169.森の中を進みます(シルワの森:南の街道)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(169)
【アマレパークス編・白の森シルワ】
169.森の中を進みます(シルワの森:南の街道)
「あそこが、シルワの森の南の入口だ。」
転移場所からしばらく森に沿って歩いた所で、ルルさんが指で前方を指し示しながらそう言った。
確かに林立する巨木の間に、洞窟の入り口のような空間が見えている。
特に入口を示す門があるわけでもなく、衛兵が立っているわけでもない。
ただ大きな半円形の開口部があり、そこから森の奥へ向かって白い道が伸びている。
「この道をまっすぐ進むとシルワの街に行けるんですか?」
「そうだ。」
「だったらここに転移すれば良かったんじゃないですか?」
「そう言おうと思ったら、話も聞かずに転移したのはウィンだろう。」
「そんなこと・・・ないことも・・・ないかもしれない。」
思い出してみると、「じゃあ、森の手前で待ってます。」そう言い残してさっさと転移してしまった気がする。
どうせルルさんは「ウィンがいる所」と指定して転移するので、合流場所を細かく打ち合わせする必要はないと思ったんだよね。
「じゃあ、進みましょうか。」
「ウィン、最近スルー能力が高くなったな。」
「えっ、なんのことでしょう?」
「ぐりぐりしてもいいんだぞ。」
「いやいや、待ってください。合流場所の打ち合わせをきちんとしなかったのは僕です。すみませんでした。」
そんなやりとりを2人でしていると、従魔たちがそわそわし始めた。
たぶん早く森に入って、食材&素材収集をしたいんだろう。
でもそれって大丈夫なんだろうか?
「ルルさん、従魔たちが世界樹の森に入っても問題ないんでしょうか?」
「どうしてだ?」
「たぶん、食材とか素材とか集めると思うんですけど、それって世界樹の怒りとかに触れません?」
「大丈夫だろう。森を片っ端から焼き払うとか、森エルフの街を全滅させるとか、世界樹自体に悪意を向けるとかしない限り、気にしないと思うぞ。」
う〜ん、信じていいんだろうか。
ルルさん、時々いい加減だからな。
でも従魔たち、やる気満々なんだよね。
「別にいいんじゃないの。大魔王たち、バカじゃないし、わざわざ世界樹に喧嘩は売らないと思うわ。それに、世界樹だって大魔王たちと敵対するのは嫌だろうし。」
リーたんが会話に参加してきた。
彼女の判断も大丈夫とのこと。
でも最後にちょっと聞き逃せない内容が含まれていたような。
世界樹が従魔たちと敵対するのを嫌がる?
本当に?
確かに、従魔たちが本気になったら、この世界の自然に大打撃を与えることは可能かもしれない。
従魔全員が星4つとかになったら、脅威度はかなりのものだろう。
ましてや星5つに進化したりしたら・・・。
ただ、世界樹の能力がよく分からないので、何とも言えないところもある。
攻撃力、防御力、補助能力に他の勢力との協力関係など、僕にはまったく世界樹について知識がない。
植物鑑定が有効なら、一度じっくり見てみたいと思うけど、鑑定レベルをカンストしないと無理だろうな。
いや、カンストしても無理か。
まあ、世界樹にしてみれば、こんなややこしい存在たちを敵にはしたくないだろうなとは思うけど。
「じゃあ、従魔たち、行っていいよ。でもやり過ぎないようにね。」
「あるじ〜、心配しなくて大丈夫だよ〜。先にちょっと世界樹に挨拶して来るからね〜。」
ディーくんがそう言い残して森の中へ消えて行った。
もちろん他の従魔たちもすでに姿を消している。
ただスラちゃんだけは僕の左腕に残るようだ。
一応、警護役らしいが、森の中を動き回るのが面倒だっただけのような気がする。
「ウィン、クマさんが何か凄いことを言ってなかったか?」
「さあ、空耳じゃないですか。」
「ウィン、大魔王たち、やっぱり半端ないわね。」
「リーたん、何を言ってるのかな?」
「世界樹にちょっと挨拶して来るとか、大魔王じゃないと無理だと思うわ。」
リーたん、世の中には、はっきり言わない方がいいこともあるんだよ。
僕がせっかく聞こえなかったふりしてるのに、台無しじゃん。
海底の洞窟に引きこもってたリーたんにはその辺の匙加減は難しいかな。
でもそういう世渡り的なことも、少しずつ学ばないとね。
ということで、ディーくんの言葉に少なからず衝撃を受けた3人は、ようやく森の中へと進み出した。
* * * * * *
土で固められた白い道を3人で歩いて行く。
スラちゃんは僕の左腕で静かにしている。
