124.諜報ギルドのエース(SIDE:フェイス)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(124)
【アマレパークス編・首都アマレ】
124.諜報ギルドのエース(SIDE:フェイス)
いやぁ〜危なかったですねぇ。
依頼遂行中に危機感を覚えたのは久しぶりです。
もう少しで部下を10名も失うところでした。
しかも精鋭中の精鋭たちを。
正直、この依頼は初めから気が進まなかったんですよね。
あの国の王家からの依頼ということで、諜報ギルドも断りきれず、かといって進んで手を挙げて依頼を受ける部隊もおらず、ギルド幹部が私のところに泣きついてきたという感じで・・・。
「捕縛の勇者」を捕縛するという冗談のような依頼内容に、果たしてこれは諜報ギルドの仕事なのかと、まず思いましたね。
本来、冒険者とか官憲の仕事じゃないのかと。
泣きついてきたギルド幹部にそう尋ねると、「秘密裏に確保しなければならない」のでうちに回ってきたとのこと。
まあ分からないでもない理由でしたが、こちらは元々実力行使系の仕事は専門外。
しかも捕縛対象が捕縛の専門家ときては、慎重にならざるを得ませんよね。
ということで私の部隊の中から精鋭中の精鋭10人を選んで実行部隊としました。
それ以外にもサポート部隊を10名。
私自身を含めて21名の大部隊です。
戦闘部隊などと違って、諜報部隊はこんなに大人数で一つの任務に臨むことはまずありません。
どれだけこの依頼が難しいと判断していたか、ご理解いただけるでしょう。
「捕縛の勇者」は、一部では「ダメ勇者」と呼ばれていますが、その実力はかなり高いのです。
見た目はちょっと弱々しい感じですが、勇者スキルである『勇者の剣』と光系魔法の『光衣』『光縛り』を使えます。
『光衣』で防御し、『光縛り』で捕縛する。
しかも『勇者の剣』で接近戦にも強い。
普通なら万能の勇者と呼ばれても不思議ではありませんが、彼には致命的な欠点があります。
それは相手に直接攻撃できないという点です。
まあその欠点も、攻撃力の高いクローザー役とパーティーを組んでしまえば補える欠点ではあるのですが。
事前情報では、「捕縛の勇者」は単独でアマレの街をさまよっているということでした。
ただ我々諜報に携わる者は、外部情報は参考にしても信用はしません。
必ず自ら情報を集めるというのが鉄則です。
私の部隊は依頼を受けてすぐにアマレに入り情報を集めて回りました。
その結果、「捕縛の勇者」は事前情報通り、一人で街の中をフラフラしていることが確認できました。
その意図するところは分かりませんが、ボロボロの格好で、周囲から「捕縛の勇者」だと認識されていない状況のようでした。
数日間「捕縛の勇者」の観察を続け、依頼を遂行する日時と場所を決めました。
「捕縛の勇者」は毎日のように夕方にアマレの港に行き、船の乗客たちの流れとともに街の中心へと戻って来ます。
「秘密裏に」という指示がある以上、大騒ぎにはできませんし、港や街の中心では衛士たちも多く、面倒です。
検討を重ねた結果、港から街の中心へと続く大通りで、夕闇が迫る時間帯に、人混みに紛れて「捕縛の勇者」を確保することに決めました。
実行日当日、私たちは大通りで待機していました。
思えばこれが私の大きなミスでした。
港まで偵察を派遣し、状況を把握していれば、この計画を変更できていたかもしれません。
しかし、偵察を派遣して気配に気づかれるリスクを負うよりも、待ち伏せして短時間で確保する作戦を選んでしまったのです。
いつも一人でフラフラしていた「捕縛の勇者」に、まさかこの日に限って同行者がいるとは思わなかったのです。
いや、そうではないですね。
本当は、たとえ同行者がいたところで対応できると考えていました。
人混みに紛れて何人かの意識を奪うくらいは簡単だと。
つまり、慢心していたのです。
夕闇が少し濃さを増した頃、我々が待ち伏せしている範囲内に「捕縛の勇者」が入ってきました。
すぐに10名の実行部隊が人混みに紛れながら周囲に展開します。
もちろん見た目は偽装で誤魔化しています。
完全に周囲を囲み込んだところで、実行部隊は「捕縛の勇者」に同行者がいることに気づきました。
冒険者のような女性と普通の服装の男性の2人です。
