178.これ、苦手かもしれません(カネバッタ:メタルム・ホッパー)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(178)
【アマレパークス編・白の森シルワ】
178.これ、苦手かもしれません(カネバッタ:メタルム・ホッパー)
「もぐもぐ・・・ウィン・・・もぐもぐ・・・やっぱり・・・もぐもぐ・・・串焼き、美味しいね。」
リーたんが幼女の姿に戻り、両手に串焼きを持ってもぐもぐしている。
馬車の中の食糧を全部食べ尽くしてお腹いっぱいだったはずだけど、串焼きは別腹らしい。
壊れたメルさんを前にして、本能が逃げろと訴えてきたけど、僕は思いとどまった。
考えてみれば、メルさん、リーたんのことを心配してくれただけだし、ここで逃げるのはさすがに人としてどうかと思ったから。
「あらあら、串焼きが大好きなのね。お名前はリーたんっていうのね。ウィン君を婿にしたらあなたは孫になるのかしらね。」
メルママさんがリーたんの頭を撫でながら、訳のわからない事を呟いている。
立ち直りの速さはさすがだけど、その独特の思考回路はどうにかなりませんかね。
婿願望はまだしも、リーたんが孫になるわけないでしょう。
彼女は僕の娘じゃないし、そもそも海竜なので。
「メル、リーたんが海竜だということは理解したか?」
「・・・・・」
ルルさんの問いかけに、なぜかメルさんは黙っている。
「メル、ウィンの凄さは理解したか?」
「・・・・・」
やっぱりメルさんは無言のままだ。
マシンガンが故障しちゃったんだろうか。
頭の中がショートしてしまったのかもしれない。
大丈夫かなと心配しつつメルさんの方を見ていると、しばらくしてようやくメルさんが口を開いた。
「ママ、私、ウィンと結婚するわ。そしていつの日か必ず、ウィンを倒す。」
ルルさんが右手の拳を握りしめながら、そう宣言する。
「まあまあ、メル、よく決断したわね。これはお祝いしなくちゃね。今夜はみんなで大宴会ね。」
メルママがメルさんの宣言を受けて、嬉しそうにはしゃいでいる。
ダメだ。
この親子、まともな話が通じない。
「倒すために結婚する」って、理解不能な思考回路だよね。
それを疑問も持たずに受け入れて、「お祝いしなくちゃ」ってなるのも、僕の常識から外れすぎている。
状況判断、ミスったな。
すぐに逃げれば良かった。
メルさんとメルママさんの異次元のやり取りに心の中で頭を抱えていると、突然、ものすごい悪寒が背筋を走った。
「何だこれ!?」
「ウィン、魔力の色が変わった。」
「ウィン様、私は一旦消えます。」
「ウィン、串焼きちょうだい。」
思わず叫び声を上げた僕に、ルルさんが魔力が変化したことを告げる。
それはもちろん、『世界樹』の魔力のことだ。
フェイスさんは僕に断りを入れてからすぐに姿を消した。
諜報のプロだけに、原因調査に向かったのかも知れない。
リーたんは・・・・・まだ食べ足りないようだ。
鈍感なのか、食い意地が張ってるだけか、魔力の変化など気にもならないのか。
まあ、リーたんらしいといえば、リーたんらしいけど。
「ウィン、世界樹の魔力が癒し系から防御系に変わった。森で何かあったかもしれない。」
「ルルさん、どうしましょう?」
「魔力は南の入り口方向に集中している。とりあえず、リーたんを小屋に戻して、二人で確認に行こう。」
「分かりました。」
短い打ち合わせを終えて、ルルさんと僕はシルワの森の南側に設置した小屋の前に転移した。
もちろんリーたんも一緒だ。
スラちゃんは転移前に『召喚解除』した。
とりあえず串焼きを10本渡してからリーたんを小屋の中に入れ、スラちゃんを再び左腕に装着する。
すぐにルルさんと森の南の入り口に転移すると、そこには僕の苦手な光景が広がっていた。
「ルルさん、僕、これ、苦手かもしれません。」
「どうしてだ? 小さくて弱い魔物だぞ。」
「でも・・・いっぱいいるじゃないですか。」
森の南の入り口付近には、小さな虫のようなものがウゾウゾと蠢いていた。
自分自身、初めて知ったけど、どうやら僕はこういうものが苦手らしい。
さっき、背筋に悪寒が走ったのは、世界樹の魔力の変化のせいというより、何らかの能力でこれを察知したのかもしれない。
「この魔物は、通称カネバッタだ。金属っぽい表皮がちょっと硬いだけで基本弱い。群れると多少面倒だが、冒険者にとって脅威というほどでもない。作物は食い荒らされるがな。」
ルルさんが目の前の魔物について説明してくれた。
でもこれ、魔物なんだね。
普通の虫かと思った。
確かに体表は金属っぽくキラキラしてるけど。
前の世界の知識でいうと、トノサマバッタではなくてショウリョウバッタくらいの大きさ。
とても小さい。
でも問題は大きさとか強さじゃなくて、このたくさん集まってウゾウゾしてる感じがもう生理的に受け付けない。
相手にしたくないなぁ。
「でもおかしいな。なぜ世界樹がカネバッタに反応するんだ?」
「魔物だからじゃないですか?」
「いや、森の中にも魔物はたくさんいる。カネバッタも普通にいるぞ。」
そうなのか?