街道の左右の木々はなぜか白い色をしている。
白樺やユーカリには見えないけど、とにかく幹は白い。
このため、このシルワの森は『白の森』と呼ばれているらしい。
頭上は枝葉に塞がれているので道中は薄暗いけど、何も見えない程じゃない。
所々には日差しが差し込んでいる場所や、まだらに木漏れ日が落ちている場所もあった。
「ルルさん、これ、ただまっすぐ歩いて行けばいいんですか?」
「基本はそうだ。でもな、悪い奴はいつの間にか道に迷って、シルワの街に辿り着けないらしい。」
「それも世界樹の結界の効果ですか?」
「そうとも言われているし、何かの空間魔法がかかっているとか、木々が『混乱』を引き起こす香りを出しているとか、いろいろな説がある。」
「そうなんですね。あと悪い奴の定義は?」
「私に聞くな。たぶん世界樹が判断するんじゃないか。」
結局ルルさんもよく分からないらしい。
街道の道幅は割と広く、荷物を積んだ馬車が充分すれ違えるくらいはある。
3人でテクテク歩いていると、時々荷馬車やちょっと煌びやかな馬車とすれ違った。
「ルルさん、森の中の道って、どうなってるんですか?」
「入口は、東西南北に一つずつある。南は私たちが入ってきた入口、西は海岸、北は山脈、東は平原にそれぞれ出る。森の中を十字に大きめの街道が通ってる感じだな。」
「他に道はないんですか?」
「小さい道は複雑過ぎて、森エルフ以外は使わん。我々が使っても迷うだけだ。」
しばらくは黙々と歩いた。
リーたんは森が珍しいようでキョロキョロと周辺を見回している。
『碧の海』の洞窟に引きこもってたので、陸の光景に興味を持つのは当然だろうけど。
「リーたん、海竜って基本的には海にいるんだよね。」
「さあ、知らない。」
あれっ?
答えが予想と違う。
「知らないの?」
「他の海竜とか、知らないもの。」
そうか、洞窟の中で初めて出会った時、そんなこと言ってたな。
他の海竜の情報がないから、一般論が分からないってことか。
「でもリーたんは、ずっと陸に居ても平気なの?」
「たぶん、大丈夫だと思う。海の中は好きだけど、陸に居ても何ともないよ。」
そうなのか。
まあ、竜種だし、陸に居たからって弱るほどヤワな生き物じゃないよね。
属性的なものか、魔力の種類か、何かの具合で基本的な居場所が決まってるだけで、行こうと思えばどこにでも行ける感じかな。
「ところでウィン。」
「はい何でしょう、ルルさん。」
「いつまでこうして歩いてるつもりだ?」
「えっ、どういうことですか? シルワの街まで歩くんじゃないんですか?」
「歩くと、遠いぞ。」
「えっ、でも馬車とか持ってませんし。」
ルルさん、いったい何が言いたいんだろう?
確かに巨大な森だし、シルワの街が真ん中辺りにあるとすれば、かなり時間がかかるだろうけど。
走るにしても、リータンがいるからな。
海竜って早く走れるんだろうか?
そんなことを考えていると、
「転移、しないのか?」
ルルさんが何でもないことのようにそう言った。
あれっ、転移できるのか。
世界樹の結界の中だから転移は使えないと勝手に思い込んでた。
それならそうと早く言ってくれればいいのに。
「転移、できるんですか。」
「なぜ、できないんだ?」
「世界樹の結界の中は、転移できないと思ってました。」
「誰かがそう言ったのか?」
「いえ、僕の思い込みです。でもルルさん、どうして最初にそう言わなかったんですか?」
「ウィンにとって初めてのシルワの森だしな。歩いてみたいのかと思ってな。」
なんと。
確かにちょっと歩いてみたいって気持ちはありました。
でもルルさんにそんな気遣いができるなんて。
ちょっと感動したかもしれません。
「ウィン、また失礼なことを考えているな。」
ルルさんがそう言いながら、両手の拳をぐりぐりの形にしたので、僕は慌ててルルさんから逃げた。
そして危うく前から歩いて来た女性にぶつかりそうになった。
僕はギリギリでその女性を躱すと、すぐに警戒態勢をとった。
特にその女性から敵意や悪意を感じたわけじゃない。
ただ直前まで周囲には何の気配もなかったのに、その女性は突然目の前に現れた。
普通の人じゃないことだけは確かだ。
僕は不測の事態に備えて意識を集中した。
刺客か、盗賊か、人型の魔物か。
初めての場所では未知の危険に遭遇することもある。
でもその女性は両手を軽く上げるとにこやかに微笑みかけてきた。
良く見ると、それは見覚えのある人物だった。
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