14.3秒間クッキング(クエスト:COOK)
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『第一章 はじまりの島』は序章(準備編)です。
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第一章 はじまりの島(14)
14. 3秒間クッキング(クエスト:COOK)
○サーベル・ヘッド(☆☆)
体型 : 小型
体色 : 銀色
食性 : 肉食(自分より大きい獲物も襲う)
生息地: 海全般に生息。
特徴 : 高速で泳ぎ、サーベルに似た頭部で相手を切り刻む。
長い体を相手に巻きつけることもできる。
可食。(塩焼き・煮付け)
特技 : 切断・水流操作
小屋の外に出ると、悲しそうな目をしたタコさんが、3体のサーベル・ヘッドを抱えて待っていた。
サーベル・ヘッドは結構大きいし長いので、抱えているというよりほぼ埋もれている。
(これで小型とか。海の魔物の中型とか大型って、どれくらいのサイズなんだろう。)
とりあえず昼間の悲劇が再現されないように、タコさんにサーベル・ヘッドから離れてもらう。
そして念じるだけではなく、指向性を明確にするために本来は必要のない発声と動作を加える。
3体のサーベル・ヘッドを指差しながら、「炎」と声に出す。
別に中○病ではありません。
発声は、なるべく短い方がいい。
それだけです(ホントに)。
サーベル・ヘッドは、一斉に炎に包まれ燃え上がる。
個数制限がなくなったので、同時に3匹でも大丈夫。
体感で3秒くらい燃え続けた後、炎が消え、そこに大きめの深皿が3枚現れた。
お皿の中を覗くと、想像した「塩焼き」ではなく、サーベル・ヘッドの煮付けが盛られていた。
料理はまだ、思い通りにはいかないようだ。
* * * * *
窓から差し込む朝の日差しのせいだろうか、何か暖かいものを頬に感じて目が覚める。
自分の状態を確認すると、ベッドの上に寝転がっていた。
掛け布団はなく、木枠にマットレス(のようなもの)だけだけど、砂の上よりは全然いい。
口の中に砂が入ってジャリジャリすることもないしね。
昨夜は、サーベル・ヘッドの煮付けを食べてすぐに寝た。
タコさんは当然のように、煮付けを2皿食べて海へと帰っていった。
自分で扉を開け閉めしてたけど、どうやったんだろう?
ウサくんとスラちゃんは、煮付けのお皿を持って小屋に戻った時にはもういなかった。
みんな、来るのも去るのも自由だよね。
正直、テイムしている実感がない。
はっきりしない寝起きの頭で考える。
昨日気になっていたことがあった気がする。
面倒だから明日考えようと思ったこと。
そうだ、サーベル・ヘッドは炎で焼いたのになぜ煮付けになったのかについて。
まあそれ以前に「なぜ皿が?」とか、「調味料はどこから?」とか、「味付けは誰が?」とか、既に難問が山積しているけどね。
やはり、「そういうもの」として流すしかないんだろうな。
「気づかなかったこと」にするのが一番いいのか。
“トントン”
取りとめもなく考え事をしていると扉を叩く音がした。
訪ねてくる人は誰もいないはずなので、タコさんかウサくんかスラちゃんだろう。
全員かもしれないけど。
ベッドから立ち上がって扉の方へ歩いていく。
取手を回して扉を開けると正面に朝凪の海が見える。
控えめに繰り返す波の音が耳に心地いい。
朝の空気を胸いっぱいに吸い込んでから足元に視線を落とすと、キャベツとニンジンとピーマンがいた。
いや、山盛りの野菜と一緒にウサくんがいた。
(どこから? どうやって?)
いったいこの野菜たちはどこから持ってきたんだろう?
ここまでどうやって運んだのかも想像がつかない。
ウサくんのその小さい手では無理だよね。
いろいろ疑問はあるけど、ウサくんは期待に満ちた目でこちらを見上げてくる。
体が左右に揺れている。
耳も左右に揺れている。
ウサくん、お前もか。
「それ、焼くの?」
答えはほぼ分かってるけど、一応訊いてみる。
ウサくんは、こちらを見つめたまま大きくうなづく。
仕方がないので、ウサくんを抱き上げ、野菜から離れた場所に降ろす。
(これ、まとめて焼いちゃっていいのかな?)
