177.リーたんと白パンと人身売買組織(世界樹の天罰?)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(177)
【アマレパークス編・白の森シルワ】
177.リーたんと白パンと人身売買組織(世界樹の天罰?)
「リーたん、いなくなってない?」
僕は周囲を見回しながら誰にともなくそう尋ねた。
「確かにどこにもいないな。」
ルルさんが僕の問いかけに答える。
「話に飽きて、どこかに遊びに行かれたのかもしれませんね。」
フェイスさんが淡々と推測を述べる。
「あなたたち、何呑気なこと言ってんの! 幼女がいなくなったのよ。すぐに探さないと。本当に誘拐されたのかもしれないじゃない。」
メルさんがちょっと興奮気味に叫ぶ。
「あらあらどうしましょう。メルの婿取りのことに気を取られて、彼女のこと見てなかったわ。手分けして探しましょう。」
メルママさんが心配そうに提案する。
実際のところ、ルルさんとフェイスさんと僕は、まったく心配してなかった。
だってリーたんだよ。
海竜のリバイアタンだよ。
彼女を害せる存在なんて、人でも魔物でもこの辺にはいないと思うし、どうしても見つからなければ、ルルさんか僕が彼女の側に転移すればいいだけの話だ。
でもメルさんやメルママさんは正確に状況を把握できてないようで、心配する様子もなく動き出そうともしない僕たちのことを不審に思っているようだ。
リーたんが海竜であることは説明したはずなんだけどな。
結局、しびれを切らしたメルさんが、僕を見て声を荒げる。
「ウィン、あなたが保護者なんでしょ。なんて無責任なの。あんな幼い女の子が行方不明なのに、その態度は何なの? 人は緊急時にその本性が出るっていうけど、あなた、本当に人でなしね。慌てふためくとか、頭を下げて捜索の手伝いを頼むとか、彼女の名前を大声で叫ぶとか、そういう人間的な部分はないの? いったいこの馬の骨のどこがいいのか、ルル様の気持ちが理解できないわ。」
「メル、ウィンの良さはな、普通の人間に簡単に理解できるものじゃない。」
ルルさんがしたり顔でメルさんにそう告げた。
ルルさん、それって褒めてます?
貶されてるようにしか聞こえませんが。
でもとにかく、メルさんがうるさいのでリーたんを連れ戻そうかな。
転移を使えば一瞬だしね。
* * * * *
(天視点)
その頃リーたんは・・・・・本当に誘拐されていた。
幼女専門の人身売買組織の二人組に。
「兄貴、上玉が手に入りましたね。」
「そうだな。まさか白パン1つでホイホイついて来るとは思わなかったな。」
「まったくです。見た目は上流階級の娘っぽいんで、ちょっと難しいかと思ったんですがね。」
「まあ、所詮は子供ってことだろう。でもなぜこんな幼女が1人でウロウロしてたんだろうな。」
「本当ですよ。親は何をしてるんだか。なっちゃいないですよね。自分の子供のことくらい、しっかり見とけってんですよ。」
「そうだな。まあ、その子供を誘拐してる俺たちが言うことじゃないがな。」
諜報ギルドのエース、フェイスが推測した通り、リーたんはウィン達の話に飽きてひとりでテクテク世界樹の周りを歩き回っていた。
お腹が空いたので串焼きの屋台がどこかにないか探していたのだ。
串焼きならウィンにお願いすれば貰えるのだが、何やら話し合い中だったので遠慮したようだ。
それくらいの気遣いはできるリーたんだった。
しばらく歩き回ってみたけど、結局リーたんは屋台を発見できなかった。
たとえ屋台を見つけたとしても、リーたんはお金を持っていないので串焼きを買うことはできないのだが、その辺は海竜なのでよく分かっていない。
仕方がないのでウィンの所へ戻ろうかなと考えていると、見るからに怪しい男がリーたんに話しかけてきた。
普通なら警戒するところだが、彼女にとってはこんな弱い生き物は怪しくても警戒対象にならない。
それよりもその男が右手に持っている白いものの方が気になった。
「お嬢ちゃん、ひとりでどうしたのかな?」
「お腹が空いただけ。」
「それは大変だね。ご両親はどうしたのかな?」
「いないよ。」
「迷子かな?」
「迷子って何?」
ウィンのおかげで、長い引きこもりからこの世界に出てきたリーたんは、一生懸命いろいろな知識を吸収中だが、「迷子」という言葉はまだ知らなかった。
リーたんとのやりとりで周囲に保護者がいないと判断したその男は、彼女を食べ物で釣ることにした。
「ちょうど白パンがあるけど、食べるかい?」
「食べてもいいの?」
「もちろんだよ。ほら。」
男はそう言いながら白パンをリーたんに渡した。
