133.宴会が始まるようです(大宴会:進化記念)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(133)
【アマレパークス編・首都アマレ】
133.宴会が始まるようです(大宴会:進化記念)
さて、みんなで食事をするための選択肢はいくつかある。
すぐに思いつくのは3つ。
1つ目は、『小屋』に戻って食材庫から材料を出して、僕のクエストで料理を作り、みんなに振る舞う方法。
でもこれだと、料理クエストの説明とか、食材の説明とか、珍しい料理(前世の料理)の説明とか、いろいろ面倒くさくなりそう。
2つ目は、『小屋』からアマレに戻って、お店を探すパターン。
この場合は、『小屋』がある商業ギルドの裏庭から、飲食店がある通りまで戻らないといけないし、従魔たちを全員連れて歩くと目立ちすぎる気がする。
せっかくだから従魔たちも一緒の方がいいしね。
そうなると選ぶのは3つ目ということになる。
一応相手に事前確認しないといけないけど、ちゃんと料金を払って、お客さんとして行けば大丈夫だと思う。
ということで、僕は全員を『小屋』の中に戻して、少しだけ待ってもらうことにした。
「ちょっと、食事ができるか訊いて来ますね。」
そうみんなに声をかけると、僕は1人だけ扉の前に立ち、別の場所を思い浮かべる。
そして扉を押し開けて外に出る。
途端に、濃い緑の匂いが僕の全身を包み込んだ。
『はじまりの島』はまだ明るかったけど、やっぱりこちらはすっかり暗くなっていた。
でも正面に見える建物のテラス部分からは明るい光が漏れているのが見える。
僕は軽い足取りでテラスの方に向かい、そこから室内に入って行った。
「こんばんは。まだ大丈夫ですか?」
「まあ、ウィン君。もちろん大丈夫よ。まだご飯食べてないの?」
アリーチェさんが明るい声で出迎えてくれた。
「ウィン君、どうしたんだい? 今夜は戻ってこないかと思ってたぞ。」
マッテオさんもいつも通りだ。
どうやら2人は差し向かいで飲んでたみたいで、テーブルの上にはワインボトルとワイングラスが置かれている。
結局、人が集まっていてもいなくても、毎晩飲んでるんだろうな。
まあワイナリーだし、2人にとってはワインは水みたいなものなのかもしれない。
「すみません、今夜は客として来ました。ちゃんと料金を払いますので食事をさせてもらえませんか?」
「なに水くさいこと言ってるの。ウィン君は家族みたいなものなんだから、食事くらいいつでも出すわよ。」
「そうだぞ、ウィン君。遠慮なんかしなくていいんだぞ。」
きっとそう言われると予想してたけど、実際に言われるとなんか心の芯の部分がじんわり暖かくなる。
でも今日はそれに甘えるわけにはいかない。
「いえ、今日は他にも連れがいるので。僕を含めて12人。」
「まあそんなに。材料、足りるかしら。」
アリーチェさんが人数を聞いて、ちょっと心配そうな顔になる。
「あっでも、僕とルルさんは食事してきてるし、7人は従魔たちなので。」
「ウィン君、その人数だともう食事じゃないな。」
「えっ?」
「それはもう、宴会じゃないか。」
ニカっと笑いながらマッテオさんが立ち上がり、奥の方へ歩いて行く。
あれは、間違いなく、ワインを取りに行ったんだろうな。
宴会が好きだよね、マッテオさん。
料理の準備とお酒の準備にそれぞれ動き出したアリーチェさんとマッテオさんをその場に残して、僕はみんなを迎えに『小屋』の方へ戻ることにした。
『小屋』の扉を開けて中を覗くと、従魔たちはダイニングテーブルの周りに、ジャコモさんとシルフィさんとリベルさんはソファに座っていた。
ルルさんとディーくんは、リビングの空きスペースで殴り合い・・・じゃなくて拳闘の訓練をしてる。
まあ別にいいけど、周りの物壊さないでね。
「食事、大丈夫みたいなので行きましょう。」
