130.居候希望者が現れました(元勇者:リベル)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(130)
【アマレパークス編・首都アマレ】
130.居候希望者が現れました(元勇者:リベル)
「みんなで商人ギルドの裏庭に行きましょう。」
僕は言葉で説明するより実物を見せた方が早いと思ってそう提案した。
「それは名案ですのう。さすがウィン殿、判断がお早い。では案内致しますのじゃ。」
ジャコモさんがすぐに僕の意図を理解して同意してきた。
大きな体に似合わない素早さで、すでに応接室のドアに向かって歩き始めている。
ルルさんはこの後の展開をだいたい予想できているので、ゆっくりと席を立ち、無言のまま僕の隣に来る。
リベルさんは状況が読めず、
「えっ? 商人ギルド? えっ? 裏庭? どうして?」
という「落ち着きのない子供」状態になっている。
もう、元勇者という称号はいらないんじゃないかな。
「うっかりエルフ」とか「はらぺこエルフ」とかでいいと思う。
シルフィさんは表情を崩すことなく、背筋を伸ばしたままスラリと立ち上がると、僕に向かって軽く頷いた。
顔の左右の紺碧の髪がサラリと前方に揺れる。
リベルさん、これだよ、これ。
これが大人の対応だよ。
シルフィさんも状況を飲み込めてないと思うけど、それでも冷静さを失ったりしない。
リベルさんも少し見習った方がいいんじゃないかな。
そんな風に、リベルさんの「ダメ勇者」ぶりを心の中で再確認しているうちに、商人ギルド・アマレ本部の裏庭に到着した。
商人ギルドはテイマーギルドの2軒隣にあった。
「ウィン殿、この辺りであれば『小屋』を出して頂いても構いませんぞ。」
ジャコモさんが指定した場所は、商人ギルドの裏の出入り口に近い倉庫の隣だった。
コロンバールのポルト支部の時と同じような位置だ。
「じゃあ出しますね。HOME!」
何の前置きも説明もなく、いきなり『小屋』を出すことにした。
驚くだろうけど、前もって説明してもどうせ驚くからね。
「はい、これが『小屋』です。」
目の前にいつもの『小屋』が現れた。
郵便受けもちゃんと入り口部分に設置されている。
「お見事。連絡用の箱もありますのう。ありがたいことじゃ。」
「ジャコモさん、アマレの商人ギルドの人に何も言ってませんけど、大丈夫なんですか?」
「ご心配は無用じゃよ、ウィン殿。テイマーギルドに伺う前に、職員にきちんと説明してありますからのう。」
さすがジャコモさん、抜かりがない。
ここまですべて予定通りということですね。
ちょっと癪にさわるけど。
「ウィン様、この『小屋』はどのようにして現れたのでしょうか?」
シルフィさんが落ち着いた様子で尋ねてきた。
おそらく内心は驚いているんだろうけど、メンタルの強さと事前の覚悟で抑えてるんだろうな。
「特殊なスキルだと思って下さい。」
「スキル・・・ですか。一瞬で小屋を出現させるスキル・・・でもただの小屋ではないということですね。」
「はい、この中は異空間になってます。見た目と違ってかなり広いですよ。」
「異空間・・・」
異空間という言葉が、シルフィさんにはよく分からないようだ。
我ながら自分の能力についての説明は下手だなと思う。
「シルフィ殿、異空間というのはおそらく、別の世界みたいなものじゃろう。この目で見たみたいもんじゃのう。」
ジャコモさんがシルフィさんに補足説明をしながら、僕の方をチラチラ見てくる。
興味ありありなのは分かるけど、アプローチが露骨ですね、ジャコモさん。
そう思っていると、もっと露骨な人が他にいた。
「ウィンさん、この扉、開かないんですけど。」
見ると、リベルさんが『小屋』の扉を開こうとしてウンウン唸っていた。
リベルさん、人の話も聞かず何してんですか。
興味を持ったら即行動って。
子供か。
「リベル、お前は入れない。入れるのはウィンと私だけだ。」
ルルさんが少し勝ち誇ったようにそう言うと、リベルさんがすぐに言葉を返す。
「ルルだけなんてずるい。ボクも入りたい。ウィンさん、お願いします。」
ちょっと頭が痛くなってきた。
まあ僕が許可すれば誰でも入れるんだけど。
逆に言うと僕以外誰も自由に出入りはできないので、ちょっと中を見せるくらいは問題ないのか。
でも、この『小屋』の使い方、まだよく分かってないんだよね。
この機会に「中の侍」さんに確認してみるか。
僕は両手を組んで目を瞑り、考え込むふりをした。
人前で中の人たちと対話する時用のポーズだ。
(中の侍さん、聞きたいことがあるんだけど。今、大丈夫?)
