139.異変の内容を教えてもらいます(商人ギルド・アマレ本部ギルド長:ルカ)
見つけて頂いてありがとうございます。
第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(139)
【アマレパークス編・首都アマレ】
139.異変の内容を教えてもらいます(商人ギルド・アマレ本部ギルド長:ルカ)
「フォッフォッフォッ、ルカ殿は相変わらず手厳しいのう。ギルド職員の許可は取ったんじゃがのう。」
ルカさんの抗議に近い台詞に対して、ジャコモさんはのんびりした感じで言葉を返した。
「ギルド長の俺の許可は取ってねぇだろうが。」
「裏庭の片隅に小さい小屋を置くくらいのことで、ギルド長の手を煩わせることもないと判断したんじゃと思うがのう。」
「職員のやつら、ジジィに甘すぎだ。そもそもジジィはコロンバールの副ギルド長だろうが。」
「フォッフォッフォッ、それはまあ、『人徳』、というもんじゃろうかのう。」
「ちっ、食えねえジジィだ、まったく。」
2人の会話を聞いていると、どうやらこのルカさんが商人ギルド・アマレ本部のギルド長のようだ。
本部のギルド長ってことは、この国の商人ギルドのトップってことだよね。
でも鍛え上げられた体つきや荒っぽい言葉使いからすると、どっちかっていうと冒険者ギルドの人みたいだけど。
「そういえば、ジャコモさんって、アマレパークスでも有名なんですか?」
僕は少し疑問に思ったのでルルさんに訊いてみた。
ルルさんは両手を広げて「知らない」のポーズ。
すみません、訊く人を間違えました。
そう思っていると、横からシルフィさんがフォローしてくれた
「ジャコモ様はこちらでも有名ですわ。元々、商人ギルド連合会の副会長までされた方ですので。」
商人ギルド連合会の副会長?
何それ、初耳なんですけど。
副ギルド長より遙かに上の役職じゃないのか。
「ウィン様、もう少し詳しく説明させて頂きますと、国ごとに商人ギルドが存在するのですが、その取りまとめを行う組織が『連合会』です。ジャコモ様はその組織のナンバー2だった方です。」
うん、間違いなく偉い人だ。
でもその偉い人が、今は単一のギルドの副ギルド長?
どうしてそうなったんだろう?
シルフィさんは僕の頭に浮かんでいる『?』マークを読み取って、さらに説明を続けてくれた。
「ジャコモ様は以前はコロンバールの商人ギルドのトップを務めていらっしゃいました。連合会の副会長としてもご活躍されて次期会長候補の筆頭でしたが、商人として現場に戻りたいとおっしゃられて役職を降りられたそうです。現在、コロンの副ギルド長をしておられるのは、後進の育成のためだとお聞きしておりますわ。」
シルフィさん、説明ありがとうございます。
たいへん良く分かりました。
ルルさんやリベルさんとは違って、常識人としての知性を感じました。
僕の周りでは貴重な人材です。
それにしてもジャコモさん、侮れない商人だとは思ってたけど、凄い人だったんですね。
おそらくいろんな所に情報網を張り巡らせてるんだろうな。
諜報ギルド顔負けの情報収集能力があるのも納得できる。
イタズラ好きとか、駆け引きを楽しむとか、子供っぽいとこもあるけど。
「ルカ殿、そんなことより海の異変とは、いったい何が起こったんじゃろうか?」
「ジジイのくせに耳が早えな。どうせ職員の誰かが知らせたんだろうが。」
「情報収集の速さは商人の命綱じゃよ。連れも紹介したいし、とりあえず座らせてもらおうかのう。」
ジャコモさんはそう言うと、僕たちに手招きして応接セットの椅子に腰を下ろした。
僕とルルさんとシルフィさんも並んでソファに腰を下ろす。
その様子を苦々しげに見ていたルカさんも、「仕方ねぇな」と呟きながら執務机から移動して、応接セットの主席にどっかりと座った。
「ジジイ、何が知りたい?」
「異変の内容を教えてもらおうかのう。」
「簡単にいえば、海の色が変わった。」
「それは『碧の海』のことかのう?」
「そうだ。ドス黒く濁っちまった。」
「それだけかのう?」
「海の魔物が集まってきている。おかげで船が出せねえ。」
「なるほどのう。」
そこで一旦、会話が止まった。
あの輝くように青く透明だった『碧の海』が変貌してしまったらしい。
そのせいか、魔物が集まり始めていると。
港町にとっては一大事に違いない。
「ところでジジイ、そこの美女に挟まれてちんまり座ってる野郎は誰だ?」
いきなりルカさんの鋭い視線の矛先が僕に突き刺さった。
確かに僕の右隣にルルさん、左隣にシルフィさんが座ってるけど、初対面で野郎呼ばわりはちょっと心外だな。
それに「ちんまり」って表現もちょっと、いやかなり嫌だ。
「失礼なことを言うな。ウィンは確かにちんまり座ってるかもしれないが、ちんまりした男ではない。」
ルルさんがルカさんの言葉に噛み付いた。
ていうか、僕ってちんまりした感じなの?
