174.メルさん再び(世界樹広場)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(174)
【アマレパークス編・白の森シルワ】
174.メルさん再び(世界樹広場)
「じゃあ転移しましょうか?」
僕はルルさん、リーたん、フェイスさんの3人にそう声をかけた。
これからシルワの街まで転移陣で移動する。
ただ、ルルさんの転移陣が単独用、僕の転移陣が同行者1名までと制限があるので、転移の仕方を工夫しないといけない。
考えた結果、手順はこうだ。
まずスラちゃんを『召喚解除』してから、僕がフェイスさんと一緒にシルワの街の手前の森の中に転移する。
その間、ルルさんがリーたんと一緒に待つ。
リーたんを一人で放置するのはまだ少し不安があるからね。
ちなみに、『召喚解除』すると従魔たちは『小屋』に戻るらしい。
次にフェイスさんを森の中に残して僕がルルさんたちの場所に転移で戻る。
フェイスさんには念のため隠れて待っていてもらう。
フェイスさん、隠れるのは朝飯前だろうし。
最後にルルさんは単独で、僕はリーたんと一緒にフェイスさんがいる場所まで転移する。
これで全員無事にシルワの街のすぐ手前に到着。
あとはスラちゃんを『召喚』で呼んで、みんな一緒に歩いて街の中に入るだけだ。
転移した場所から森の中の道を少し進むと、トンネルの出口のようなものが見えてきた。
あの先にシルワの街があるはずだ。
世界樹の森の中にある森エルフの街。
どんな風景が広がってるんだろう。
ちょっとワクワクしてきた。
「ルルさん、森エルフの街って、やっぱり巨木の幹の中に家があったり、木の上に吊り橋を作って移動してたりするんですか?」
僕は自分の中のイメージに従ってルルさんに質問した。
でもルルさんの答えは予想外のものだった。
「何だそれは。そんなものはないぞ。」
えっ、ないの?
森の中だし、エルフなのに?
「ウィンが何を想像してるのか知らないが、シルワの街は普通の街とそれほど変わらない。違っているのは街の真ん中に世界樹があるのと、ほとんどの家が木造ってことくらいだな。」
普通の街?
こんな森の奥に普通の街って想像できないんですけど。
だって、ここって大森林のど真ん中あたりだよね。
家を建てる場所を切り開くのだって大変じゃないかな。
街って呼んでるけど、小規模な集落みたいなものだったりして。
まあ、直接見れば分かることだけど。
そんなことを考えながら森の中のトンネルを抜けると、そこには僕の予想を超えた光景が広がっていた。
「何じゃこりゃ。」
僕は思わず妙な叫び声を上げてしまった。
「何って、シルワの街に決まってるだろう。」
ルルさんが冷静に返してくる。
「でも・・・なんか・・・大き過ぎませんか? それに・・・森の中じゃない。」
「当たり前だ。森の木々の中に街など作れないだろう。大きさは、まあ、アマレよりは大きいな。」
「こんな森の奥にどうやって作ったんですか?」
「さあな。まあ誰かが作ったんだろう。」
何度か来たことのあるルルさんは、いたって普通の反応だ。
初めての僕からすると予想の何倍、いや何十倍の広さに、ただ驚くしかない。
目の前には整然とした街並みが広がっていた。
巨木の森の真ん中に森エルフたちが広大な敷地を切り開いたのだろうか。
それとも元々ここに平地があり、そこに森エルフたちが街を築いたのだろうか。
街の周辺は巨木の森がぐるりと囲んでいるようで、まるで城壁で守られているように見えた。
そして街の中央には、森の巨木が苗木に見えてしまうような巨大な木がそそり立っている。
あれが間違いなく『世界樹』だろう。
「ルルさん、あれ、世界樹ですよね。」
「そうだな。」
「もっと人跡未踏の森の奥にあるものだと思ってました。」
「見た通り、街の真ん中にあるな。近くに行けば触ることもできるぞ。」
触れるの?
