160.あっ、痛い!痛い!(ぐりぐり by ルル)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(160)
【アマレパークス編・首都アマレ】
160.あっ、痛い!痛い!(ぐりぐり by ルル)
2人の女性が笑顔で向かい合っている。
その笑顔からは、暖かさや親しみではなく、背筋が凍るほどの冷たさが漂ってくる。
僕は2人の間で身動きが取れなくなっていた。
言葉を発することもできない。
それはまるで蛇に睨まれた蛙。
もしくは、神龍に睨まれた「はらぺこエルフ」。
ダメだ。
極度の緊張状態になると、ついつい思考が現実逃避してしまう。
神龍の前で震えているリベルさんの映像が頭から離れない。
でもリベルさん、震えながら神龍に串焼きを差し出している。
どうかこれで勘弁して下さいみたいな感じで。
まあ、僕の中のリベルさんのイメージって、こんなものだよな。
そんなことを考えていると、目の前の女性たちが言葉を発した。
「本当にいい度胸だな、小娘エルフ。」
「聖女様の方こそ。」
ん?
今、聖女様って言った?
ミエーレさん、ルルさんが聖女だって気づいてる?
僕が2人のやり取りに動揺していると、ルルさんとミエーレさんが突然、表情を崩して笑い出した。
「ハッハッハッ、見たか小娘エルフ、あのウィンの顔を。」
「フフフ、しっかりと。それにしても聖女様も人が悪い。」
「人が悪いのは小娘エルフの方だろう。途中で気づいていたんだろう?」
「はい。初めは勘違いしましたが、これは違うかなと。」
「それならそこで止めればいいだろう。」
「いえ、ちょっと面白かったので。」
何これ?
何が起こってるの?
まったく理解不能なんですけど。
「ウィンさん、申し訳ありませんでした。最初はウィンさんが変な女に付き纏われてるのかと思って・・・ちょっとお芝居をさせて頂きました。でも途中でルルさんが聖女様だと気づいたので・・・」
「ウィンのために咄嗟にあんな対応ができるとは、本当にいい度胸をしている。名前を教えてくれないか?」
「はい聖女様。私はミエーレといいます。」
「ミエーレか。良い名だ。覚えておこう。」
「恐縮です。暴言の数々、お許し下さい。」
「気にしなくていい。ウィンを思ってのことだろう?」
すみません。
頭が混乱してきました。
ちょっと整理させて下さい。
ミエーレさんは、突然現れたルルさんを、僕に付きまとうヘンタ・・・変な女性だと思ったってこと?
それでわざと僕と親しいふりをしたと?
でも途中でルルさんが変な女性ではなくて(いや変な女性かもしれないけど)、聖女様だって気づいた?
ルルさんもミエーレさんがわざと演技してるって気づいた?
でも僕の反応が面白かったので2人で演技を続けた?
これって、僕が「激おこ」になってもいい案件じゃね。
馬鹿にされたわけじゃないけど、弄ばれた感じだよね。
あれっ、「激おこ」ってもう死語だっけ?
まあ、世界が違うからいいか。
とにかく出発点は僕のための行動だったわけで・・・。
でも途中からは面白がってたわけで・・・。
どう対応するんだ、これ?
怒るべきか、感謝するべきか、スルーするべきか・・・
・・・よし決めた。
スルーしよう。
言葉でルルさんとミエーレさんに勝てる気がしない。
最初から何も無かったことにしてしまおう。
「ミエーレさん。」
「はい何でしょう、ウィンさん。」
「花酒、予備の樽ありますか?」
「ありますよ。」
「屋台に支障がなければ、予備の樽全部売ってくれませんか?」
「全部!?」
「ダメですか? もしかして宣伝のためにいろんな人に売らないとまずいとか?」
「いえ、今回は純粋に出稼ぎみたいなものなので、買って頂けるならありがたいですけど・・・」
「じゃあ、全部買います。」
僕はミエーレさんを相手に花酒の買取交渉を進めた。
ルルさんのことは、とりあえず完全に無視する。
揶揄われたことに対するささやかな仕返しだ。
小さい奴だと笑ってくれて構わない。
最近「ちんまり」とか言われてるし。
実はそのことも密かに根に持っていたりする。
「ウィンさん、怒ってません?」
「えっ、何かありましたっけ?」
「結果的にウィンさんを揶揄っちゃったみたいで・・・」
「さあ、何のことやら。そういえば、ミエーレさん、呼び方が『ウィンさん』に戻ってません?」
「はい、さすがに聖女様のご友人の名前を呼び捨てにはできません。」
そういうことなんだね。
別に呼び捨てでも気にしないんだけどな。
それにしても、僕に演技力はないな。
誤魔化す時に視線が不自然に泳いでるし、セリフが完全に棒読みになってる。
演技力が向上するクエストとかないのかな?
