172.名前は大切なもの(威圧スキル:ウィン)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(172)
【アマレパークス編・白の森シルワ】
172.名前は大切なもの(威圧スキル:ウィン)
「ウィン様、とりあず暗殺者全員を鑑定して下さい。」
フェイスさんは僕に向かってそう言った。
確か、諜報や暗殺のような隠密系の職業にとって人物鑑定をかけられることは死活問題じゃなかったっけ。
フェイスさん自身がそう言ってたよね。
「鑑定しちゃっていいんですか?」
「構いません。」
フェイスさんが断言したので僕はアイスドームの中の暗殺者全員に人物鑑定をかけた。
(鑑定結果)
名前 : アサ・シン(本名タロウ)
年齢 : 32歳(男)
種族 : ヒト族
職業 : 暗殺者・Aチームリーダー
スキル: 風矢・偽装・隠蔽
魔力 : 225
友好度: 0
称号 : なし
信頼度: 0
名前 : メアリー・アン(本名ハナコ)
年齢 : 28歳(女)
種族 : ヒト族
職業 : 暗殺者・Bチームリーダー
スキル: 土槍・偽装・毒矢
魔力 : 182
友好度: 0
称号 : なし
信頼度: 0
その他28名
すぐに30人分の鑑定結果が僕の視界に表示された。
ほとんどがヒト族で獣人族とドワーフ族が数名ずつ、エルフ族はいなかった。
暗殺者のトップクラスのほとんどがヒト族って。
ヒト族は暗殺者向き?
まあ、たまたまかもしれないけど。
それから名前の後に本名が表示されてる。
この表示、初めて見たな。
本名とは別に芸名とか通り名みたいなものがあるってことか。
でもなんか親しみの湧く本名だな。
「ウィン様、鑑定は済みましたか?」
「はい。」
「全員分、表示されました?」
「はい、30人分。」
「さすがです。おそらく彼らは鑑定阻害の魔道具を身に付けているはずですが、ウィン様の鑑定には対抗できなかったようです。予想はしてましたが。」
鑑定阻害の魔道具なんてあるんだね。
まあ、船上で出会った吟遊詩人が隠蔽スキルで鑑定を阻害してたし、その魔道具版があっても不思議じゃないか。
全体のリーダーっぽいアサ・シン(本名タロウ)も隠蔽スキル持ってるし、スキルか魔道具で身バレを防いでるんだろう。
「では、次は話し合いです。ウィン様、あの氷の中と話はできますか?」
「この状態だと無理です。ちょっと方法を考えてみます。」
アイスドームは、音声をほぼ遮断している。
元々、メルさんのマシンガントーク対策で編み出した魔法なので、そういう仕様になっている。
アイスドームの中では、暗殺者たちが必死で氷を砕こうとしていた。
魔法の氷なので、物理だと壊れないんだけどね。
この状況で話し合いのためにアイスドームを解除すると、暗殺者たちが逃げ出すか、再び戦闘になる可能性があるな。
さてどうしようかな。
僕は少し考えて解決策を思いついた。
思いついたら即実行。
「外側に穴空きアイスドーム。内側のアイスドーム解除。」
アイスドームの外側に一回り大きくて小さな穴がいくつか空いたアイスドームが出現し、内側のアイスドームが消えた。
これで中の暗殺者たちと会話することができる。
フェイスさんがアイスドームに近づき、暗殺者たちに声をかけた。
「この中のリーダーと話をさせて下さい。」
暗殺者たちは動きを止め、しばらく沈黙が続いた後、1人の暗殺者が口を開いた。
「私がリーダーだ。」
それはやはりアサ・シン(本名タロウ)だった。
「依頼失敗は認めますか?」
「認める。」
「依頼を続行しますか?」
「しない。」
「力の差を認識しましたか?」
「認識した。二度とこの依頼は受けない。」
「賢明ですね。」
フェイスさんはそこまで会話を進めるとニッコリと笑い、その笑顔のままで言葉を続けた。
「ギルドにお伝え下さい。次はないと。その時は全滅させます。暗殺者チームではなく、ギルド自体を。」
アサ・シン(本名タロウ)がゴクリと唾を飲み込むのが分かった。
他の暗殺者たちは身動き一つできないでいる。
それくらいフェイスさんの言葉には威圧感があった。
しかし・・・
「フェイスさん、フェイスさん。」
僕は背後から小声でフェイスさんに呼びかけた。
「どうしました、ウィン様?」
「そんな大見栄を切って大丈夫ですか?」
「何度も来られると面倒だと思いまして。」
「でも逆に刺激しませんかね?」
「暗殺者ギルドのトップがバカでなければ大丈夫でしょう。」
「もしバカだったら?」
「全滅させればいいと思います。」
フェイスさん、実は物凄く過激な人なんですね。
諜報系の人だし、もっと慎重で冷静な性格だと思ってました。
普段は裏にこっそり隠れてる分、表に出ると激しくなっちゃうのかな。
そんなことを考えていると、
「ウィン様、よろしいか?」
アイスドームの中からアサ・シン(本名タロウ)が声をかけて来た。
僕と話したいようなので、アイスドームに近付いて呼びかけに答えることにした。
アイスドームの穴から攻撃を受ける可能性もあるけど、まあ防げるだろう。
「何でしょうか、タロウさん?」
「な、なぜ、その名を・・・」
僕が何気なく本名を口にすると、タロウさんは途端に狼狽し始めた。
鑑定されたことに気付いたのかもしれない。
タロウさんは驚愕に目を見開き、そのまま固まっている。
なぜかタロウさんの背後で暗殺者のヒソヒソ声が聞こえた。
「タロウって?」
「リーダーの本名なのか?」
「ええっ、タロウって言うの? ウケるんですけど。」
「タロウなのに、アサ・シンって、盛りすぎじゃない?」
「みんな、リーダーに失礼よ。」
ざわざわしていてよく聞き取れないが、おそらく2番手のメアリー・アン(本名ハナコ)が場を沈めようとしている。
でも何を騒いでるんだろう?
