186.ストーカーがいるそうです(注:フェイスさんではありません)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(186)
【アマレパークス編・白の森シルワ】
186.ストーカーがいるそうです(注:フェイスさんではありません)
世界樹の根元に転移すると、そこには誰もいなかった。
世界樹の魔力が『癒し』から『防御』に変化した時点で、外にいた人たちは室内に一時避難したのだろう。
今はもう『癒し』に戻っているけど、まだ様子見してるのかもしれない。
「ウィン様、お疲れ様でした。」
誰もいないなと思っていると、どこからともなくフェイスさんが現れて、声をかけてきた。
さすが『隠蔽(極)』持ち。
声がするまで全然気付かなかった。
魔法感知でも簡単には見つけられないようだ。
ルルさんと僕は、森の異変を感じてすぐに転移したので、結果的にフェイスさんとメルさんとメルママさんを置き去りにする形になった。
まあ3人とも大人だし、それぞれ自分で対応するだろうと思ったからだけど。
でもカネバッタ討伐後は、『ヒール』のレベル上げに気を取られて、3人のことを完全に忘れていた。
「フェイスさん、すみません、放置したままで。」
「いえいえ、お気遣いなく。私のことは基本放置で構いません。勝手に動きますので。」
「そう言えば、フェイスさん、僕たちが転移する前にどこかに行きましたよね。」
「はい、魔力変化に関する情報を集めようとしたのですが、何かする前に終わってしまいました。」
そう言いながらフェイスさんは苦笑いのような表情を浮かべた。
フェイスさんなりに異変に対処しようとして動いたのに、情報を得る前に僕とルルさんがカネバッタを討伐しちゃった感じかな。
「それは、なんと言えばいいのか・・・すみません?」
僕は、何と言えばいいのかよく分からなかったので、とりあえず謝っておいた。
語尾が疑問系になっちゃったけど。
「いえいえ、対処は早いに越したことはありません。それにしても、改めて聖女様の言葉の意味が理解できました。」
「ルルさんの言葉?」
「はい、『ウィンは異常だ』の意味です。」
「どうしてですか?」
「いざという時の判断の速さ、行動の速さ、対処の速さ。普段の緩さとのギャップがたまりません。」
フェイスさんは今度はイタズラっぽく笑いながらそう言った。
その妖艶さに正直なところ、ちょっとクラっとしてしまった。
フェイスさんって、実は『魅了』持ちなんじゃないのかな。
それともこれって、素の大人の魅力?
「異常と言われるのは好きじゃありませんが、普通じゃないのは自覚してます。」
「ウィン様、もちろんお分かりでしょうが、聖女様も悪い意味で言ってる訳ではありません。我々の常識では測れないということなのです。」
それはよく分かってます。
ルルさんの単語の使い方がちょっと他の人と違うことも、彼女が僕に対してカケラほどの悪意も持っていないことも。
「ところで、メルさんとメルママさんはどうなりました?」
僕は残された懸案事項についてフェイスさんに尋ねてみた。
実のところ、ここに転移したら、また婿取り騒動に巻き込まれるんじゃないかと心配してたんだよね。
でも実際には、メルさんとメルママさんの姿は影も形もなかった。
「一旦、実家に戻られました。どうやらポルトの冒険者ギルドからこちらの冒険者ギルドに連絡があり、メルさんはすぐにポルトに戻らなければいけないようです。」
メルさん、呼び戻されたんだね。
有給休暇、使い果たしたのかもしれないな。
でもそれは僕にとっては朗報だ。
これでしばらくは追いかけて来れないだろうし、メルママからの婿入り要請も誤魔化せる。
「ただ、ウィン様に大事な報告事項があります。」
ちょっと安心していると、フェイスさんが話を続けた。
報告事項?
フェイスさんから?
いったい何だろう?
「メルさんとメルママさんがウィンギルドに入会されました。」
ええっ?
フェイスさん、何を言ってるのかな。
どうしてメルさんとメルママさんがそういう話になるの?
