138.初めてのお手紙(ポスト機能:中の侍)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(138)
【アマレパークス編・首都アマレ】
138.初めてのお手紙(ポスト機能:中の侍)
(ブ〜ン、ブ〜ン、ブ〜ン)
なんか頭の中が振動してる。
夢でも見てるのかな。
確か自室でベッドに倒れ込んで眠ったはずだけど。
(ブ〜ン、ブ〜ン、ブ〜ン)
もう一度頭の中で振動が響く。
なんだろうこれ。
音じゃなくて、振動を頭の中で感じるのはとても妙な感覚だ。
仕方がないのでゆっくり目を開くと、なぜか体全体が重いことに気づいた。
顔だけ動かして見ると、ベッドの上というか、僕の上で従魔たちが寝ている。
胸の上にウサくん、右脇にディーくん、左腕にスラちゃん、右脚にラクちゃん、左脚にハニちゃん、お腹の上にタコさん。
タコさんは、相変わらずひっくり返って「へそ天」というか、「足天」の状態だ。
なぜかコンちゃんだけ見当たらない。
…うぃん殿、申し訳ござらぬ。うぃん殿に便りでござる…
体を動かすと従魔たちが起きちゃうかなとか考えていると、メッセージが表示された。
どうやら「中の侍」さんからの連絡らしい。
そう言えば、小屋の中の管轄ってどうなってるんだろう。
どこから入っても共通の異空間だから、管轄ってないのかな?
案件によって臨機応変なのかもしれない。
ところで、「中の侍」さん。
『便り』って何?
…『ぽすと』に入れられた書状にござる…
ああ、誰かが小屋のポストに手紙を入れたんだね。
でも誰が入れたんだろう?
ポスト機能を知ってるのはジャコモさんくらいだと思うけど、ジャコモさん、小屋の中にいるよね。
僕は手紙の差出人に疑問を抱きながら、まず腕枕状態のディーくんから右腕を抜き、胸の上のウサくんをそっと持ち上げてベッドの上に置いた。
スラちゃんは腕輪状態なのでそのままだ。
ベッドの上で上半身を起こし、頭を左右に振ってみる。
少し眠気が飛んで、頭の中がクリアになった。
タコさんがコロンとお腹から落ちたけど、そのまま起きる気配はない。
そう言えば「中の侍」さん、さっきのブ〜ンって何?
…「ゔぁいぶれいしょん機能」でござる。うぃん殿が便りに気付かない状態の時に使うと仕様書に・・・ゴホン・・・使うものにござる…
なるほどね。
眠ってる時とか、メッセージの表示に気付かない時は、振動で知らせるわけですね。
振動より声で知らせてくれた方がいいんだけどな。
頭の中が振動するのって、ちょっと気持ち悪いから。
…声は無理でござるので・・・(パラパラ)・・・改めて対応を検討させて頂くでござる…
あっ、仕様書探したけど、答えが見つからなかった感じ?
まあ慌てないのでゆっくり検討して下さい。
それよりも大事なのは手紙の内容だよね。
「中の侍」さん、教えて下さい。
…うぃん殿、便りの内容を表示するでござる…
『ウィン様
緊急事態のためジャコモ氏に下記伝言をお願いします。
海に異変あり。
至急戻られたし。
商人ギルド・アマレ本部職員』
これ、僕宛てのようで僕宛てじゃない。
ジャコモさんへの伝言依頼だ。
初めての手紙が他の人への伝言とか、なんか釈然としないけど、緊急事態と書いてあるし、すぐジャコモさんに伝えないといけない。
それにしても『海の異変』って何だろう?
また羽雷魚でも出たんだろうか?
僕は両脚にしがみついているラクちゃんとハニちゃんをそっと剥がして、すぐに部屋からリビングに出た。
とても広くなったリビングを見渡すと、すでにリベルさん以外の3人がソファに座っていた。
皆さん、早起きですね。
別のソファを見ると、リベルさんとコンちゃんが寝ていた。
テーブルの上にワインの空き瓶が何本かあるので、酔い潰れてるのかもしれない。
もしかして捕縛系同士、意気投合したのだろうか。
「ジャコモさん、ギルドから緊急の連絡が入ってます。海に異変があるのですぐ戻って欲しいそうです。」
僕は単刀直入にジャコモさんに要件を伝えた。
ジャコモさんは少し驚いてすぐに申し訳なさそうな顔になる。
「ウィン殿、申し訳ないのう。勝手にポストを利用してしもうて。」
「いえ、別に禁止してませんので。使い方が意外だっただけで。」
必要があれば『ポスト』を使うように伝えていたし、使い方まで細かくこだわるつもりはない。
想定外の使い方だったけど、怒る程のことでもないし。
「寝る前に一度アマレ本部に戻って、何かあればポストに手紙を入れるよう伝えたんじゃ。朝一番でウィン殿の了解を取ろうと思っておったんじゃが、まさかその前に連絡が来るとはのう。」
ジャコモさんはそう言い訳しながら立ち上がった。
すぐに商人ギルドに戻るつもりだろう。
「ジャコモさん、僕も一緒に行きます。」
「私も行こう。」
「わたくしも、ご一緒させて頂きますわ。」
僕が同行を申し出ると、ルルさんとシルフィさんも続いた。
緊急事態なら人手は多い方がいいだろう。
僕たち4人はそのまま急いで小屋の扉を開けて外に出た。
もちろん、酔い潰れたリベルさんは放置したままで。
商人ギルド・アマレ本部に入ると、職員たちが慌ただしく動き回っていた。
冒険者ギルドとは違って、早朝からたくさんの冒険者や商人がいるわけでもないので、大騒ぎにはなっていない。
ジャコモさんは職員に声をかけることもなく、まっすぐ奥にある部屋に向かい、扉を開けて中に入った。
そこには応接セットと大きな執務机があり、一人の男性が書類に向かってペンを走らせていた。
「ご無沙汰じゃな、ルカ殿。」
ジャコモさんが声をかけると、その男性は一瞬動きを止め、ゆっくりとペンを机の上に置くと、立ち上がって顔を上げた。
かっちり固められた銀色の短髪に強さを感じさせる濃い紫色の瞳。
三揃いのスーツを着こなしているが、鍛え上げられた筋肉を隠しきれていない。
たぶんヒト族。
だとすると30代くらいか。
「ジャコモのジジィか。俺がいない間に勝手に妙な小屋を立てやがって。どういう魂胆だ?」
あれっ、いきなり喧嘩腰。
緊急事態に駆けつけたつもりだったけど話が違う?
これ、どうなってんの?
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