184.その頃、その頃、はらぺこ勇者は①(SIDE:リベル)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(184)
【アマレパークス編・白の森シルワ】
184.その頃、はらぺこ勇者は①(SIDE:リベル)
「ギャー、タコさん、一度に10体は多過ぎます〜。」
ボクは必死で逃げ回っています。
不思議な空間にある不思議な湖の中。
追ってくるのは10体の雷鰻。
そのうちの1体にタコさんが乗ってます。
ちょっとでも距離を詰められるとシビれるので、諦めて止まることもできません。
このブートキャンプ、ちょっと過酷すぎるんじゃないでしょうか。
こんにちは。
光の勇者、いえ、元勇者のリベルです。
種族はエルフ族、もう少し詳しく言うと海系のダークエルフです。
ボクは基本的に気が弱いんですが、同時に目立ちたがりという厄介な性格をしています。
そして血を見るのが大嫌いなくせに、光系の高い能力を持っていたために、『光の勇者』の称号を得てしまいました。
『勇者』の称号持ちは例外なく強力なスキルを授かります。
当然ボクにも勇者の称号に相応しいスキルが与えられました。
『勇者の剣』、『剣術(上)』、『光衣』、『光縛り』の4つです。
『勇者の剣』は、念じるだけで伝説級の剣がこの手に現れます。
万が一その剣を失うようなことがあっても、何度でも再現することが可能です。
『剣術(上)』は文字通り、上級の剣術を使うことができます。
たいていの相手はこのスキルを駆使して切り伏せることできるのです。
ただ性格的な問題で、ボクは接近戦がうまくこなせません。
だって、剣で切ったら血がドバァって出るじゃないですか。
その瞬間に間違いなく失神してしまう自信があります。
それくらい血が苦手なんです。
そういう訳で、ボクが使用するスキルはもっぱら『光衣』と『光縛り』となります。
『光衣』は完璧に近い防御系スキルで、これを発動すると物理も魔法も状態異常も防ぐことができます。
我ながら凄いと思います。
ただこのスキルには欠点もあります。
発動中の魔力とスタミナの消費が大きく、長時間維持できないのです。
そして使用後は必ず強い空腹感に襲われます。
一部でボクのことを『はらぺこ勇者』とか呼んでるようですが、それはすべてこのスキルのせいなのです。
えっ?
普段からたくさん食べてる?
そんなはずはありません。
すべてこのスキルが原因・・・だと思います。
そんな話はともかく、
『光縛り』は、ボクの性格にピッタリのスキルでした。
離れた場所から光の帯で相手を縛ることができます。
この帯は物理でも魔法でも切断することができません。
ですから一度縛られると、まず逃れることは不可能です。
逃れる方法としては唯一『転移』がありますが、転移系はとてもレアなスキルなので、ほとんど無視してもいいでしょう。
なぜかボクの周りに、2人ほど使える人がいますが、例外中の例外だと思ってください。
ボクはどちらかというとのんびり屋さんなので、積極的に争い事に参加することはありませんでした。
仲間の海エルフたちと一緒に狩りに出たり、漁に出たりするくらいです。
そういう時には、ボクの捕縛能力はとても重宝されました。
簡単に獲物を捕まえられますからね。
そんなのんびり生活に満足していれば良かったんですが、目立ちたがりの性格が災いして、ボクは大きな選択ミスをしてしまいます。
セントラルの勇者パーティー結成の勧誘に気軽に応じてしまったのです。
セントラルはこの大陸の中央にある大国で、政治、経済、宗教の中心地のような国です。
またこの国は軍事大国でもあり、戦力増強の一環として勇者パーティー確保に力を入れていました。
当たり前のことですが、勇者パーティーには『勇者』の存在が不可欠です。
しかし、『勇者』の称号持ちはとても数が少なく、簡単には見つかりません。
そしてたとえ見つかったとしても、セントラルの勧誘に応えるとは限らないのです。
当時、セントラルには勇者パーティーが3つありました。
逆に言うと、大国セントラルが総力をあげて探し回っても、勇者の称号持ちを3人しか確保できなかったということです。
そしてある日、どこで情報を得たのか、セントラルの勧誘員がボクのもとを訪ねてきました。
もちろん、勇者パーティーへの参加のお誘いです。
一部では「セントラルは勇者パーティーを戦争に利用するつもりだ」という噂も流れていましたが、戦乱がほとんど無くなった時代でもあり、ボクはすんなり承諾してしまいました。
けして勧誘員のお姉さんがとても魅力的だったせいではありません。
そのお姉さんが美味しい食事をたくさん奢ってくれたせいでもありません。
でも気づいた時には、ボクは書類にサインしてしまっていました。
こうしてボクは、『光の勇者パーティー』のリーダーとして、セントラルに移動することになったのです。
聖女ルルに出会ったのは、ボクを中心とした勇者パーティーのお披露目の式典でした。
ルルは有名だったので噂は聞いていましたが、実物を見るのはその時が初めてでした。
聖女なのに魔物を殴りまくるソロ冒険者。
『孤高の聖女』という称号を持ちながら、同時に『鋼の拳闘士』の称号を持つ女性。
ボクはどんな粗暴な女性が現れるのだろうと思っていましたが、実際の彼女は予想と大きく違っていました。
金色の短髪に強い意志を湛えた金色の瞳。
鍛え抜かれたスレンダーな体型。
真っ白な竜革で作られた全身装備。
まさに『光の勇者パーティー』のメンバーに相応しい輝くような容姿をしていました。
王族も、護衛の騎士たちも、パーティーメンバーも、誰もが彼女に見惚れました。
式典に参加した誰もが、ボクとルルがいれば最強の勇者パーティーになれるのではと期待したほどです。
でもその期待は、大きく外れていくことになります。
ボクとルルのコンビは、ある意味では最強でした。
ボクが捕縛し、ルルが殴り倒す。
どんな魔物の討伐依頼が来ても、接敵すればほとんど瞬殺です。
しかも中心メンバーの2人が、イケメン勇者と美貌の聖女。
『光の勇者パーティー』の人気は鰻登りでした。
あっ、一応ボクも、ちゃんとしてればイケメンなんです。
最近はちゃんとしてないことが多いだけで。
しばらくはパーティーの活動は順調でした。
少なくとも公務の部分では。
プライベートでは多少問題がありました。
それは、ボクとルルの性格がまったく合わないということです。
「ダラダラするな、ダメ勇者。」
ボクはよくルルにそう怒鳴られました。
ルルは戦闘狂なので、民間の依頼も受けてどんどん討伐に行こうと主張します。
ボクは国からの依頼がない限り、できるだけのんびり過ごしたいタイプです。
ほら人間って緩急が必要じゃないですか。
ボクの場合、ちょっと緩い時間が長いだけなんです。
でもその態度がルルには我慢できないようでした。
もちろんボクも言われっぱなしは癪に触るので言い返します。
「戦うことしか頭にないのか、バカ聖女。」
すみません。
ちょっと言葉遣いが悪いですね。
でも何度かそういう言い争いを繰り返しているうちに、勇者パーティーの雰囲気は少しずつ悪くなっていきました。
そしてある日、ルルは突然姿を消しました。
どうやら勇者パーティーでの活動に嫌気がさして逃げたようです。
しばらくの間、セントラルが教会を通じてルルの行方を探したようでしたが、結局見つけることができず、代わりの聖女が教会から派遣されて来ました。
その聖女はもちろん戦闘狂ではなく、普通の聖女でした。
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