ルルさん今、2回もちんまりって言いましたよね。
確かにこの世界、ガタイがいい人や背の高い人が多いけど、これでも結構鍛えてるんですけど。
「これはこれは。聖女様が声を荒げるとは珍しい。その野郎はルル様の付き人ということかな?」
「野郎ではない。ウィンだ。そしてウィンは私の付き人ではない。私のパートナーだ。」
ルルさんがそう高らかに宣言すると、ルカさんは少し顔を顰めて、視線をジャコモさんに戻した。
「ジジイ、意味が分からん。説明しろ。」
「フォッフォッフォッ、申し訳ないのう。本題に入る前に紹介が先じゃったのう。こちらの方はウィン殿じゃ。聖女ルル殿のパートナーにして稀代の魔術師、偉大なるテイマーにして不世出の鍛治士、そしてわしの後継者じゃ。」
ちょっとジャコモさん。
大盛りに特盛りを載せたような紹介はやめてもらえませんか。
それに最後の『わしの後継者』って・・・。
ルルさん、シルフィさん、僕の両隣でシンクロしてウンウン頷かないで下さい。
ルカさんが固まっちゃってますよ。
「ジジイ、冗談も大概にしろ。」
「全部事実じゃ。」
「そんなわけあるか! こんなちんまりした野郎が!」
あっ、また「ちんまり」って言われた。
かなり落ち込んできた。
もう帰っていいですか。
「おい筋肉執事、よく聞け。ウィンは私を戦闘で秒殺できる。100回戦えば100回ともだ。魔法は100以上使える。伝説の武器や防具を100個作れる。魔物100体だってテイムできる。そして絶対的真実として、私のパートナーだ。」
ルルさん・・・。
ルルさんの言語機能の中では、「いっぱい」=「100」なんですね。
擁護してくれるのはありがたいのですが、ちょっと内容が無茶苦茶過ぎです。
それにルカさんのことを「筋肉執事」って。
三揃いのスーツ姿って、確かに執事に見えなくもないですけど。
ほら、ルカさんがすっかり引いちゃってますよ。
「ジジイも聖女様もどうかしちまったのか? シルフィ、これはいったいどうなってんだ?」
ルカさんは埒があかないとばかりにシルフィさんに話を振った。
同じ街のギルド長同士だし、ルカさんとシルフィさんはお互いを良く知ってるのだろう。
シルフィさんは常識人代表なので落ち着いてきちんと説明してくれるんじゃないかな。
「ルカ様、わたくしもウィン様にお会いしたのは昨日が初めてですので詳しいことは存じ上げませんが、この短い間に体験したことから判断いたしますと、ジャコモ様とルル様がおっしゃってることは事実だと思います。」
シルフィさんは表情を変えることもなく、冷静に淡々とルカさんにそう告げた。
期待に反して、シルフィさんの言葉は、ジャコモさんとルルさんの発言を認めるものだった。
ルカさんは鋭い目でシルフィさんを見つめた後、一つ大きく溜息をついて僕に視線を移した。
「分かった。3人がそこまで言うなら仕方がねえ。ウィンと言ったか、お前がこの海の異変を解決して見せろ。そしたら認めてやる。」
はいっ?
どこがどうしたらそういう話になるの?
別に認めてもらう必要はないんですけど。
ジャコモさんのお手伝いをしようと思ってついて来ただけなのに。
あれっ、もしかしてこれもジャコモさんの策略?
そう思ってジャコモさんの方を見ると、実にいい笑顔で僕に向かって微笑んでいた。
読んで頂いてありがとうございます。
徐々に読んで頂ける方が増え、励みになります。
誤字・脱字のご指摘、ありがとうございます。
ご感想を頂いた皆様、感謝いたします。
ブックマーク・評価を頂いた皆様、とても励みになります。
ありがとうございます。
次回投稿は7月19日(水)です。
よろしくお願いします。