別々に焼くという選択肢もあったけど、一回で済ますことにした。
理由は面倒だから。
3種類の野菜を指差して、全部一緒にとイメージしてから発声する。
「炎」
炎が野菜を包み込み3秒間燃えて消えた。
あとには大きな円形のお皿がひとつ。
それは何のひねりもなく、普通の野菜炒め(肉なし)だった。
ウサくんがとても満足そうな表情で、モグモグと野菜炒めを咀嚼している。
それを見ていると少し心が癒される。
野菜を焼くと野菜炒めになるのは分かりやすいけど、毎回同じ結果になるとは限らないよね。
魚も塩焼きだったり煮付けだったりするし。
そういえば薬草を焼いても、野菜炒めになるんだろうか?
後で試してみよう。
幸せそうにモグモグしているウサくんを眺めていると、タコさんが海からやってきた。
今朝は魚を抱えてない。
まったくの手ぶらだ。
タコさんは、食事中のウサくんを見た後、こちらを向いて3本の足で器用に三角形を作った。
「三角形? おにぎり?」
タコさんは、うなづいてからちょっと跳ねた。
ジェスチャーが伝わって嬉しそう。
ご要望にお応えして、おにぎりを3個、タコさんの前に置く。
すぐにかじりつくかと思って見ていると、タコさんは足を軽く曲げてからビシッとおにぎりを指した。
そしてこちらを見る。
(???)
僕が首を傾げていると、タコさんはもう一度同じ仕草をする。
「もしかして・・・それも焼けってこと?」
タコさんは2本の足を伸ばして丸を作った。
頭の上で。
何気に器用だよね。
(おにぎりを焼けば、たぶんあれができるんだろうな。)
結果を想像しながら、おにぎり3つをまとめて焼くイメージを固める。
タコさんが十分に離れたのを確認して「炎」と発声すると、おにぎりが一斉に燃え上がり、3秒ほどで炎が消えた。
そしてその後には焼きおにぎり・・・ではなく、丸く盛られた炒飯が現れた。
うん、予想が完全に外れたね。
「中のヒト」、わざとじゃないのかな?
今ひとつ納得できないけど、まったく的外れでもないのがまた嫌らしい感じ。
まあタコさんがクルクル回って喜んでるから良しとしよう。
何となく勢いのままに薬草を出して焼いてみた。
何ができるのかが気になって。
炎が消えると、グラスに入った「青汁」のようなものが現れた。
法則がまったく分からない。
グラスを手に取って中の液体を眺めていると、視界の中でクエスト表示が光った気がしたので確認してみた。
なにこれ?
「FIRE」の派生系?
○クエスト : FIRE+ →(COOK)
報酬 : 料理
達成目標 : 材料を焼け
仕組みは理解不能だが料理ができることは認識した。
何が出来上がるかは、焼いてみないと分からないけど。
これも熟練度が上がればコントロールできるようになるんだろうか?
野菜炒めを食べるウサくんとチャーハンを食べるタコさんの隣で、おにぎりを出してかじる。
野菜が足りてない気がして、さっき作った青汁を飲んでみる。
薬草も野菜だということで。
あっ意外に飲みやすい。
1人足りないなと思っていると、ちょうどスラちゃんがやってきた。
そして目の前で体内から石をいくつか出した。
いつもの小石ではなく、明らかに天然石。
「スラちゃん、石出せるの?」
スラちゃんは、当然という顔でうなずく。
そして天然石から距離をとってこちらを見上げてくる。
そのまん丸な瞳にはワクワク感が溢れている。
(確認するまでもないか。)
石を焼いて何ができるのかちょっとよく分からないけど、スラちゃんの期待には応えないといけない。
天然石のほうを指で差して、本日3回目の「FIRE(改めCOOK)」を発動した。
数個の天然石は炎に包まれて3秒間燃える。
炎が消えるとそこには、金属のインゴットがひとつ転がっていた。
読んで頂いてありがとうございます。
次回投稿は明日です。
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