作戦が実行段階になると、状況変化への対応は実行部隊の判断に任されます。
続行するか、一旦中止するか。
実行部隊の精鋭たちは対応可能と判断し、作戦を続行しました。
これが二つ目のミスです。
しかし実行部隊の判断を責めることはできません。
通常、この程度の状況変化であれば、これまでは作戦を続行してきました。
ただ、今回はあまりにも相手が悪かったのです。
10人が一斉に麻痺薬を塗布した苦無を投じました。
そのうち4つが「捕縛の勇者」に、3つずつが同行者の2人に向かって飛びました。
一つでも苦無がかすれば体が痺れ動けなくなります。
その間に「捕縛の勇者」を確保して撤退すれば、それで作戦は成功です。
しかし事態は予想外の方向へ動いてしまいました。
「捕縛の勇者」は3つの苦無を避けましたが、4つ目が腕に傷をつけその場で倒れました。
『光衣』を発動される前に仕留めることができて正直ホッとしました。
しかし次の瞬間、不思議な光が「捕縛の勇者」を包み込み、麻痺が解除されてしまいました。
そして立ち上がった「捕縛の勇者」は、すぐに『光衣』を発動しました。
この状態では、もう彼の防御を破ることはできません。
一方、同行者の2人は、易々と苦無の攻撃を防いでいました。
そして男性の方が何かを叫ぶと、人混みの中のあちこちに、一斉に光の粒子が現れました。
その後はまさにあっという間の出来事。
気がつけば精鋭10名が捕縛され、地面の上に転がされていました。
そしてその周囲には、初めて見る魔物たちがいたのです。
あれはいったい何なんでしょうか。
普通に考えればテイマーの従魔か召喚士の召喚獣でしょう。
しかしあまりに強く、あまりに素早く、そして多過ぎます。
あの男性一人がコントロールしているとすれば、前代未聞の技量です。
そして何より、あの子熊のような魔物に至っては、指示を出していました。
しかもヒトの言葉で。
あっ、「捕縛の勇者」が抱えている兎の魔物もしゃべった!
私はいったい何を見せられているのでしょうか。
ここまで来ると、もうどうしようもありません。
完全な敗北、完璧な失敗です。
なんとかして部下たちを救わなければ。
あっ、そこの男性の方、ちょっと待ってください。
鑑定はまずいです。
私は姿を見せて、ウィンと呼ばれている男性と直接交渉をすることにしました。
そこで冒険者らしき女性を改めて見ました。
げっ、「孤高の聖女」!
なぜ気づかなかったのでしょう。
ウィンという男性に気を取られ過ぎていたのでしょうか。
いやその前に、3人で行動している時点で、「孤高の聖女」がいるなんて想像もしなかったのです。
幸い、ウィン様は部下たちを鑑定することなく、衛士に引き渡すこともなく、そのまま返してくれました。
なんと甘い対応、普通ならそう思うところでしょう。
でも今なら分かります。
甘いのではありません。
格が違い過ぎるのです。
だから私たちがどうしようと何も気にしていないのです。
面倒だから絡んでくるな、その程度なのです。
ウィン様の許しが出た瞬間に、サポート部隊が実行部隊を引き取りました。
私はウィン様に向かって頭を下げ、すぐに人混みに紛れました。
大通りを離れて裏道に入り、見た目を別の偽装に変えてから立ち止まりました。
そしてようやく張り詰めていた緊張を解きました。
改めて今回の作戦を振り返れば、ミスと言える部分はいくつかあったと思います。
しかし、それらを改善したとしても、彼らを知ってしまった後では、成功させるための絵を描くことができません。
「諜報ギルドのエース」なんて呼ばれていることがとても恥ずかしくなりました。
“どこまで探求しても世界にはさらにその先がある“
私の師の教えです。
私はその言葉を忘れていました。
そして抑えきれない興味が湧いてきました。
「捕縛の勇者」と「孤高の聖女」と謎の男性ウィン様のパーティー(?)に。
しばらく休暇でも取って、彼らの行動を影から観察するのもいいかもしれない。
いや是非とも観察したい。
仕事、休めるかな?
無断で休んじゃえばいいか。
全部部下たちに丸投げして。
あっ、ストーカーではありませんので。
念のため。
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