タロウという本名に何か問題があるんだろうか。
タロウさんが固まってしまったので、僕は仕方なく2番手の女性に話しかけた。
「ハナコさん、リーダーが固まっちゃったけど、どうしましょうか?」
「キャー!」
僕がハナコさんに話しかけると、ハナコさんから悲鳴が上がった。
そしてハナコさんの背後の騒めきが大きくなった。
「ハナコ!」
「メアリー・アンってハナコなの!」
「ウケすぎなんですけど!」
なるほど。
何がおかしいのか理解できないけど、彼らはリーダーたちの本名を面白がってるわけだ。
僕はなんかムカついてきた。
そしてそのせいで声がちょっと大きくなった。
「タロウとハナコの何がおかしい! いい名前じゃないか! 人の名前を笑うんじゃない!」
僕が怒鳴ると、暗殺者たちが笑うのをやめ、直立不動の状態になった。
もう誰一人声を発しない。
それでも僕の怒りは収まらず言葉を続けた。
「言っとくけど、僕は君たち全員を鑑定したからね。年齢もスキルも魔力量も全部把握してる。全員の本名もね。でもね、本名は親からもらった大切なものだよ。それを笑う奴は絶対に許さない。今回は全員解放するつもりだったんだけどね。」
そこまで言うと直立不動の暗殺者たちがブルブルと震え出し、そのうちの何人かは耐えきれずに座り込んだ。
それでも僕は彼らを睨みつけ続けた。
「ウィン様、ありがとうございます。」
いつの間にかタロウさんが氷を挟んで僕の目の前に立っていた。
その隣にはハナコさんも立っている。
「いや、取り乱して申し訳ない。元はと言えば僕が迂闊に二人を本名で呼んだせいだし。懐かしい名前だったんでね。」
「もしかしてウィン様は南の群島の出身ですか?」
「いやそうじゃないんだけど、僕の故郷でも同じ名前があるんだ。」
「そうでしたか・・・この度の暗殺行為、依頼を受けた以上言い訳はしません。ただ、責任は自分一人の命だけで勘弁願えないでしょうか。部下たちは私の指示に従っただけですので。」
そう言って、タロウさんは頭を下げた。
隣のハナコさんも一緒に頭を下げている。
僕は二人を見ているうちに怒りが収まり、もうどうでも良くなった。
「いや、もういいよ。」
僕はそう言いながらアイスドームを一瞬で消し去った。
しかし、暗殺者たちは誰も身動きできず、リーダーの二人は頭を下げ続けている。
「さあ、部下たちを連れて引き上げてね。」
「ありがとうございます。」
タロウさんはもう一度感謝の言葉を口にすると、頭を上げて僕の顔を見た。
「ギルドに戻り、もう二度と依頼を受けぬよう、ギルド長に伝えます。万が一ギルドが依頼を受けた場合は、この30人が盾となって止めて見せます。」
「いやいや、そこはもうタロウさんの責任じゃないし。また来たら面倒だけど、その時は本気で殲滅しちゃうかもね。」
そう言って僕が冗談っぽく笑うと、タロウさんとハナコさんはもう一度僕に頭を下げてから固まってる部下たちに鋭い声で指示を出した。
リーダー二人の声で正気に戻った暗殺者たちは綺麗に2列に並び、その前にタロウさんとハナコさんが立った。
そして全員で一斉に頭を下げた後、暗殺者御一行は森の中へと消えて行った。
この世界で本気で怒ったの、初めてかもしれない。
今になってちょっと恥ずかしくなってきた。
ところでスラちゃん。
左腕でスヤスヤ寝てるけど、警護役じゃなかったっけ?
君、大物だね。
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