でも僕にその答えが分かるはずもない。
ルルさんからの説明は聞いたけど、とりあえず魔物鑑定してみるか。
(鑑定結果)
○メタルム・ホッパー(カネバッタ) ☆
体型 : 超小型
体色 : 銅・銀・金(Sレア)
食性 : 雑食(メインは草食)
生息地: 草原・森林
特徴 : 金属に似た硬い表皮を持つ。
鋭い歯で対象物を細かく削って食べる。
普段は単体行動だが、危険を察知すると群れを作る。
非好戦的。
可食(唐揚げ・佃煮がおすすめ)
特技 : 群れ呼び・硬化
状態 : 異常
鑑定結果が表示された。
本来の名前は「メタルム・ホッパー」っていうんだね。
まあ「カネバッタ」のほうが覚えやすいけど。
ノーマル個体、レア個体、スーパレア個体が存在するようで、それぞれ体色が異なる。
一応可食になってるけど、この絵面を見て食べようと思う人がいるんだろうか。
少なくとも僕は無理です。
鑑定表示を見て、だいたいルルさんの説明通りだなと思っていると、最後に見慣れない項目があることに気付いた。
状態が異常?
初めて見る項目だ。
カネバッタに何らかの状態異常が起こっているんだろうけど、それがどんな異常なのか詳細表示はない。
「ルルさん、カネバッタ、状態異常になってます。」
「なるほどな、それで攻撃性が増したか。」
「どういうことですか?」
「普通のカネバッタには攻撃性はほとんどない。状態異常のせいで攻撃性が強くなり、理由は分からないがシルワの森を攻撃してるんだろう。だから世界樹が反応した。」
「じゃあ、森の中でカネバッタが暴れてると?」
「そうだろうな。ここにいるのは、世界樹が張った防御壁のせいで中に入れなかった個体だろう。」
森の中では状態異常のカネバッタたちが森の木々を食い荒らしてるんだろうか?
世界樹は、森の中にいるカネバッタを押さえ込むことができるんだろうか?
ルルさんは、世界樹の魔力が癒しから防御に変わったと言っていた。
でも防御だけで大丈夫なんだろうか?
世界樹に攻撃系の能力はないのだろううか?
そんなことを考えていると、ルルさんから次の指示が飛んできた。
「ウィン、カネバッタの状態異常の割合を確認してくれ。全部なのか、一部なのか。」
「了解です。」
僕はすぐに目の前のカネバッタたちを片っ端から鑑定した。
できるだけ視界を絞って、全体を見ないように気をつけた。
全体のウゾウゾを見てしまうと、鳥肌が立ちそうだったので。
「ルルさん、全部状態異常です。レア個体もちらほらいます。」
「分かった。とりあえずここはこのままで、森の中に転移しよう。」
ルルさんの次の指示を受けて、転移陣を発動しようとしたところで、視界の中に「中の侍」さんからのメッセージが流れた。
…新規のくえすとが達成されましたので表示するでござる…
○隠れクエスト
クエスト : 魔物を鑑定しろ①
報酬 : 質疑機能追加
達成目標 : 魔物を鑑定する(100体)
カウント : 325/100
新しい『隠れクエスト』の達成目標を満たしたらしい。
『隠れクエスト』は達成した時に初めて告知されるクエストだ。
今回は魔物鑑定に新機能が追加されるようだ。
でも『質疑機能』って何だろう?
…魔物鑑定の結果に対して、疑問点を追加で質問できる機能でござる…
うん。
展開に対して都合が良すぎる気がしないでもないけど、中の人たちの忖度じゃないよね。
まあ、忖度でも便利になるならいいけど。
そしてふと気が付くと、ルルさんの姿が消えていた。
しまった、置いて行かれた。
すぐに転移で追いかけないと。
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