121.料理を堪能します(エルフィンマジック)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(121)
【アマレパークス編・首都アマレ】
121.料理を堪能します(エルフィンマジック)
『エルフィン亭』の料理は絶品だった。
料理はすべて大皿で提供されて取り分けして食べるスタイル。
お一人様用に小皿もあるらしい。
何が美味しいのか分からなかったので、給仕係のエルフ族の女性におすすめをお願いしたら、しばらくして4種類の料理がそれぞれ大皿に盛られて出てきた。
取り皿をテーブルに置いた後、給仕係がそれぞれの料理の説明をしてくれる。
その内容は次の通りだ。
『エルフィン特製カルパッチョ』
海エルフの魚
森エルフのオイル
山エルフの岩塩とチーズ
『エルフィン特製パエリア』
海エルフの魚介
森エルフの野菜とオイル
山エルフのコメと岩塩
『エルフィン特製フライドポテト』
森エルフのポテトとトリュフ
山エルフの岩塩
『エルフィン特製アクアパッツァ』
海エルフの魚介
森エルフのオイルとトマト
山エルフの岩塩と胡椒
白ワイン(コロンバール産)
魚介類については日替わりで、その日の朝、港に揚がった新鮮なものから選ぶらしい。
名称がボクの知識と微妙にずれてるけど、魚類は語尾に「ーレ」、甲殻類は「ラ」、貝類は「ロ」が付いているようだ。
魚介類以外の素材は、僕の知識の中の名前そのままだった。
自動翻訳機能の変換基準って、イマイチよく分からない。
食材や調味料はすべて国内産だけど、白ワインだけはコロンバール産を使うらしい。
国内産の白ワインもあるけど、ワインはやっぱり、飲むのも料理に使うのも、葡萄の国と呼ばれるコロンバールのものがいいとのこと。
給仕係の説明を聞いた後、みんな一斉に料理に手を伸ばす。
僕はそれぞれの料理の味見をしながら、隣のルルさんに話しかけた。
「ここの料理、とても美味しいですね。」
「そうだな、ウィン。」
「もぐもぐ。」
「もぐもぐ。」
んっ?
「もぐもぐ」が二人?
そう思って向かいの席を見ると、もぐもぐするウサくんの隣でリベルさんがひたすらもぐもぐしていた。
「リベルさんって、よく食べますね。」
「ああ、リベルは細いのに大食漢だ。美味しいものだと特にいっぱい食べる。」
僕とルルさんが会話をしていても、リベルさんはまるで聞こえていないかのように反応しない。
目の前の料理を食べることに専念している。
よっぽどお腹が空いているのか、よっぽど食べることが好きなのか。
あるいは、この『エルフィン亭』の料理の美味しさがそうさせるのか。
でもこの料理、アリーチェさんの料理とはまた少し違った美味しさなんだよね。
素材の良さというか、素材の強さをうまく調和させた美味しさ?
それでいて見た目も味も華やかさがある感じ。
「エルフの国の料理って、もっと質素な感じかと思ってました。」
「なぜだ?」
「僕の中では、エルフ族って自然と共に生きるってイメージなので。」
「まあ間違ってはいないが、狩猟や採取に優れているだけで質素ということでもないな。むしろこの街並みのように派手な部分もある。」
「そうですね。屋根の色のカラフルさには驚きました。どうしてあんな風になったんですか?」
「海エルフたちは基本的に派手好きで自己主張の強いタイプが多くてな。家を建てる時に屋根の色を派手にしたい、でも周りの家の屋根と同じ色は嫌だ、そう考える者が多かったらしい。その結果、赤い屋根、青い屋根、黄色い屋根、いろんな色の屋根がバラバラに存在する今の状態になった。」
アマレの街は、アマレパークス(エルフの国)の首都だし、海の玄関口でもあるし、あのモザイク風景はインパクトがあっていいのかもしれない。
「ルルさん、エルフ料理って、どこでもこんなに美味しいんですか?」
「いや、そこは料理人の腕によるだろう。ここは特別に美味しいと思うぞ。さすがに『エルフィン』を名乗るだけのことはある。」
『エルフィン』を名乗るだけのこと?
『エルフィン』って、「エルフの」って意味じゃないのか?
