可能性がある。
花コウモリを討伐できても、花畑に被害を出せば本末転倒だよな。
「ウィン、焼けばいいんじゃないか。」
僕が頭を捻って討伐方法を考えていると、ルルさんがポツリとそう言った。
「焼くって、ルルさん、火は避けろって言ったじゃないですか。」
「普通ならな。でもあの『風籠』の中ならどうだ?」
そうか。
あの中なら炎は外部に広がらない。
あの中で燃やして、燃え尽きた後、その残骸だけ空間収納に入れれば、花畑にも森にも被害は及ばない。
でも・・・・・
「ルルさん、ちょっとグロくなりそうですけど、いいですか?」
「ウィン、魔物討伐とはそんなものだ。」
まあそうだよな。
この世界では、これが生存競争だし、躊躇してられないよね。
花が全滅すれば花を育てた人たちの生活が困窮するし、普通の人があの音波攻撃を受けたら死ぬこともあるだろう。
でもいきなり全部焼こうとすると、想定外のことが起こるかもしれないから、とりあえず試しに1体だけ焼いてみよう。
僕は『風籠(球型)』を維持したままで、その中の花コウモリ1体に狙いを定めて『炎』を発動してみた。
次の瞬間、その花コウモリは炎に包まれた。
そしてその炎が消えると、白い皿に載った何かが現れた。
あれっ?
今『炎』って念じたよね、『料理』じゃなく。
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