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158.全部当てたらご褒美です(花酒:森エルフ)

見つけて頂いてありがとうございます。


第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)


主人公が世界樹のアマレパークスで様々な出来事に遭遇するお話です。

仲間として戦闘狂の聖女ルルに続いてエルフの元勇者リベルが加わります。


週3回(月・水・金)の投稿となります。

よろしくお願いします。


第三章 世界樹の国と元勇者(158)

【アマレパークス編・首都アマレ】  



158.全部当てたらご褒美です(花酒:森エルフ)



「あるじ〜、あっちでお酒も売ってるよ〜。」


一通り目ぼしい食べ物の屋台を回った頃にディーくんがそう言ってきた。


うん、気付いてたよ。

いくつか酒売りの屋台が固まってるよね。

でもボトルで売ってるわけじゃなくて、樽から木のコップに注いで1杯ずつの販売なんだよね。

つまりその場で飲むためのお酒。

乾杯してる人たちはみんな、屋台でお酒を買って、木のコップをぶつけ合ってる。


僕自身は前の世界での常識に縛られてるせいか、朝からお酒を飲むのは、何となく気が引けるというか・・・。

まあ、仕事してるわけでもないから、朝から飲んでも問題ないんだけどね。


「あるじ〜、試し飲みしてみれば〜。美味しかったら樽ごと買っちゃえばいいんだよ〜。」


おお、ディーくん、大胆な発言。

でもよく見ると予備の樽を置いてる屋台もあるし、樽買いもありか。

空間収納に入れちゃえば、樽を持ち運ぶ必要もないし。

まあとりあえず味見だけでもしてみよう。


酒売り屋台の方に近付いて行くと、威勢の良い呼び込みの声が響いてきた。


「コロンバールの白ワインだよ〜。キレがあって飲みやすいよう〜。氷を入れて冷やして飲んでも美味しいよう〜。」


屋台なのに氷まで準備してるとか、なかなかやるなぁ。

ワインはやっぱりコロンバールが有名なんだね。

赤ワインは置いてないのかな。

朝から赤は、ちょっと重いのかもしれないな。


「南の群島のラームだよ〜。ゴクリと飲めばガツンとくるよ〜。刺激が足りない人は飲んでみて〜。」


ラームは、ラム酒のことだろうな。

南の群島にはサトウキビがあるってことか。

一度行ってみるかな。

ラム酒の蒸溜所巡りとか楽しそうだし。

状態のいい古酒とか見つかるといいな。


「森エルフの花酒だよ〜。オレンジ、ピンク、紫の3種類あるよ〜。

香りが良くて体にもいいよ〜。」


ん?

花酒って何だろう?

森エルフが作ってるってことはこの国の特産品かな。

ちょっと興味が湧いてきたぞ。


僕は、花酒を売ってる屋台の方に歩いて行き、呼び込みをしている女性に声をかけることにした。

明るい緑色の長髪に透き通るように白い肌。

おそらく森エルフだろう。

僕より若い感じだけど、エルフの年齢は見た目だけだと分からないからね。


「花酒って、花からお酒を作るんですか?」


僕がそう質問すると、エルフの女性は一瞬キョトンとした後に笑顔になって逆に質問してきた。


「お兄さん、この国は初めて?」

「はい。」

「どこから来たの?」

「コロンバールからです。」


そう答えるとエルフの女性はちょっと落胆した表情になった。


「隣の国の人に知られてないなんて・・・ちょっとショック。」

「あっ、すみません。違います。もっとずっと遠くから来たんです。少しコロンバールにいて、昨日アマレに着いたばかりなんです。」

「そうなの? 良かったぁ。自信なくすところだったわ。」


彼女はそう言うと再び笑顔になった。

緑色の長髪に縁取られた顔がパッと明るくなる。

それはまさに花が咲いたような表情の変化だった。


「この花酒はね、山エルフが穀物から作る透明なお酒に、森エルフが育てたいろんな花を漬け込んで作るの。色も綺麗だし、香りもいいし、それに薬効もあるのよ。」

「凄いですね。華やかで体にもいいなんて。」

「そうでしょ。是非飲んでいってね。」


彼女はそう言いながら後方の屋台を指差した。

花酒売りの屋台の上には小さめの樽が3つ並んでいる。

それぞれにオレンジ、ピンク、紫の花酒が入っているんだろう。

樽ではなくてガラス瓶に入っていれば色合いも見えていいのにと思ったけど、考えてみればガラス瓶は運搬に向かないよね。


僕は3種類とも味見することにして、彼女に注文した。


「じゃあ、3種類全部、1杯ずつ頂いてもいいですか?」

「ホントに? ありがとう。ちょっと待ってね。」


彼女は大げさな身振りでお礼を言うと、屋台のところまで小走りで戻り、3つの樽から1杯ずつお酒を注いだ。

そして3つの木のコップを器用に両手で支え、僕のところまで持ってきた。


「はい。あっ3ついっぺんに渡したら飲めないわね。そこのテーブルに置こうか。」

「あっ、大丈夫です。従魔に持ってもらうので。」


そう言いながら、受け取った木のコップのうちの2つをディーくんに渡すと、ディーくんは何も言わずにそれらを受け取り、そのままマジックバッグの中に入れた。

マジックバッグの中って、液体がこぼれたりしないのかな?