「エルフィンって、特別な言葉なんですか?」
「料理屋でエルフィンを名乗るなら、それはエルフィン・マジックのことだろうな。」
「エルフィン・マジック?」
「そうだ。食べ物を美味しくする妖精の魔法のことだ。」
「これ、魔法がかかってるんですか?」
「いや、それくらい美味しいと自負してるってことだろうな。」
そういうことか。
ルルさん、戦闘以外のことでも知識はあるんだね。
まあ、この世界では常識の範疇なのかもしれないけど。
「ウィン、また失礼なことを考えたな。」
「なんで分かるんですか?」
「ウィンのことなら大体分かる。」
いやいや、まだ付き合い浅いでしょう。
そんな、長い付き合いだからな的な発言は当てはまらないと思いますけど。
もしかして、楽しい戦闘の旅を続けるために、僕の心だけは読めるようになったとか。
ルルさんだと、ありそうで怖い。
話題を変えよう。
「そういえば、エルフ族は争いを嫌うって言ってましたよね。どうしてですか。」
「基本、自然との調和を重んじる種族だからな。戦いは好まない。エルフ族に嫌われたくないから他の国もほとんど仕掛けないしな。」
「エルフ族に嫌われるとどうなるんですか?」
「木材とか薬草とか鉱物とか、天然資源が入手困難になる。」
「この国が天然資源が豊富だということですか?」
「それもあるが、この国には世界樹があるからな。」
世界樹があるから?
世界樹があると何が起こるんだろう?
「ウィン、世界樹はな、この世界のすべての自然と繋がっていると言われている。」
「すべての自然と?」
「そうだ。そしてその世界樹の安寧を守っているのがこの国の森エルフたちだ。」
「つまり、この国と争うと世界樹の怒りを買うってことですか?」
「その通りだ。世界樹に嫌われた国は、すべての自然から嫌われるらしい。」
「でもそれは伝説とかじゃないんですか?」
「そう考えたある国が、50年ほど前にこの国に手を出して、酷い目にあった。」
50年前に実例があるのか。
それなら実際に体験してまだ生きてる人もたくさんいるだろうから、単なる伝説とかじゃないよな。
そんなことを考えていると、ルルさんが言葉を続けた。
「まず、農作物が育たなくなった。それから果樹が実らなくなった。漁師が海に出ても魚は獲れず、鉱山をいくら掘っても鉱物が出なくなり、最後には、狩猟に出ても動物も魔物もまったく見つからなくなった。」
「それじゃあ、みんな、餓死しちゃうじゃないですか。」
「ああ、しばらくは蓄えたもので凌げたが、それにも限界はある。」
「それで、その国は諦めたんですか?」
「いや、とても諦めの悪い国でな。自分たちが支配している属国から、食糧や資源を強制的に取り上げて運ばせた。」
「なるほど。外部からの補給で戦争を継続したと。それからどうなりました?」
なんとなく結末が予想できたけど、一応ルルさんに訊いてみた。
「世界樹の怒りが属国にまで拡がった。」
やっぱり。
世界樹がこの世界すべての自然と繋がってるなら、当然そうなるよね。
「さすがにそこまで行くと、攻め込んだ国の王族や貴族たちも諦めて兵を引いた。しかし、その後、属国を含め国土全体が通常に戻るまで数年かかり、多くの民が餓死した。」
ルルさんがそう言って、話を締め括った。
国を治める者の判断ミスで多くの人たちが犠牲になってしまうなんて・・・。
酷い話だけど前の世界にも同じような話はあった。
あってはいけないことだけど、どこにでもある話なのかもしれない。
「その国って?」
「もちろん、セントラルだ。」
予想通りの答えを聞いて、口をつぐむ。
楽しい食事のはずが、思わず暗い話になってしまった。
何か明るい話題は・・・とか思っていると突然リベルさんが立ち上がった。
「さあ、行きましょうか。」
行きましょうかって、どこに?
あっ、料理が全部食べ尽くされてる。
たぶん今の話、まったく聞いてなかったんだろうな。
ルルさんと僕、まだあんまり食べてないんだけど。
「リベルさん、行きましょうかって、どこにですか?」
「もちろんテイマーギルドですよ。」
「テイマーギルド?」
「ウィンさん、従魔のウサくんを登録しないといけないでしょ。」
リベルさんは良い笑顔でそう言った。
そう言えば、従魔を連れて歩くにはギルドに登録した方がいいって言ってたな。
でも大丈夫かな。
ウサくん、星4つなんだけど。
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