「お二人から入会希望が出されましたので、諜報ギルドの秘密の連絡網を使ってジャコモ様に確認したところ、『許可する』とのことでした。」
僕が疑問を口にする前に、フェイスさんは素早く状況を説明した。
いや、フェイスさん、そこは秘密の連絡網とか使わずに、スルーしてくれて良かったんだけど。
「でもなぜメルさんとメルママさんが入会することに?」
「メルさんは、『ルル様が入ってるなら当然私も入るわ。』とおっしゃってました。」
「メルママさんは?」
「メルママさんは『あら、何それ、面白そうね。私も入るわ。』とおっしゃってました。」
なんか勝手にギルド会員が増えていく。
現時点でジャコモさん、ルルさん、シルフィさん、ルカさん、フェイスさん、メルさん、メルママさんの7人か。
でも入会しても特にすることがないと思うんだけど。
そんなことを考えていると、僕の思考を読んだフェイスさんから追撃がきた。
「ウィン様、ウィンギルドの会員数は7名ではありません。現在11名となっています。」
ちょっと待って下さい。
僕のカウントより4名も多いんですけど。
いったい誰が、いつの間に?
「ジャコモ様からの報告によりますと、ネロ様とグラナータ様、リベル様とリーたん様が入会済みとのことです。」
リベルさんとリーたんは予想の範囲内だけど、なぜネロさん(冒険者ギルドコロン本部・ギルド長)とグラナータさん(同・副ギルド長)まで。
うん、もう考えるのはやめよう。
どうせジャコモさんが暗躍して、どんどんギルド会員を増やすつもりなんだろう。
気にしたら負けだな。
「さらにマッテオさんとアリーチェさんは返事待ちですが、間違いなく入会するだろうとのことで、すぐに13名になるとのことです。」
うん、繰り返すけど気にしたら負けだ。
でもジャコモさん、いったい何を目指してるんだろう。
老獪な大商人の考えることは、僕にはまったく分からない。
「ところでウィン様、話は変わりますが、ひとつ私見を申し上げてもよろしいでしょうか?」
突然フェイスさんが真面目な表情で話題を変えてきた。
もちろんどんな話でも承りますが、改めてそんな風に言われると、
ちょっと怖い気がします。
「構いませんよ。何でしょう?」
「影からウィン様を見守ってきた私の勘ですが、何かきな臭い匂いがします。」
フェイスさんはそう言うと、腕を組んで小首を傾げ、右手の人差し指を自分の頬に当てた。
普通ならあざとさが際立つ仕草だけど、フェイスさんがすると艶っぽさの方が勝っている。
でも言ってる意味は、「ストーカーしてたら妙なことに気付いた」ってことですよね。
「ウィン様、ちょっとおかしいと思われませんか?」
「何がでしょう?」
「『七色ワームの洞窟』でのワームの大量発生。『碧の海』の異変。『世界樹の森』の異変。ウィン様の周りで異変が多過ぎます。」
「普通はそんなに異変は起こらないんですか?」
「小さいものはよく起こります。でもこの規模の異変が続くことは非常に珍しいことです。しかもウィン様の行く先々で。」
それは、僕がトラブルメイカーってことかな?
それとも何らかの思惑が働いてる?
「誰かがわざと異変を起こしてる?」
「そうとしか思えません。」
「でも誰が? まさかセントラル?」
「セントラルならもっと直接的な行動に出ます。暗殺者を雇うとか。」
ああそうでしたね。
すでに誘拐と暗殺を仕掛けられました。
でもそうすると、他にまったく心当たりがないんですが。
「ウィン様、はっきり申し上げてもよろしいですか?」
「はい、もちろんです。」
フェイスさんはそこで少し溜めを作り、僕の目をまっすぐに見つめた。
こんな時に不謹慎だけど、なんかちょっとドキドキする。
そしてフェイスさんは、真剣な表情を崩さないまま、短く断言した。
「ウィン様には、ストーカーがいます。」
ええっと・・・・・それってフェイスさん自身のことではなく?
あるいは、ウィンギルドのメンバーではなく?
僕の知らないところで他にストーカーがいるってこと?
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