リーたんは少し匂いを嗅いでから、その白パンをぱくりと食べた。
串焼きのような強い味はしなかったけど、ふんわりした食感がリーたんにとっては新鮮だった。
「これ、美味しい。」
「そうだろう。上等な白パンだからね。あっちの馬車にもっとあるけど、食べるかい?」
「うん。」
リーたんはこうして人身売買組織の馬車に拉致された。
本人にはまったくその自覚はなかったが。
「この子、高く売れそうですね。」
「そうだな。これならギルドを通さなくても買い手がつきそうだ。」
「ギルド、手数料が高いですもんね。」
「まったくだ。まあ、表沙汰にできない商売だからしょうがないがな。」
「でも元手が白パン数個なら、大儲けですね。」
「ああ、うまく行く時は、うまく行くもんだな。」
馬車に揺られながら人身売買組織の二人は上機嫌だった。
幼女の誘拐は簡単そうに見えて実はかなりハードルが高い。
そもそも売り物になりそうなレベルの幼女がなかなかいないし、レベルの高い幼女には、親なり護衛なりが必ず一緒にいる。
白パンだけでハイレベルな幼女を確保できるなど、宝くじに当たるくらいの確率だ。
しかし彼らはまだ気づいていなかった。
美味しい話には必ず裏があり、簡単に誘拐できる幼女には必ずリスクがあるということに。
リーたんは、馬車の荷台に乗せられた後、そこにある白パンとその他の食糧をすべて食べ尽くしていた。
人身売買組織の二人は、幼女ならどんなにお腹が空いていても白パン2〜3個で十分だろうと思い込んでいた。
だから馬車の荷台にリータンを乗せた後、彼女の状況を確認しようともしなかった。
しかし、リーたんは幼女ではなく海竜なので、人の想像を超えてたくさん食べることができる。
二人が今朝買い込んだ長距離移動用の保存食も含め、すべての食料が彼女のお腹の中に消えていた。
そしてさらなる悲劇が人身売買組織の二人を襲う。
お腹がいっぱいになってウトウトし始めたリーたんの隣に突然ひとりの男性が現れて、次の瞬間にはリータン共々姿を消してしまった。
二人は前方を見ていて、この出来事にまったく気付いていない。
しばらく進んだ後で、幼女とすべての食糧が消えていることに気付いた二人は、「世界樹の天罰だ」と思い込み、震え上がったという。
* * * * *
「リーたん、何してたの?」
僕は、文字通り一瞬でリーたんを確保して、みんながいる場所に戻って来た。
メルさんとメルママさんが目を見開いて驚いてるけど、ルルさんとフェイスさんは無反応。
まあ、慣れてるからね。
「お腹空いたから、屋台探してた。」
「でも、馬車の中にいたよね。」
「うん、親切なおじさんが食べ物くれた。」
「そうなのか。まあ問題はないだろうけど、知らない人に着いて行っちゃダメだよ。」
「どうして?」
「悪い人かもしれないだろう。」
「悪くても、弱いと意味ないよ。」
うん、リーたん、言いたいことはよく分かるけど・・・
それは普通、「正しくても強くなければ意味がない」って使い方をするフレーズだよね。
幼女から「弱いと意味ない」とか言われると、悪人の人たち泣いちゃうかもね。
「いったい何がどうなってるの? ウィンが消えたと思ったら、一瞬で幼女と一緒に戻って来るなんて。あなたの転移、早過ぎない? しかも複数で転移ってどういうこと? それにそれができるならどうしてすぐ対応しないの? 幼女が怪我してたらどうするつもり?」
あっ、メルさんがちょっと壊れ始めた。
こういう時は早めに退散した方がいい。
経験則的に。
「メル、どういうことって、そういうことだ。ウィンは何でもできる。それにリーたんは海竜だから怪我なんかしない。」
あっ、ルルさん、余計なことを・・・・・
「ルル様、意味が分かりません。それに海竜って・・・さっきも言ってたけどどういうことですか?」
メルさんがルルさんの余計な言葉に質問を返す。
そして、こんな時に限って、リーたんがメルさんの言葉に反応する。
「こういうことです。(ポン)、海竜のリバイアタンです。」
メルさんの疑問に答えるようにリーたんが人化を解いて海竜の姿になった。
リーたんとしては親切心だと思うけど、メルさんに与えた衝撃はかなり大きかったようだ。
「何、これ? 幼女が海竜に? 海竜がしゃべってる? 森の中に海竜が? 幻視なの? 錯乱なの? 私はいったい何を見てるの?」
メルさん、完全に壊れた。
ルルさん、責任取ってもらっていいですか?
僕はリーたんを連れて、世界樹の反対側とかに撤退したいと思います。
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