137.初めてのお泊まり会(宿泊用個室)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(137)
【アマレパークス編・首都アマレ】
137.初めてのお泊まり会(宿泊用個室)
「ウィン、やり過ぎだ。」
ルルさんが前方を見たまま、遠い目をしてそう呟いた。
今僕たちは、広大な草原を目の前にして立っている。
左手には柵で囲まれた農場と果樹園用地が拡がり、右手には草原よりも大きな湖が見える。
正面の草原が終わる辺りから鬱蒼とした森が始まり、左右の農地と湖を包み込むように半円状に横たわっている。
そして森の向こうには、その頂を雪で白く染めた山が聳えている。
「でも、事前に説明したじゃないですか。」
僕はルルさんに反論してみた。
でもすぐに反撃される。
「ウィン、『これ』に対して『庭』という説明は、説明ではない。」
まあそうでしょうけど。
でも一応『これ』でも『庭』なんですよね。
『庭を作ったら大自然になりました』って説明しても、理解できなかったと思いますし。
もう、見せるのが一番早いかなと思っただけです。
従魔たちはあちこちに散らばって、何やら作業を始めた様子。
植物以外に生物はまだいないはずなので狩りはできないと思うけど。
植物以外、いないよね?
『想像』してないから、『創造』されてないよね?
あっ、そう言えば初めて『庭』を見た瞬間に、これじゃ『大自然』だなって考えた気がする。
あの時点では『改造機能』はまだONだったから、自然の生態系が再現されてる可能性があるのか。
まあどうでもいいや。
どうせ従魔たちがいろいろ持ち込むだろうし。
成り行きに任せよう。
ジャコモさんは腕を組んで何やら考え込んでいる。
この『庭』の商売的な使い道とか思考を巡らせてるのかもしれない。
シルフィさんは視線を上げて山の頂を眺めている。
単に遠くを見ているだけなのか、現実逃避してるのか、判断がつかない。
たぶん後者だと思うけど。
リベルさんは、従魔たちと同じように歓声をあげながらどこかに走り去ってしまった。
何の戸惑いもなく、この『庭』を楽しんでいるようだ。
リベルさん、もう8人目の従魔に認定してもいいんじゃないかな。
行動パターンがほぼ同じだし。
もちろんそれは冗談だけど、ご飯と寝る場所があれば、本人もあっさり受け入れそうで怖い。
「それでウィン、どうしてこうなった?」
「ええっとですね、小屋に宿泊用の部屋を追加しようとして、ついでに庭も作ったって感じですかね?」
「ついででこれはないだろう。」
「スラちゃんから庭に必要な要素が提案されまして、それに従ったらこれになったと・・・」
「庭に必要な要素とは何だ?」
「ええっと確か、畑と池と山と森。」
「それは庭ではない。」
「僕もそう思いましたけど・・・スラちゃんがそう言うし、まあいいかなって。」
結果、従魔たちも喜んでるし、『はらぺこエルフ』も喜んでるし、僕も気に入ってるのでこのままでいいと思う。
それに、ルルさんにとってもいいことはある。
「でもほら、ルルさんも、これだけの空間があれば修行とか訓練とか手合わせとかやりたい放題じゃないですか。」
僕がそう告げると、一瞬でルルさんの目の色が変わった。
そして何かに納得するとゆっくりと頷いてから僕の方を見た。
「確かに。ウィン、悪かった。ウィンの真意を読めてなかった自分が恥ずかしい。この空間も、ウィンから私への結納の一つということだな。」
ちょっと待ってくださいね。
誰もそんなことは言ってません。
最近比較的まともだと思ってましたけど、やっぱり部分的に(一部の話題になると)思考回路が壊れてますね。
まあ面倒なので、こういう流れは全部スルーしますけど。
ずっと『庭』にいても良かったけど、僕たちはとりあえず『小屋』の中に戻ることにした。
従魔たちと『はらぺこエルフ』は『庭』に放置したままで。
『小屋』と『庭』を繋ぐ扉は、特に許可とかしなくても誰でも出入りできるみたいなので、飽きたら勝手に戻って来るだろう。
「それでは皆さん、夜も遅いので帰られますか? ここに宿泊することも可能ですけど。」
ルルさんとジャコモさんとシルフィさんの3人にそう尋ねてみる。
「もちろん私はここに泊まる。」
ルルさんが即答した。
「ご迷惑じゃなければ、わしもここに宿泊させてもらいたいんじゃがのう。」
ジャコモさんも宿泊希望と。
「・・・知り合ったばかりで礼儀に反するかもしれませんが・・・このような機会を逃すわけにも・・・わたくしもお願いします。」
シルフィさんは少し悩みながらも、遠慮がちに宿泊希望と。
これで3人の滞在が確定した。
リベルさんは・・・戻ってきて要望があれば部屋を指定しよう。
そのまま『庭』に住みつきそうな気もするけど。
「ウィン殿、『庭』には自由に出入りできますかのう?」
「小屋の内部の扉は誰でも大丈夫みたいです。」
ジャコモさんが質問してきたので僕は『庭』を含めどの部屋にも出入りできると説明する。
『庭』も一応、内部扱いなので。
「ウィン様、外への扉はどうなのでしょう?」
「シルフィさんとジャコモさんは、扉を開けるとアマレの『小屋』の外に出ます。入ることもできます。僕が許可してる間だけですけど。」
シルフィさんの問いにも簡潔に答える。
すると当然、最後にルルさんも訊いてきた。
「ウィン、私はどうなってる?」
「ルルさんは・・・すべての小屋を使えるようにしておきました。」
「おお、自由に使えるのか? どうやればいい?」
「扉を開ける前に行きたい場所を思い浮かべるだけでいいですよ。」
そう告げると、ルルさんは大きくガッツポーズをした。
まあ、ルルさんなら大丈夫だろう。
もうそれくらいの信頼はしてるし。
ジャコモさん、そんな恨めしそうな目で見てきてもダメですよ。
ジャコモさん、絶対に悪用(商売的に)しそうだから。
「それでは、ルルさんは2階に上がって左側の一番目の部屋で、シルフィさんは左側の二番目、ジャコモさんは右側の一番目でお願いします。お酒は地下の貯蔵庫にあるのでご自由に。おつまみはもしかしたら従魔たちが作ったものが貯蔵庫にあるかもしれません。見つけたらご自由に。ではおやすみなさい。」
僕はそう言い残して自分の部屋に入った。
もう現実世界は真夜中を過ぎてるはず。
お酒を飲んだこともあり、眠くてしょうがない。
お風呂は明日の朝入ることにしよう。
そこまで考えてベッドに寝転がると、僕はすぐに眠りに落ちた。
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