144.聖薬草あります(青い何か)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(144)
【アマレパークス編・首都アマレ】
144.聖薬草あります(青い何か)
(良かった。ちゃんと発動する。)
僕は海底の崖の穴に入る前に、『転移陣』が水中でも発動するか心配になったので、試してみることにした。
目に見える範囲で短距離の転移を何度か行い、問題がないことを確認してホッと胸を撫で下ろす。
穴の中にいる「引きこもり」がどんなものなのか分からないし、それ以外にも危険に遭遇する可能性はある。
臆病者と思われるかもしれないけど、逃げるための最終手段は必要だ。
(お待たせ、タコさん。さあ、中へ入ろうか。)
そうタコさんに伝えると、タコさんは足を一本、左右に振りながら念話を返してきた。
(ダメなの。主、ひとりで入るの。)
(僕ひとりで? タコさんは?)
(ここで待ってるの。)
(どうして?)
(引きこもり、人がたくさんはダメなの。)
どうやらタコさんは穴の外で待機するようだ。
タコさんの言い方から推測すると、穴の中の存在は「引きこもり」で、たくさんの人と会うのは苦手らしい。
だから僕ひとりで会いに行けということだろう。
大丈夫かな?
タコさんの態度からすると危険はなさそうだけど、従魔たちの感覚って、かなり常識外れだからな。
鵜呑みにすると大変な目に遭いそうな気もする。
まあ、転移が発動することも確認できたことだし、今回はタコさんの言う通りにしてみよう。
僕は『遊泳』を使って穴の中に入って行った。
穴の中は水中洞窟のようになっていて、少しずつ上に向かって伸びている。
しばらく泳ぎ続けると水面のようなものが頭上に見え、そこを越えると空気がある空間に出た。
これって、巨大な湖の中にある絶滅したはずの古代恐竜の巣みたいな感じ?
あれは湖でこれは海だけど。
僕は水面から顔を出して周囲を見回してみた。
かなり大きな空間で、岩でできた陸地のような部分もある。
しばらく水の中で様子を伺っていると、岩場の奥の方から何かの声が聞こえてきた。
「ウ〜ン、ウ〜ン。」
何だろう、これ。
誰かが苦しんでる感じ?
「ウ〜ン、ウ〜ン。」
うん、苦しそうだね。
ちょっと近づいてみよう。
僕は陸地になってる部分まで泳ぎ、岩の上によじ登った。
そこで立ち上がって声のする方を見てみたけど、声の主は見当たらない。
岩が凸凹してるせいで、隠れてしまってるのかもしれない。
「ウ〜ン、ウ〜ン。」
また声が聞こえた。
僕は声のした方へ一歩踏み出そうとして、足を滑らせてしまい、転ぶのを避けるために飛び跳ねるような形になった。
その足音が空間に大きく響く。
「ウ〜ン・・・誰!」
いきなり、幼い女の子の声が聞こえた。
えっ、こんな所に幼女!?
海底の、しかもかなり深い所にある洞窟の中で幼女が苦しんでるなんて・・・。
・・・うん、ないな。
声はそれっぽいけど、こんな所に人間の幼女がいるわけがない。
言葉をしゃべれる何かだろうけど。
僕は一瞬、声がした方へ駆け出しそうになったけど、思い直して慎重に近づくことにした。
足元に気をつけながら岩場を少しずつ進んでいくと、岩と岩の間の窪みになっている所に、何か青い物体が見えた。
その青い物体は、時折モゾモゾ動いている。
僕はさらに近づく前に声をかけてみることにした。
「あの〜、大丈夫ですか?」
「誰! 勝手に入って来ないで!」
僕の問いかけに幼女の声で鋭い返事が返ってきた。
やっぱりさっきの声の主は、この青い何からしい。
僕はゆっくり近づきながらさらに言葉をかけた。
「あの〜、お困りではないですか? 苦しそうな声が聞こえたんですけど。」
「・・・」
今度は返事がない。
まあ、向こうも警戒するよね。
ここが巣のようなものだとすれば、いきなり知らない人が自分の家に侵入して来たようなものだし。
「え〜っと、怪しく思われるかもしれませんが、けして怪しい者ではありません。具合が悪そうなので、心配してるだけです。」
「・・・」
やっぱり返事がない。
怪しい奴が、自分で怪しい者じゃないって言っても説得力皆無なのは分かってるけど、この状況で何と言えばいいんだろう?
「ウ〜ン、ウ〜ン・・・うろこは・・・ないわよ!」
青い何かが、苦しそうに唸りながら何か言った。
うろこ?
鱗?
鱗がないって、どういう意味だろう!?
「鱗がどうかしたんですか? それよりもずいぶん苦しそうですけど、薬草とか必要ないですか?」
鱗のことはよく分からないのでとりあえず無視するとして、凄く苦しそうなので、薬草を提案してみた。
「薬草、あるの?」
すぐに反応が返ってきた。
「ありますよ。」
「薬草・・・ちょうだい。」
ウサくんみたいな答えが返ってきたので、ちょっと笑いそうになる。
でも本当に苦しそうだし、急いだ方がいいよね。
「やっぱり・・・ダメ・・・聖薬草じゃないと・・・」
「ありますよ。」
「えっ?」
「聖薬草、あります。」
「ほんとに?」
「はい。」
聖薬草が必要だと分かったので、僕はクエストで聖薬草を1束出して右手に持ち、青い何かに向かって尋ねた。
「ここに聖薬草があります。近づいてもいいですか?」
「・・・いいわ、でもゆっくりね。」
許可は出たけど、警戒心は解けてないようだ。
僕は驚かさないように気をつけながら、青い何かの方にゆっくり近付いて行った。
すぐ近くまで行くと、岩の向こう側に青い何かの全身が見えた。
これは・・・何て言うんだっけ?
首長竜・・・の子供?
そこには青くて首が長い小さな生き物が、体を丸めて苦しげに横たわっていた。
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