…うぃん殿、残念ながら無いようでござる…
即答、ありがとうございます、「中の侍」さん。
こういう時は早いんだね。
大事な時は遅いのに。
まあ本気で期待したわけじゃないけど(強がり)。
「ミエーレさん、予備の樽は全部でいくつですか?」
自分の演技力のなさにちょっと落ち込んだけど、気を取り直して僕は買取交渉に戻った。
「3樽ずつ3種類で9個です。」
ミエーレさんも僕の下手な演技には触れず、ストレートに質問に答えてくれた。
僕は9樽分の代金をミエーレさんに支払い、屋台の後ろに置いてあった予備の樽9個をその場で空間収納に収納した。
「ウィン、何だ今のは?」
ルルさんが僕の後ろで驚きの声を上げた。
そういえば、『空間収納』の事、まだルルさんに行ってなかったかも。
でもあえて説明はしない。
完全無視続行中。
「ウィンさん、何が起きたんでしょうか? 樽が一瞬で消えちゃいましたけど・・・」
「ああ、ミエーレさん。僕、空間収納が使えるので。見えている範囲ならだいたい収納できます。」
「空間収納! 初めて見ました。」
「収納量無限で時間停止機能も付いてるんです。凄いでしょ。あっ、痛い!痛い!」
ルルさんを無視してミエーレさんに空間収納について説明していると、いきなり頭痛が襲ってきた。
いや正確に描写すると、ルルさんが背後から僕に近づき、両手をグーにしてこめかみをぐりぐりしてきた。
「ルルさん! 痛い! やめて下さい!」
「私を無視するとはいい度胸だな、ウィン。」
「本当に痛いです! やめて!」
「それはおかしいな。私はここに存在しないのだろう? それなら痛いはずがない。」
「すみません! ごめんなさい! もう無視しません!」
そこでようやくルルさんはぐりぐりをやめてくれた。
まじで頭が割れるかと思った。
拳がメインウェポンだけあって、ルルさんのぐりぐりの威力、半端ない。
「じゃあ、説明してもらおうか、ウィン。」
「何をですか?」
僕は痛むこめかみをさすりながら、ルルさんの方を見る。
「もちろん、なぜウィンが空間収納を使えるのかの説明だ。」
「ええっとですね、テイマーギルドに登録したので、ギルド登録数が4つになって、空間収納を獲得しました。」
「で、なぜそれを私に言わない?」
「・・・・忘れてました。」
「私に言うのは忘れていて、初対面のミエーレには説明した、そういうことだな?」
「・・・・・」
そう言われてしまうと、確かにその通りだ。
客観的に見ると・・・敗訴確定だ。
誰が判断しても悪いのは僕の方になるだろう。
こういう時は、チェンジザサブジェクト(change the subject)。
話題を変えてしまおう。
「ルルさんも空間収納、持てるかもしれませんよ。」
僕はルルさんが興味を持ちそうな方向に話を変えた。
「何だと、ウィン、本当か?」
ルルさんは即座に食い付いた。
「あと2つギルドに登録できれば、可能性はあります。」
そう、ルルさんも4つのギルドに登録すれば、僕と同じように空間収納を獲得できる可能性がある。
すでに冒険者ギルドと商人ギルドに登録しているので、あとは・・・。
ルルさんって、他に何ができるんだろう?
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