…おお、うぃん殿から頼られるとは何たる光栄。もちろん大丈夫でござる…
(この『小屋』なんだけど、他の人の出入りの許可って、細かいルールとかあるの?)
…しばしお待ちくだされ。パラパラ・・・仕様書によりますと、ボコッ…
…(調整中につきしばらくお待ちください)…
今、仕様書って言ったよね。
パラパラって、紙をめくる音まで丁寧に表示されてたし。
あと、最後のボコッて、誰かに殴られた?
…うぃん殿、説明させて頂きます。『小屋』への出入りについては、うぃん殿の意思により自由に設定可能でござる。
例としては、次のようなものがあり申す。
うぃん殿同行時のみ入室許可
特定の人物への単独使用許可
許可時のみの使用許可
常時使用許可
特定の小屋のみの使用許可
すべての小屋の使用許可
結論として、うぃん殿のお好きなように「あれんじ」できるでござる。設定変更も可能でござる…
(よく分かりました。中の侍さん、ありがとう。)
ちょっと便利すぎじゃないかな、この『小屋』。
というかもっと早めに説明聞いとくんだった。
いやでも、「中のヒト」は説明してくれなかったしな。
中の人たちにもそれぞれ個性があって対応が変わるんだろう。
「中の侍」さん、訊いたら何でも教えてくれそうだけど、本当にダメな時は、誰かに殴られて止められるみたいだな。
「じゃあみなさん、ちょっと中を見てみます?」
「中の侍」さんとのやりとりも終わったので、考え込むふりを解除して僕がそう提案すると、まさか許可が出ると思っていなかったのだろう、全員が目を見開いた。
ジャコモさんとシルフィさんも驚いていたので、ちょっと満足。
「ウィン、それはダメだ。2人の秘密の部屋を他人に見せるなんて・・・」
「はい、ルルさんは黙って。」
ルルさんがポンコツ発言をし始めたのですぐに止める。
そして心の中でこの場にいる全員に入室許可を出した。
「ウィン殿、ねだってはみたものの、本当によろしいのかのう?」
「ウィン様、わたくしが見ても構わないのでしょうか?」
「ウィンさん、早く入りましょう。」
ジャコモさんとシルフィさんとリベルさんがそれぞれに言葉を返してきた。
う〜ん、約1名だけ、入室許可を取り消そうかな。
もちろんリベルさん、あなたのことですよ。
いろいろ思うところはありながらも、僕は小屋の前まで進み、扉を開いた。
「さあ、中へ入りますよ。」
礼儀的には他の人たちを先に通すところだけど、僕とルルさん以外にとっては、小屋の中は未知の世界なので、僕が先頭で入り、ルルさんが続いた。
ルルさんのすぐ後ろからリベルさんとジャコモさんが扉をくぐり、最後にシルフィさんが遠慮がちに小屋に入った。
「この広さは・・・」
「従魔たちが椅子に・・・」
ジャコモさんとシルフィさんが室内を見て、驚きの声を上げる。
リビングだけでも小屋の見た目の何倍ものスペースがあるので、初めてのジャコモさんが驚くのは無理もない。
それに、ダイニング・テーブルを囲んで従魔たちが全員椅子に座ってる光景も、初体験のシルフィさんには刺激的な光景だろう。
そんな中で1人だけ、意味不明な意思表明をした者がいた。
「ウィンさん、ボク決めました。ここに住みます。」
リベルさん・・・何寝ぼけたこと言ってんですか。
あなたには何も決める権利はないんですけど。
はあ〜、やっぱりルルさんの忠告を聞いておけば良かった。
やっぱり食べるものを与えるべきじゃなかったな。
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