129.忘れた頃に侍です(収納クエスト:空間収納)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(129)
【アマレパークス編・首都アマレ】
129.忘れた頃に侍です(収納クエスト:空間収納)
「フォッフォッフォッ、ウィン殿の従魔の皆さんは、さすが見事なもんじゃのう。今回も良きものを見せて頂き、感謝申し上げますのじゃ。」
ジャコモさんがお茶を一口啜った後、満足そうにそう言った。
僕たちは従魔登録終了後、「しゃべるディーくん」事件を経て、シルフィさんの案内で別室に移動し、お茶を頂きながら懇談という状態に至っている。
受付用の個室で「しゃべるディーくん」を目撃したシルフィさんは、一瞬驚愕の表情を見せたけど、すぐに表情を元に戻し、「別室で説明をお願いします。」と僕に告げてきた。
そして現在、シルフィさんはテーブルの上に置いた7枚の従魔登録用紙を熱心に見つめている。
テイマーギルドのギルド長だけあって、魔物に対する興味が強いらしく、従魔たちの鑑定結果を精査しているようだ。
ペンで何かを書き込んでるみたいだけど、その用紙、魔法用だけじゃなくインクでも直接書けるんだね。
ディーくんのところに「しゃべる」とか書き足してるんだろうか。
ちなみに従魔たちは召喚を解除して、一旦『小屋』に戻してある。
応接室は受付用の個室ほど広さがなく、大人5人と従魔7人が一緒に入るのはきつそうだったからだ。
受付嬢さんは、お茶を出してくれた後、すぐに退室している。
「ところでウィン様、言葉を使用できる従魔は『ディーくん』だけでしょうか?」
従魔登録用紙から顔をあげて、シルフィさんが尋ねてきた。
「それは・・・『使用』の意味によるかな。」
「意味といいますと?」
「音声として言葉を使えるのは、現時点ではディーくんとウサくんだけですね。」
「『ウサくん』も『しゃべる』と。」
シルフィさんはそう呟きながら、さっきとは別の従魔登録用紙にペンを走らせた。
今度はウサくんの用紙に「しゃべる」と書いた気がする。
「でもその言い方ですと、他の方法もあるということでしょうか?」
「はい、スラちゃんは鳴き声に意志を乗せて伝えてくるし、他の従魔たちは念話で伝えてきます。」
「ということは、すべての従魔と意思疎通が可能と考えてよろしいのですね?」
「そうですね。」
シルフィさんはそこで言葉を止めて、また何やら書き込み始める。
「鳴き声」とか、「念話」とか書いてるんだろうな。
シルフィさんの手が止まるのを待って、今度は僕の方から質問を投げる。
「従魔との意思疎通って、テイマーなら誰でもできることじゃないんですか?」
シルフィさんは少し考えてから僕の問いに答えた。
「ある程度の指示を伝えるという意味ではその通りですわ。それができなければテイムしたことにはなりませんので。しかし言葉を使って細かく正確に対話ができるかというと、そのようなテイマーを私は知りません。残念ながらギルド長である私にもできません。ウィン様独自の能力なのか、ウィン様の従魔の皆さんが特殊なのか、現時点では判断できませんが。」
そうなのか。
自分の従魔たちのことしか知らないので、意思疎通についてはこれが普通だと思ってた。
もちろん、従魔たちがかなり特殊な魔物だということには気づいてたけど。
「ウィン様、従魔の皆様とはどこで出会われたのでしょうか?」
当然その疑問が次に来ますよね。
誰も知らない種類の魔物ばかりみたいだし、そもそも星3つとか、星4つとかの魔物は滅多にいないみたいだしね。
さてどう答えようかな。
「ウィン殿、冒険者の秘匿事項であれば答える必要はないんじゃが、実はわしも聞いてみたいと思うておりましてのう。」
ジャコモさんも前のめりに訊いてくる。
別に隠さなくてもいいんだけど、説明の仕方が難しいんだよね。
「ええっとですね、どう言えばいいかな・・・あるところに島があるんですけど、そこで出会いました。でも普通の人は行けないと思います。」
これじゃあ説明になってないけど、これしか言いようがない。
でもそれだけの説明で勘のいいジャコモさんは反応してきた。
「ウィン殿、あの『小屋』からならその島に行けるということかのう?」
「まあ・・・そんな感じです。」
「それでは、今のところ、ウィン殿とルル様だけが島に行けるということじゃのう。」
その通りですね。
嫌になる程鋭いな、このお爺さん。
でも、そんな「わしも連れて行って欲しいのう」って目で見てきても、連れて行きませんからね。
まあ、いろいろお世話になってるし、信用してないわけじゃないんだけど。
「ちょっと待って、『小屋』とか、『島』って何の話? ボク、まったく聞いてませんけど。」
ここでまさかの元勇者が参戦してきた。
「聞いてませんけど」って、リベルさん、まだ会ったばかりだよね。
なんかちょっと不満気な顔してるけど、意味が分からない。
そんなリベルさんにルルさんが鋭く言い放つ。
「リベル、お前に話す義理などない。」
「ルル、うるさい。ウィンさん、『小屋』って何ですか?」
ルルさんにピシャリと言われても、リベルさんは引かなかった。
ところどころ図々しいよね、この元勇者。
シルフィさんも流れを見守ってる感じだし、なんか話がややこしくなってきたな。
そんなことを考えていると・・・
…うぃん殿、お取り込み中申し訳ござらぬが、くえすと達成の報告でござる…
視界の中に「中の侍」からメッセージが表示された。
お久しぶりです、「中の侍」さん。
お元気でしたか。
すっかり存在を忘れてました。
もちろん、クエスト表示、お願いします。
…慣れぬ故、時宜が分からず報告が遅くなり遺憾の極み。他の者に急かされ今になり申した。早速くえすとを表示するでござる…
○収納クエスト
クエスト : ギルドに登録しよう④
報酬 : 空間収納(無限)
達成目標 : 4つのギルドに登録
カウント : 4/4(冒険者・商人・鍛治士・テイマー)
※時間停止機能付き
おお、「ギルドに登録しよう」シリーズ、まだあったんだね。
報酬が空間収納で、容量が無限。
しかも時間停止機能付き。
これもう、マジックバッグ、いらなくない?
でも人前ではマジックバッグを使った方がいいのか。
いきなり空間収納を使うと、毎回説明しなきゃならなくなりそうだしね。
面倒を減らすためにも、普段はマジックバッグを使うことと、心のメモ帳に書いておこう。
「ウィンさん、どうしたんですか?」
急に黙り込んだ僕を心配して、リベルさんが話しかけてきた。
「リベル、黙れ。ウィンは時々、心の友と会話するのだ。すぐに元に戻るから少し待て。」
ルルさん、間違ってないけどその説明だと僕がちょっとおかしい人みたいじゃないですか。
でも客観的に見て、いきなりこの状態になると変な人に思われても仕方ないのか。
中の人たちと会話する時のルーティンみたいなものを決めた方がいいのかな。
腕を組んで目を閉じて考え込んでる振りをするとか。
僕は一堂を見回しながら、これまでの話の流れを思い出す。
『小屋』の説明をどうしようかってところだったよね。
この際、百聞は一見に如かずでいってみようか。
別に困ることもないしね。
そう考えた僕は立ち上がり宣言した。
「ジャコモさん、みんなで商人ギルドの裏庭に行きましょう。」
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