フェイスさん、再び(ウィンギルド:新規加入希望)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(170)
【アマレパークス編・白の森シルワ】
170.フェイスさん、再び(ウィンギルド:新規加入希望)
「こんにちは、ウィン様。」
その女性はにこやかに僕に挨拶してきた。
長身で緑がかった金髪、森エルフの特徴を備えたその人物は、諜報ギルドのエース、フェイスさんだった。
もちろん偽装してるはずなので、これはフェイスさんの本来の姿ではないだろう。
「フェイスさん、こんにちは。また別の依頼を受けたんですか?
今日はリベルさんは一緒じゃないですよ。」
僕は警戒を解かずに淡々とフェイスさんに質問した。
前回は「リベルさん誘拐」の依頼を受けて僕たちを攻撃してきたのだから、当然の対応だろう。
フェイスさんはちょっと困ったような顔をして僕に応じた。
「ウィン様、警戒されるのは当然ですが、今日は依頼ではなく個人的な行動です。お知らせしたいことがありましたので。あと、信じてもらえるかどうかは分かりませんが、私は二度とウィン様及びウィンギルドに敵対するような依頼は受けません。」
僕はフェイスさんの言葉をどこまで信じていいか分からず、ちょっと困惑した。
あと、どうしてもう「ウィンギルド」のこととか知ってるんだろう?
諜報ギルドの情報収集力って、そんなに凄いのか?
言葉に詰まっているとルルさんが横から口を挟んできた。
「ウィン、そのスパイ女の言うことは信じてもいいと思うぞ。そもそも騙すつもりなら、前回と同じ偽装で出て来ないだろう。」
果たしてそうだろうか。
相手に気を許させるためにわざとそうしている可能性もある。
まあ、諜報ギルドは情報収集がメインの仕事だし、そこまで警戒する必要もないのかもしれないけど。
「聖女様、意を汲んで下さり、ありがとうございます。早速ですが、情報を提供させて下さい。」
「なんだ? 言ってみろ。」
身構えたままの僕に代わって、ルルさんがフェイスさんの相手をする。
「はい、セントラルが別の依頼を発注しました。諜報ギルドにはリベル様、聖女様の所在の把握、そして暗殺者ギルドにお二人の誘拐と邪魔者の暗殺依頼。もちろん私は受けていません。」
またセントラルか。
本当にしつこいね。
この前はリベルさんの誘拐だったけど、ルルさんも追加されたのか。
それに邪魔者の暗殺って・・・
「スパイ女、邪魔者とは誰のことだ?」
「邪魔者とは、ウィン様のことのようです。」
やっぱりそうか。
リベルさん、ルルさんとくれば、残りは僕だけだもんな。
リーたんのことはまだ知らないだろうし。
でも「邪魔者」って言い方は酷いよね。
「仲間」とか「同行者」とか、他に言いようがあると思うけど。
元勇者のリベルさんと聖女のルルさんに比べれば、僕なんて無名の一般人だから「邪魔者」扱いなんだろうな。
「セントラルはウィンを殺せと?」
「はい。」
「スパイ女、セントラルにウィンに関する情報を渡したのか?」
「暗殺は不可能とだけ。一笑に付されましたが。」
「セントラルの奴らも、愚かだな。」
「まさに。」
「ウィンを敵に回したら、セントラルなど、一晩で滅ぶぞ。」
「一晩もかからないのでは?」
「スパイ女、よく分かっているな。」
ルルさんがニヤリと笑い、フェイスさんがフフフと微笑む。
はい、2人とも、ちょっと待とうか。
どうして理解し合える友に巡り逢えた的なノリになってるのかな。
それから人の事を地上に堕ちた大悪魔か、人智を超えた大災害みたいな位置付けにするのはやめて欲しいんだけど。
暗殺対象にされるとか、普通に一大事だよね。
もっと心配したり、対策を練ったり、逃げる算段をしたりするものなんじゃないのかな。
「それで、スパイ女、なぜその情報を私たちにバラした? 諜報ギルドの規則に反するだろう?」
「組織には休暇届けを出しているので問題ありません。」
「でも何か理由があるはずだ。」
「あえて言うなら・・・個人的な趣味です。」
「個人的な趣味?」
「はい。」
「ふむ。」
ルルさんは腕を組んで首を捻り、少し考える素振りをしたが、フェイスさんの「個人的趣味」の内容には踏み込まないことにしたようだ。
そういうのって、迂闊に踏み込むと「深い闇」を見るハメになるからね。
「しかしこれだけの情報、タダではあるまい?」
「聖女様、さすがに話が早い。情報に見合った報酬を頂きたいと思います。」
フェイスさん、報酬目当てだったのか。
まあ諜報ギルドのエースを張る程の人だから、タダ働きなんてしないよね。
でも報酬って、何が欲しいんだろう?
お金だろうか?
それとも情報か?
まあお金なら何とかなるし、隠さなきゃいけない情報も特にないし、大抵のことは対応可能だろう。
「それで、何が欲しい?」
「単刀直入に申し上げても?」
「もちろんだ。」
「では・・・ウィンギルドへの入会許可を。」
「許可する。」
ルルさんが即答するのと、僕がずっこけるのがほぼ同時だった。
ウィンギルドへの入会?
それが何の報酬になるの?
そもそもその出来立ての意味が分からないギルド、入会するのに条件とか許可とかあるのか?
それに入会したからって、何かいいことがあるのか?
いや待てよ。
フェイスさんの仕事は情報が命。
現在ウィンギルドには、伝説の大商人ジャコモさん、聖女ルルさん、テイマーギルド・アマレ本部ギルド長シルフィさん、商人ギルド・アマレ本部ギルド長ルカさんの4名が所属している。
元勇者のリベルさんも「従魔ブートキャンプ」が終われば参加するかもしれない。
ここに加わることができれば、情報収集に関して強力なコネクションができることになるのか。
さすが諜報ギルドのエース。
目の付け所が違う。
僕がそんな風に感心していると、
「聖女様、ありがとうございます。これで心置きなく、ウィン様を観察することができます。」
「スパイ女、どうせ今までも監視してたんじゃないのか?」
「はい、こっそりと。でもこれで公然と観察できます。」
あれっ、ギルド会員から情報収集するためじゃないの?
僕の観察?
フェイスさん・・・それって、正しい言葉で表現するなら「ストーカー」って言うんじゃないのかな。
非公式のストーカーから公式のストーカーに格上げみたいな・・・。
「まあ、ウィンは、見てるだけで面白いからな。だがそこで得た情報は・・・」
「心得ております。けして口外はいたしません。個人的な趣味ですので。」
ルルさんの言葉に被せるようにフェイスさんが答えた。
そこで「個人的な趣味」に繋がるんですね。
また面倒なメンバーが増えてしまった気がするのは、僕だけなんだろうか。
「ところで、セントラルのことは如何いたしましょうか?」
「放置でいいんじゃないか。」
ようやく・・・本当にようやくフェイスさんが本題に入ったと思ったら、ルルさんが即断で放置宣言。
いやいやいや、「暗殺依頼」は放置しちゃダメでしょう。
暗殺対象、僕なんですけど。
ルルさん自身も誘拐対象に入ってるし。
リベルさんはまあ、どうでもいいですけど。
「聖女様、了解いたしました。ただ・・・」
「ん? どうした?」
「この先で暗殺者ギルドが待ち構えてますが、どうしましょう?」
フェイスさん、それって一番初めに伝えるべきことじゃないかと思うんですが・・・。
この世界の人たちの物事の優先順位がまだイマイチ分かりません。
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