17.夜は真っ暗なので(コーラル・ジュエル)
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『第一章 はじまりの島』は序章(準備編)です。
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第一章 はじまりの島(17)
17. 夜は真っ暗なので(コーラル・ジュエル)
砂浜に転がっている丸くて透明な物体をひとつ拾い上げる。
手に伝わるのは硬質な感触とある程度の重さ。
どう考えてもこれは、ガラスの玉。
表示されたクエストにもう一度視点を合わせる。
○クエスト : FIRE++ (ALCHEMY)
報酬 : 錬金
達成目標 : 火を入れろ
(FIREの派生系で、錬金・・・)
薄々気付いていたけど、クエストのルールは単純じゃない。
状況によって事前に示されるクエストもあれば、現象が起こってから事後に表示されるクエストもある。
派生系は後者なのだろうか?
クエスト表示のタイミングが割とランダムなので、「中のヒト」の気まぐれなのかもしれないけど。
「HOME系」みたいなクエストもあるしね。
でもこのガラス玉、どうすればいいんだろう?
疑問の表情を浮かべてタコさんをみると、砂の上に残されたガラス玉を足でビシッと差した。
「もう一回?」
うなずくタコさん。
ガラス玉にもう一度「錬金クエスト」を発動しろという意味だろう。
考えてもしょうがないのでタコさんの指示通りすぐに試すことにする。
ガラス玉の一つを見つめながら心の中で「錬金」と念じる。
炎に包まれたガラス玉は、10秒後にガラスのグラスに変形した。
錬金クエストについて少し検証してみた。
砂団子をわざわざ作らなくても、ある程度の砂の固まりがあればガラスにすることができた。
そしてイメージさえしっかり持てば、出来上がりの形も自由に変更できるようだ。
結局、初めの砂団子はすべてグラスになった。
砂団子が4つだったのは、人数分ということらしい。
その後、ガラスの大皿と小皿を4枚ずつ作り、ついでに大きめの水差しを作った。
初めて手に入れた消えない食器を抱えて小屋に戻る。
オープン・キッチンの棚にグラスとお皿を並べ、水差しに水を入れて冷蔵庫に入れる。
もともと冷蔵庫に入れていた水の入ったグラスは、良い感じに冷えていた。
下段に入れた氷がいい仕事をしている。
でも溶けた水はどこに行ってるのだろう?
4つのグラスを冷蔵庫から取り出し、1つは飲み干し、3つをリビングの床に置く。
タコさんは、足2本でグラスを持って口元に運ぶ。。
スラちゃんは、グラスに覆いかぶさるようにして水を飲んでいる(たぶん)。
ウサくんは、前足で器用にグラスを持って水を舐めている。
(ウサくん、グラス持てるんだね。)
もちろん、クエストで出したグラスは、水を飲むと跡形もなく消えた。
* * * * *
水を飲み終わった3人は、すぐに外へ出かけて行った。
(夕食の準備だろうな。)
タコさんは海に魚獲りに。
ウサくんは草原に野菜採りに。
ベルちゃんは岩場に石採りに。
想像だけど、間違ってない自信はある。
彼らの行動パターンは分かりやすいからね。
誰もいなくなったので、暮れていく浜辺で一人佇んでいる。
夜は真っ暗になるなと当たり前のことを考えながら。
小屋には照明がない。
どうしようか。
HOME系クエストで試してみたけど、照明はクエストとして設定できなかった。
炎クエストで何かを燃やすというのも考えたけど、室内で燃やし続けていいのかどうか、知識が足りない。
そのうち照明の魔道具とかが手に入るのかもしれないけど、今この島には存在しない。
(しょうがない。試してみようか。)
ひとつ考えていた解決策があるので試してみることにする。
まず砂浜に座り込み、砂の山を両手で作る。
次に「錬金」と念じると、砂の山が燃え上がる。
炎が消えるとイメージした通りの、ガラスの水槽がそこに現れた。