『世界樹』って神と崇められる神聖な存在だよね。
簡単に触っちゃっていいの。
森エルフたちに怒られたりしないのかな。
「世界樹の周りって、警備とかしてるんですか?」
「ないな。必要ないからな。」
「でもイタズラしたり、落書きしたり、切りつけたりする人とか出てきません?」
「言っただろう、そういう輩はそもそもこの街に辿り着けない。」
「あっそうか。だから無防備でも問題ないのか。」
「そういうことだ。」
僕とルルさんがそんなことをしゃべってる間、リーたんはフェイスさんと手を繋いだまま、街並みや『世界樹』を見回していた。
フェイスさん、その容姿に生活感はまったくないんだけど、ちゃんとリーたんの保護者のように見える。
九尾狐と海竜の組み合わせって、考えてみると微妙な感じだけど。
さて街の中を見学に行こうかなと考えていると、目の前に小さな人物が飛び込んできた。
そしてそれは、よく知っている人物だった。
「やっと、やっと見つけましたわ。きっとここに来ると予想して先回りして正解でしたわ。あなた、どうして勝手に動き回りますの。転移が使えるなんて意味が分からないんですけど。探すのにどれだけ苦労したと思ってますの。あなたのせいで有休を使う羽目になるし。支部長辞任を認めてくれないので、里帰り名目でやっとここへ来れたんですよ。でもここで会ったが百年目、もう逃しませんわ。ルル様を誘拐して連れ回すなんて、こんな極悪非道な所業が許されるわけありませんわ。神妙にお縄につきなさい!」
メルさん、相変わらず絶好調なマシンガントークですね。
思い込みの激しさもいつも通りですね。
でも言い回しが時代劇っぽいのはどうしてなんでしょうね。
ここまで来た努力は認めますが、面倒なので僕はあっさり逃げますね。
メルさんの言葉が途切れたところで、僕はフェイスさんに小声で「世界樹で」と囁き、リーたんの手を取って転移することにした。
ルルさんは、何も言わなくても自分で僕の近くに転移してくるだろうし、フェイスさんがメルさんに捕まることもないだろう。
幼い子をいじめてるみたいでちょっと心が痛むけど、メルさん僕より年上だしね。
おっと、まずスラちゃんを召喚解除してと。
では、メルさん、またね。
転移。
転移を終えると、目の前に木の壁があった。
思わず左右に目をやると、どちらにも壁が続いている。
もちろんそれは本当の壁じゃなくて、『世界樹』の幹だった。
これ、一周するのにどれくらいの時間がかかるんだろう。
遠目に巨大だなあと思ったけど、近くで見ると巨大どころじゃない。
意識を『世界樹』に集中すると、とても柔らかい魔力が周囲に向かって流れ出ているのが分かる。
乱れた感情を整えくれるような、過去に負った心の傷を癒してくれるような、体の奥底に溜め込んだ怒りを溶かすような、そして心地よい眠りに誘い込むような、そんな魔力が体の中を通り抜けていく。
僕は思わず目を閉じて、全身でその魔力を受け止めた。
この魔力、以前に感じたことがある。
どこでだろう?
前の世界ってことはないだろうから、おそらくこの世界。
でも状況が思い出せない。
もしかすると失われた記憶の中のどこかで、僕は『世界樹』に出逢ってるのかもしれない。
目を閉じたまま物思いに耽っていると、誰かが僕の左手を引っ張った。
「ウィン、立ったまま寝てるの?」
目を開けるとリーたんがその青い瞳で不思議そうに僕を見上げていた。
そういえば手を繋いだままだった。
「いや、ちょっと、世界樹の魔力について考えてた。」
「この木から出てる魔力?」
「そう。リーたんも感じる?」
「もちろん感じるわ。気持ちいい魔力よね。海の魔力とはちょっと違うけど。」
改めて周囲を見回すと、『世界樹』の周りは大きな公園のようになっていた。
シルワの街は、この『世界樹』の広場を中心にして放射状に広がっているようだ。
あちこちにベンチがあり、そこに座っている人や芝生の上に寝転んでる人の姿が見える。
エルフ族以外の種族の人たちも混じっている。
外部からここに移住した者や旅行者もいるのだろう。
「ルルも、フェイスも、来ないね。」
「そうだね。フェイスさんは転移できないからもう少し時間がかかると思うけど、ルルさん、転移して来ないね。どうしたんだろう。」
僕とリーたんは芝生の上に腰を下ろし、『世界樹』の幹にもたれて二人を待つことにした。
幹にもたれて大丈夫かって?
他にももたれて座ってる人が何人かいたのでたぶん大丈夫。
ルルさんも『世界樹』に触れても問題ないって言ってたし。
しばらくのんびりしていると、隣からリーたんの寝息が聞こえてきた。
僕の腕に寄りかかって眠ってしまったようだ。
可愛い寝顔をしてる。
子供だから眠くなるのも仕方ないか。
でもリーたん、年齢は100歳以上なんだよね。
海竜の100歳はまだ子供なんだろうな。
鑑定結果にも『幼体』って出てたし。
そんなことを考えていると、いきなり静寂を破って大きな声が響いた。
「あなた! 幼女を誘拐するなんて不届き千万。すぐにその子から離れなさい!」
あれ?
メルさん、置き去りにしたはずなのに、どうしてここにいるの?
まさか転移の魔法を会得して追って来た?
そうだとしたら物凄く面倒なんだけど・・・。
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