188.即殺案件かもしれません(聖女の膝枕)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(188)
【アマレパークス編・白の森シルワ】
188.即殺案件かもしれません(聖女の膝枕)
目を開けると、正面にルルさんの顔が見えた。
でも上下が逆になってる。
何が起こってるんだろう。
「ウィン、いったい何がしたかったんだ? 私の拳をまともに食らうなんて、らしくないぞ。」
ルルさんの言葉を聞きながら、少しずつ状況を思い出す。
そうだ。
『隠蔽』を試そうとして、ルルさんに殴られて、吹っ飛ばされて、世界樹の幹に激突して、そのまま気を失った?
でも打撃無効があるから、ルルさんに殴られてもダメージは入らないはず。
ということは、飛ばされた後の世界樹への激突が原因なのか。
そこは打撃とは判定されないってことだろうな。
そこまで考えて、今自分が置かれている状況に気がついた。
地面に倒れた状態で頭だけ何かの上に乗せられている。
何に乗せられているかというと、ルルさんの膝だ。
つまり、聖女の膝枕。
あっ、これ、聖女ファンに見られたら即殺案件だ。
「後頭部にはヒールをかけておいた。腹部はなんとも無かったがな。」
なぜかルルさんの言葉が苦々しげだ。
自分が殴った場所にダメージがなくて、世界樹にぶつかったところにダメージがあることに納得いかないのかもしれない。
でもルルさん、そこは気にするポイントじゃないと思います。
僕は慌てて上体を起こすと、ルルさんに向かい合う格好で正座した。
ルルさんは地面に正座した状態で膝枕をしてくれていたようだ。
「ルルさん、すみません。僕の説明不足でした。」
「何がだ?」
「隠蔽のスキルを試したかっただけで、ルルさんと戦うつもりは無かったんです。」
「ならば、先にそう言え。」
その通りだよな。
ルルさんの性格を考えれば、こうなることは予見できたはずだ。
この面倒くさがりで緩い性格、そのうちに痛い目を見るよね。
いや、すでに痛い目に遭ってるか。
「じゃあやってみろ。」
「何を?」
「隠蔽に決まってるだろう。」
「あっそうですね。隠蔽。」
ルルさんに言われて、僕はすぐに隠蔽を発動した。
正座したままで2人が見つめ合う。
ルルさんの視線はまっすぐに僕の目を捉えている。
「ウィン、今、隠蔽をかけたのか?」
「はい。」
「うっすらと魔力が覆ってるが、ウィンの姿は丸見えだぞ。」
やっぱりそうか。
初級だとルルさんの目は誤魔化せないんだね。
まあ、予想はしてたけど。
「初級だとダメですね。」
「そうだな。フェイスくらいの腕があれば、私でも見失うがな。」
フェイスさん、『隠蔽(極)』だからね。
これは何としても早くレベルを上げないとな。
でも誰を相手にすればいいんだろう。
従魔たちは当然騙されないだろうし、僕の周りの人たちには全員通用しない気がする。
「レベル上げ、どうしたらいいんでしょうか?」
僕は素直にルルさんに質問してみた。
するとルルさんから意外にまともな答えが返って来た。
「初級でも普通の人には効果があるだろう。あと、星1つの魔物にも効く。」
普通の人には効果ありか。
でもどんなふうに使えばいいんだろう?
初対面の人に挨拶して、隠蔽でいきなり消えて驚かせるとか。
それじゃあ子供のイタズラだよな。
そうなると星1つの魔物討伐だな。
戦闘中に隠蔽で目を眩ませて、有利に討伐を進める感じか。
魔物の集団の討伐依頼なら、一気にレベルをあげられるかもしれない。
「シルワの街で、魔物の討伐依頼とかありますかね?」
「冒険者ギルドに行けばあるだろう。」
「でも森に危害を加える生き物は入って来れないんですよね。」
「森に危害を加えなくても、人間に害を為す魔物はいる。」
そう言われればそうだな。
つまり、世界樹は森のことは守るけど、弱肉強食みたいな自然の摂理の中の現象にはノータッチってことか。
世界樹の判断基準は、森に害を為すか為さないか。
まあ、善悪とかが基準だとややこしいからな。
善悪なんて、立場によって簡単に逆転するし。
「ルルさん、冒険者ギルドに行ってみましょう。」
「いいぞ。」
そう話しがまとまったところで、少し離れたところから叫び声が聞こえて来た。
「誰か〜、助けてくださ〜い。」
声がした方を見ると、ひとりの女性が走りながら助けを求めている。
かなり切羽詰まってるように見えたので、僕はすぐに転移でその女性の前に移動した。
「どうされました?」
僕が声をかけると、その女性は突然目の前に現れた僕に驚いたのか足を止めて目を見開いた。
エメラルドのような瞳に白い肌。
真っ白な作業着のような服を着て、長い緑色の髪を両側で三つ編みにしている。
おそらく森エルフ族の女性だろう。
彼女は胸を押さえて呼吸を整えようとしながら、切れ切れの声で言葉を発した。
「どこかに、・・冒険者の方、・・いませんか?」
「はい、ここにいます。」
僕がそう答えると、その女性は僕の周りをキョロキョロ見回して言葉を続ける。
「どこに、いらっしゃい、ますか?」
「ここですけど。」
僕は自分で自分の顔を指差してそう答えた。
「本当に、冒険者の方、あっ、すみません。」
彼女はそう言うと、ようやく納得したのか僕の方に近づいてきた。
そして僕の脇をすり抜け、すぐ後ろに転移してきたルルさんに縋りついた。
「お願いします。助けてください。」
「どうした?」
「花コウモリが出たんです。花が全滅しちゃいます。」
「分かった。すぐ行こう。どこだ?」
「あっちの森の中の花畑です。」
うん、冒険者らしい格好をしていない僕が悪いと言えば悪いのかもしれないけど、ちょっと失礼じゃないかな。
ルルさんは、白い竜革の防具一式を装備してるから一目で冒険者だと分かるのも理解できるけど。
「ウィン、彼女を連れて転移してくれ。この方向の森の中の花畑だ。」
ルルさんはそれだけ指示を出すと、ひとりで先に転移した。
僕はまだ少し息を切らせている女性の隣に移動し、彼女に話しかけた。
「冒険者の、ウィンです。転移しますけど、驚かないで下さいね。」
僕は、「冒険者の」という部分を強めに主張しながらそう告げると、彼女と一緒に転移することにした。
誰かと転移する時は左腕のスラちゃんを『召喚解除』で一度『小屋』に戻している。
転移枠が+1しかないので仕方がない。
従魔は『召喚』でいつでも呼び戻せるしね。
転移目標はルルさんの隣を指定した。
一瞬で周囲の景色が変化して街の中から森の中に移動する。
そして転移を終えて視線を上げると・・・・・目の前には空を飛ぶお花畑が拡がっていた。
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