142.先鋒はウサくんです(ヒール:ウサくん)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(142)
【アマレパークス編・首都アマレ】
142.先鋒はウサくんです(ヒール:ウサくん)
アマレ港にはたくさんの人が集まっていた。
冒険者風の人たちはあまり見当たらない。
戦える者はすでに船で『碧の海』に出て行ったのかもしれない。
港街に住む人たちにとって、海は生活の生命線。
その海に異変が起これば、誰もが居ても立っても居られなくなるのは当然だ。
早朝ということもあり、ほとんどの人が着の身着のままといった格好で、変貌した『碧の海』をただ見つめている。
「これは・・・1日でこんなに変わるなんて・・・」
『碧の海』を目の前にして、僕の口から思わず驚きの声がこぼれた。
昨日初めて船の上から見た時には、明るく輝くような海だった。
それが今では真っ黒に近い緑色になり、透明度も失われている。
晴れ渡る夜明けの空とのコントラストは、かなり不気味な印象を与えていて、日差しを受けているにも関わらず、それを反射するきらめきさえ見えない。
「ウィン殿、わしもこれほどとは思いませなんだ。どうすれば良いものやら。」
さすがのジャコモさんも困惑気味の声を上げる。
シルフィさんは言葉もなく、まっすぐに海を見つめている。
「ウィン、これは、何と戦えばいい?」
珍しくルルさんも戸惑っている。
確かにこれは、いったい何を相手にすればいいんだろう?
集まってきている海の魔物たちを倒したところで、この海の状況が変わるとは思えない。
魔物が集まったからこうなったというより、この海の状況が魔物を呼んでるんだろうし。
「とりあえず、まず試したいことがあります。」
僕は誰にともなくそう言葉にすると、心の中で呼びかけた。
(ウサくん、来て。)
僕が心の中でそう呼びかけると、目の前に光の粒子が現れ、それが集まってウサくんになった。
(主、おはよ。薬草ちょうだい。)
ウサくんの第一声は朝ご飯の催促。
うん、安定のウサくんだ。
『碧の海』のあまりの変わりようにざわついていた心が、一瞬で和んだ。
ウサくんが念話で話しかけてきたのは、周囲に人がたくさんいたからだろう。
「ウサくん、薬草は後であげるから、とりあえず『ヒール』かけてくれる?」
(いいよ。誰にかける?)
「誰じゃなくて、あれなんだけど。」
僕が海の方を指差してそう言うと、ウサくんはちょっと考える素振りを見せた。
「もしかして、『ヒール』って、生き物にしか効かない?」
(大丈夫かな。やってみる。)
ウサくんは、念話で僕の疑問にそう答えると、海に向けてツノを一振りした。
すると、ウサくんのツノの先から光の粒子の塊が飛び出し、海の上に落ちた。
光の塊を目撃した一部の人たちから、どよめきの声が上がったけど、何が起こったのか分からずにキョロキョロと周囲を見回している。
僕は少しの変化も見逃さないようにと、光が落ちた場所をじっと見つめていた。
しばらく時間が経過した。
しかし何も起こらない。
光を目撃した人たちの動揺も収まり、すべての人の視線はまた『碧の海』に注がれている。
やっぱりダメか、そう思い始めた頃、光が落ちた辺りの海の色が少しずつ変わり始めた。
ドス黒い緑から透明な青に。
そしてその変化は、沖に向けて加速度的に拡大していった。
変化に気づいた人たちから歓声が上がり始める。
そして『碧の海』全体が元の輝くような海に戻ると、その歓声は群衆全体に拡がっていった。
「ウサくん、凄いね!」
僕は思わずウサくんを両手で抱き上げてそう叫んだ。
ウサくんは口をもぐもぐさせながら念話を返してきた。
(主、ダメだった。)
えっ?
これでダメなの?
どこが?
(主、ほら見て。)
ウサくんに促されて『碧の海』の方を見ると、一度回復した海の色が、再び段々と暗い色に変わり始め、やがてウサくんが『ヒール』をかける前の状態に戻ってしまった。
群衆から上がっていた歓声は悲鳴に変わり、頭を抱えて座り込んでしまう人たちもいた。
一度喜ばせた後に落胆させるとか、最悪かも。
本当に申し訳ありません。
早速次の手を考えないと。
でもどうすればいい?
(主、タコさん、呼んで。)
僕が対応策に悩んでいると、ウサくんから念話が来た。
タコさんを呼べばいいんだね。
そうだよね。
海の状態を見た瞬間「浄化しなきゃ」って思って、ウサくんを呼んじゃったけど、海のことだし本来の担当はタコさんだよね。
普段はアレだけど、やる時はやるタコだし。
きっとなんとかしてくれるはず・・・。
「タコさん、来て!」
僕は声に出してタコさんを呼んだ。
ウサくんの時と同じように光の粒が現れ、それが空中で集まりタコさんになった。
タコさんはバレリーナのようにクルクルっと回りながら着地した。
(呼ばれて、飛び出て、クルクルクルリン、なの。)
うん、タコさん、何歳なのかな。
それ前の世界の名作のセリフだよね。
最後のところが違うのは、権利とか気にしたのかな。
タコさんの登場の仕方にちょっと気を逸らされたけど、今はそれどころじゃない。
どうでもいいことは置いておいて、本題に取り組まないと。
「タコさん、何か秘策ある?」
(もちろんなの。)
「あるんだ・・・タコさん、(実は)凄いね。」
(そうなの。凄いの。)
「で、どうするの。」
(簡単なの。突撃〜なの。)
はいっ?
突撃?
それが秘策?
(あるじ、心配ないの。突撃すれば解決するの。)
タコさんのことを信じていないわけじゃないけど・・・。
ちなみにどこに向かって突撃するのかな?
(もちろん、あそこなの。)
タコさんはそう念話で答えると、足を一本、高く掲げて、ビシッと『碧の海』を指し示した。
うん、足先が少し下を向いてるね。
海というより、海の中に突撃かな。
もしかして海の底?
まあ、『水中呼吸』も『遊泳』もあるし、とりあえず行ってみますか。
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