僕が扉を開いたままで声をかけると、従魔7人と海エルフ族2人とドワーフ族1人とヒト族1人が、順番に出てきた。
ジャコモさんとシルフィさんは扉をくぐりながらあちこちに視線を動かしている。
ルルさんとリベルさんは平然としている。
従魔たちは勝手知ったるなんとやらで、外に出るとそのままアリーチェさんのレストランの方へ走って行った。
「ウィン殿、ここはどこじゃろうか?」
周囲を見回しながらジャコモさんが尋ねてきた。
そういえば何も説明してなかったな。
知らない場所にいきなり連れて来られたら不安になるよね。
「ここはコロンの東にある葡萄農園です。ワイナリーとレストランもあります。僕がいつもお世話になっている人たちなので安心してください。」
「ウィン様、コロンの東ということは私たちは今、アマレパークスではなくコロンバールにいるということでしょうか?」
「はい、その通りです。」
シルフィさんが目の前に拡がる葡萄畑を見ながら現在地を確認してきたので、素直に認めた。
転移魔法とかが存在する世界なので、驚愕するほどじゃないみたいだけど、『小屋』の扉を開くと別の場所に出るということには、まだ少し戸惑いがあるようだ。
「ウィン殿、素晴らしい魔法じゃのう。ウィン殿が新しい商会を設立して、この『小屋』を世界中に作れば、我々は太刀打ちできませんのう。」
ジャコモさんが澄ました顔でそんなことを言ってくる。
それは考えてなかったけど、言われてみればそうかもしれない。
でも、大きい荷物はこの扉を通るんだろうか?
あっ、そうか。
ウサくんの『影潜り』で『小屋』の倉庫に運んで貰えばいいのか。
倉庫も拡張すればいいし、これ簡単にビジネスになっちゃう感じ?
そんなことを考えていると、横から催促の言葉が飛んできた。
「ウィンさん、早く行きましょう。もうお腹ぺこぺこで倒れそうです。」
元勇者の(はずの)リベルさん、最近、台詞のほとんどが食事関係な気がしますが、それでいいんですか?
まあ今回は食事のためにここに来たので、間違ってませんけど。
ジャコモさんとシルフィさんもお腹が空いてるはずなので、早速案内するとしますか。
人間組(従魔以外)を引率してアリーチェさんのレストランに入って行くと、そこはすでに宴会場になっていた。
なぜかメインテーブルのようなものが設営されて、そこにウサくんとタコさんとスラちゃんが座っている。
普通の椅子だと従魔たちには低すぎるので、子供椅子のようなものが準備されていた。
アリーチェさんは料理が盛られたお皿を次々にテーブルに並べていっている。
とりあえず、ハムやチーズやサラダといった、すぐに出せるもので対応しているようだ。
「マッテオさん、これ、どうなってるんでしょう? 料理もワインも多過ぎませんか?」
「ウィン君、何を言ってるんだい。お祝いの宴会だから当然だろう。もうすぐ他の人たちも集まってくるからね。」
お祝いの宴会?
他の人たち?
何をお祝いするんだろう?
僕たちはただ夕食を食べに来ただけなんだけど。
「ええっと、なんのお祝いでしょう?」
「もちろん、タコさんとスラちゃんの進化記念大宴会に決まってるだろう。」
「・・・・」
そういうことですか。
ディーくんあたりが、報告したんですね。
タコさんとスラちゃんも星4つになったことを。
それで既に星4つになってるウサくんを含めて、3人が主賓席に座ってるということですね。
それにしてもこの時間から『大宴会』って・・・。
「さあウィン君、飲むぞ。」
マッテオさんはいつも通り、両手に赤ワインと白ワインのボトルをそれぞれ構えた姿勢で、僕にそう言った。
マッテオさん、理由がなんであれ、飲みたいだけですよね。
まあもちろん、僕も飲ませて頂きますけど。
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