「まぁ、従魔がマジックバッグを使うなんて珍しいわね。しかもクマ系の従魔なんてうらやましい。」

「クマ系の従魔って珍しいんですか?」

「そうね。クマ系の魔物はなかなかテイムできないって聞くわ。」


そうなのか。

クマ系ってテイムが難しいんだね。

熊って本来獰猛だから、クマ系の魔物もあまり人に慣れないのかもしれない。

まあ、ディーくんは、のほほん系だけどね。


「失礼ですけど、森エルフ族の方ですよね。」

「そうよ。ごめんなさい、まだ名乗ってなかったわね。シルワの森から来たミエーレよ。」

「僕はウィンです。ところでシルワの森というのは?」

「ここから北西の方に行くと大きな森があるの。そこがシルワの森。森の中に街があって、森エルフ族がたくさん住んでるの。」

「そんな街があるんですね。行ってみたい。」


僕は心の中で次の訪問候補地としてシルワの森をインプットする。

南の島の蒸溜所巡りは後回しでもいいか。


「いつでも大歓迎よ。」

「誰が行っても大丈夫なんですか?」

「もちろん。悪い人じゃなければね。私たちは森の中に住んでるけど、別に閉鎖的じゃないのよ。ほらこうしてアマレまで花酒を売りに来てるしね。」


僕の中では「エルフは排他的」ってイメージがあるけど、これは前の世界の影響だよな。

この世界のエルフはかなり活発に交流しているように思える。

海エルフの人たちはここアマレで様々な種族と一緒に活動してるし、森エルフのミエーレさんはこうして行商してる。

きっと山エルフの人たちも似たようなものだろう。


「ところで、花酒、飲まないの?」


僕があれこれ考えているとミエーレさんから指摘が入った。

そうだった。

お酒を受け取ったのに、口もつけずに話ばかりしてるのも失礼だよな。

まず1杯目を味見しよう。


「これは何の花を漬けてるんですか?」

「フフフ、当ててみて。」


ミエーレさんにそう言われて僕はコップの中を覗き込んだ。

でも木のコップのせいか、色合いはよく分からない。

口元に近づけて香りを嗅ぎながら少しだけ口に含む。


「あっ、この香りは分かります。キンモクセイですね。」

「正解よ。オレンジ色なんだけど、木のコップじゃ色が分かりづらいわよね。」

「そうですね。ガラスのコップに入れれば綺麗だと思いますけど。」

「そうなんだけどね。ガラスは壊れやすいし高価だから、さすがに屋台じゃ使えないのよ。」


ガラスは高いのか。

そう言えば、ジャコモさんが小屋の中のガラス製品に食い付いていたような。

ちゃんとガラスの相場を調べておこう。

そうしないとジャコモさんに安く買い叩かれてしまう。

ジャコモさん、その辺りは抜かりないからな。


キンモクセイの花酒を飲み干して、木のコップをミエーレさんに返すと、そのタイミングでディーくんが2杯目のコップを差し出してきた。

ディーくん、卒のない給仕係みたいだね。

しゃべらないのは、ミエーレさんを驚かせたくないからかな。


2杯目のコップの中の液体は少し紫色に見えた。

一口飲んでみたけど、香りと味からは何の花なのか分からない。

キンモクセイの香りが分かったのはたまたまで、元々、花の香りに詳しいわけじゃないしね。

ただ今回は色だけで推測してみる。


「これは・・・スミレですか?」

「また正解。よく分かったわね。」

「まぐれ当たりです。色だけで判断しました。」


まあ判断したというか、紫の花って、すみれ以外思いつかなかっただけなんだけど。

僕の頭の中には、花の香りというより花そのものの知識があまりないようだ。


「じゃあ最後ね。これも当てたらご褒美をあげるわよ。」


ディーくんが3杯目のコップを僕に差し出すと、ミエーレさんからそんな提案が出された。


ご褒美か。

何か分からないけど、ちょっと気になる。

でもさすがに全問正解は無理だろうな。

ここまでは運が良かっただけだし。


そんなことを考えながら、最後の花酒を飲んでみた。


次の瞬間、僕の頭の中で、吹雪のように舞い散る花びらの映像が再生された。




読んで頂いてありがとうございます。

徐々に読んで頂ける方が増え、励みになります。


誤字・脱字のご指摘、ありがとうございます。

ご感想を頂いた皆様、感謝いたします。

ブックマーク・評価を頂いた皆様、とても励みになります。

ありがとうございます。


次回投稿は9月1日(金)です。

よろしくお願いします。

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