水槽を抱えて波打ち際まで歩き、海水をその中に入れて小屋まで持ち帰る。
重くて運べないかなと思ったけど、予想外に楽に運べた。
基礎体力がかなり高くなっているのだろう。
みんなの帰りを待っている間に水槽を追加で3つ作っておく。
2つ目以降の水槽は空のまま小屋の中に運び込み、キッチンの棚に置いた。
海水の入った水槽をダイニングテーブルの真ん中に置いて、椅子に座って待っていると、真っ暗になる前にまずタコさんが戻ってきた。
外から自分で扉を開閉するタコさん。
どうやってるのか、今だに分からない。
タコさんの足って扉の取手まで伸びるのかもしれない。
タコさんが獲ってきたのは、昼間と同じ魚系の魔物たち。
短縮して魔魚と呼ぼう。
その中のコーラル・ジュエルを指差してタコさんに尋ねる。
「これ、もらってもいい?」
タコさんはちょっと考えてからうなずく。
カラフルな魔魚を3体持ち上げて、床の上に置く。
「水槽の中に入れてもらえる?」
テーブルの上の水槽を床に置くと、タコさんがジュエルたちをその中に入れる。
ジュエルたちは横向きになって浮いている。
「麻痺を解除してもらってもいい?」
タコさんは、“了解“ と足を上げて、水槽のほうへ足を伸ばし、3体のジュエルに順番に触れた。
ジュエルたちは一度ビクッと体を震わせ、すぐにゆっくりと水槽の中を泳ぎ始める。
そしてしばらくすると、それぞれの体が光り始めた。
これで照明問題が解決した。
タコさんが持ってくる魔魚はいつも新鮮だった。
というより生きていた。
麻痺だろうなと思っていたけど、予想通りだった。
ジュエルたちの光は、リビングを照らすのに十分な光量がある。
動いた時に少し揺らぐけど、蝋燭みたいなもので気になる程でもない。
最後にもう一つだけ確認したいことがあったので、空の水槽を持ってきてジュエルたちが入っている水槽の横に置く。
クエストで水を出し、空の水槽に入れる。
「タコさん、ジュエルって、こっちの水の中でも大丈夫?」
タコさんは考える間もなくうなずくと、足を伸ばしてジュエルのうちの1体をつかみ、隣の水槽に放り込んだ。
念のためしばらく観察してみたけど、そのジュエルはクエストの水の中で、何事もなかったかのように光っていた。
照明の確保が済んだので、タコさんが持ってきたジュエル以外の魔魚たちをキッチンで「COOK」する。
今回は、サーベルが塩焼き、アゴーが唐揚げになった。
1回のクエストで焼き物と揚げ物の2種類ができてしまった。
クエストはまだまだ謎だらけ。
イメージが安定すれば、狙ったものが出せるのだろうか?
せっかくなので、料理をガラスの大皿に移し、リビングのテーブルまで持って行く。
そこにはすでにウサくんとスラちゃんがいた。
タコさん含め3人でジュエルが入った水槽を鑑賞している。
スラちゃんは予想通り鉱石をいくつか持って来ていた。
見た目にはすべて同じ種類っぽい。
ウサくんは野菜ではなく、茶色い団子(?)を4つテーブルに並べている。
(なんとなく流れが読めるような気がする。)
ウサくんが持ってきたのは、泥団子だった。
砂団子に対抗したのかもしれない。
ウサくん、意外に負けず嫌い?
スラちゃんの鉱石と一緒に泥団子をシンクに持っていく。
先にスラちゃんの石を「COOK」すると黒い金属のインゴットができた。
そこでふと疑問に思う。
これは「COOK」より「錬金」じゃないのかと。
食材と素材の境目はどこなんだろう。
機能しているんだからまぁいいか。
最後にいよいよ泥団子と向かい合う。
これはさすがに「錬金」案件だろう。
砂団子はガラスになった。
泥団子は、おそらく・・・。
「錬金」
結果を予想しながらクエストを行うと、予想通りのものが出現した。
キッチンのシンクの中に、4枚の陶器のお皿が置かれていた。
読んで頂いてありがとうございます。
次回投稿は明日です。
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