167.従魔ブートキャンプ(再教育計画:リベル)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(167)
【アマレパークス編・首都アマレ】
167.従魔ブートキャンプ(再教育計画:リベル)
「庭ならいいってどういうこと?」
僕は従魔たちに向かって質問した。
ルルさんとリベルさんが『小屋』に住むことについて、従魔たちの賛否を訊いたところ、ルルさんについては全員一致で賛成、リベルさんについては「庭なら可」という結論に至ったからだ。
『小屋』の中には宿泊用の部屋があるが、そこを使うのはダメってことだろうか?
でも『小屋』に付属している『庭』で野宿するのは許すと。
「あるじ〜、言葉通りだよ〜。リベル君は、庭でサバイバルだよ〜」
ディー君が僕の疑問に答えてくれた。
『庭』でサバイバル?
普通の庭なら妙な話に聞こえるけど、あの『庭』ならまあサバイバルって表現もありか。
でもなぜ?
「リベル君はね〜、室内に居るとダレるからね〜。庭で再教育だよ〜」
なるほど。
つまり、「元勇者」を鍛え直すってことだね。
それなら理解できなくもない。
リベルさん、ちょっと緩み過ぎだしね。
それにしてもディー君、リベルさんのことは「リベル君」呼びなんだね。
ルルさんのことも「ルルちゃん」呼びだから違和感はないけど。
「再教育って、何をするのかな?」
「リベル君弱いから〜。一緒にいたいなら鍛えないといけないでしょ〜。だからみんなで再教育するよ〜」
「みんなって、従魔たちみんな?」
「そうだよ〜。従魔のブートキャンプだよ〜」
う〜ん、従魔たち、いったいどこから言葉を仕入れてくるんだろう。
時々使用する単語が時空を超えてる気がする。
まあ、そんなことよりリベルさんの再教育か。
「元勇者」だから基本的には強いんだけど、従魔たち基準だと物足りないのかもしれない。
でもリベルさん大丈夫かな。
生き残れるかな。
従魔たち、『庭』を超絶魔改造すると思うんだよね。
「リベルさん、従魔たちはこう言ってますが、どうします?」
僕は、従魔たちに居候を否定されて床の上で失意に沈んでいるリベルさんに確認してみた。
「ウィンさん、ボク、庭に住みます。もう馬小屋の藁の中で寝るのも、腐った残飯を食べるのも嫌です。ここに置いて下さい。」
「でも、サバイバル、結構大変だと思いますけど。」
「大丈夫です。耐えて見せます。すぐに生まれ変わったボクをお見せしますよ。」
リベルさんはそう言うと、顔を上げて立ち上がり、拳を握りしめた。
うん、本人がいいならそれでいいけど、従魔たち、容赦ないからな。
ボロボロになったリベルさんの姿が目に浮かぶようだ。
僕はリベルさんの先行きに不安を感じたけど、本人は珍しく真剣な表情をしている。
さすがに覚悟を決めたのかもしれない。
しばらくディーくんのことを真っ直ぐに見つめた後で、リベルさんが口を開いた。
サバイバルについて質問でもあるんだろうか。
「ディーくん、確認したいことがあるんですが・・・」
「リベル君、何かな〜」
「寝る場所は・・・」
「庭だよ〜」
「でもご飯は・・・」
「庭で自分で調達してね〜」
「お酒は・・・」
「自分で造れたら飲んでもいいよ〜」
リベルさん、まったく覚悟できてないじゃん。
ディーくんから少しでも譲歩を引き出そうとして、即座に却下されてるし。
サバイバルごっこじゃなくて、サバイバルだからね。
めっちゃ厳しいと思いますよ。
ディーくん、かわいいぬいぐるみっぽい見た目だけど、中身は鬼教官だから。
「ちなみに従魔のブートキャンプって、どんなことする予定なの?」
再び膝を着いて落ち込んでいるリベルさんを横目に、僕はディーくんに尋ねてみた。
だって内容、気になるよね。
「あるじ〜、基本的に庭に放置だよ〜。」
「えっそうなの? それで再教育になるの?」
「なるよ〜。魔物でいっぱいにするからね〜。」
ええっ、『庭』に魔物を!
それって大丈夫なのか?
「それって危なくない?」
「大丈夫だよ〜。全部僕たちの言うことを聞く魔物だから〜。リベル君だけ攻撃するように言ってあるから〜」
うん、ちょっとだけリベルさんに同情した。
魔物だらけの庭でサバイバルなんて。
こっそり差し入れとか持って行ってあげようかな。
まあ、ルルさんなら逆に大喜びするかもしれないけどね。
「従魔たちは何もしないの?」
「するよ〜。サバイバルの合間に訓練だよ〜」
「誰が担当するの?」
「湖はタコさん、草原はウサくん、森はハニちゃんとコンちゃんとラクちゃん、山はスラちゃんかな〜」
「ディーくんは?」
「総合プロデューサーだよ〜」
うん、鉄壁の布陣だね。
これ、リベルさん生き残れないかもしれない。
湖ではタコさん率いる『雷鰻』(電気ウナギもどきの正式名)の群れに追い回され、
草原ではウサくん率いるレプス(ウサギ)系魔物に突撃され、
森の中ではハニちゃんとコンちゃんとラクちゃんの三次元トリプルコンボの的にされ、
山ではスラちゃん率いるスライム系魔物に弄ばれる。
ちょっと心配だけど、リベルさんの自己責任だし、あとはこの試練を無事に乗り越えてくれることを天に祈ろう。
運が良ければ(奇跡が起きれば)、強くなって帰ってくるだろう。
よし、これで「居候問題」は一段落したかな。
ん?
誰かのこと忘れてるような。
そう思ってリビングの中を見回すと、ソファに座って串焼きをガジガジしている青い髪の少女を見つけた。
リーたん、まだ食べてたんだね。
その小さな体でどれだけ串焼き食べるのかな?
まあ本来は海竜だからいっぱい食べても不思議じゃないんだろうけど。
僕はソファのところまで移動してリーたんの隣に座った。
そして一応彼女の意思も確認することにした。
「リーたん、リーたんはここには住まないよね?」
「当然でしょ。こんな大魔王がいっぱいいる所で安眠できるわけないじゃない。私は自分の洞窟で寝るわ。ここにはいつでもすぐ来れるし。」
「そうなんだね。従魔たちのことは慣れたと思ってたけど。」
「もう慣れたわよ。でもそれと、本能からくる恐怖感はまた別なの。」
「そうかあ。でも顔は出すんだよね。」
「もちろん。毎日来るわ。ご飯食べに。昼間はここ、夜は海の洞窟ね。」
リーたんはそう答えると、また串焼きをガジガジし始めた。
リーたん、ここは食堂じゃないんだけど。
そこのところ間違えないようにね。
えっ、食材をたくさん持ってくる?
魚介類か海の魔物ばかりになると思うけど?
それならまあ・・・良しとしようかな。
リーたんとの会話を終えたところで、今後の基本的な行動パターンはだいたい決まった。
ルルさんはこの『小屋』を起点として僕と一緒に冒険の旅を続ける。
従魔たちは僕には従うけど、それ以外は自由自在。
リーたんは、『碧の海』の洞窟に住みつつ、昼間は『小屋』にやって来る。
リベルさんは、『庭』で従魔たちによるブートキャンプ。
他のイレギュラーな人たちには、その都度対応すればいいか。
主にジャコモさんとか。
ということで次の街に移動しよう。
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