120.称号の理由(捕縛の勇者::リベル)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(120)
【アマレパークス編・首都アマレ】
120.称号の理由(捕縛の勇者:リベル)
「リベルとは勇者パーティーで一緒だった。」
ルルさんは軽い調子でそう答えた。
勇者パーティー?
それって、命懸けで魔王を倒す旅に出る、あの勇者パーティー?
魔物に襲われている村を助けたり、疫病に苦しんでいる人たちを癒したり、極悪魔導士に囚われた魂たちを解放したり、腐蝕系の魔物に汚された土地を浄化したりする、あの勇者パーティー?
この世界最強で、人々の最後の希望で、奇跡と感動の物語を紡ぎ出す、あの勇者パーティー?
ルルさんとリベルさんが?
「ウィン、たぶんウィンが想像している勇者パーティーとはちょっと違うと思うぞ。」
勇者パーティーについて妄想を膨らませていると、ルルさんが真面目な顔でそう言った。
「えっ、違うんですか? ていうかルルさん、僕の心の中を読んだんですか?」
「顔を見れば分かる。何か凄いものを想像してただろう? それからちょっと失礼なことも。」
「ええっと、魔王討伐に向けて命懸けの旅、みたいなことは考えてました。失礼なことは特には・・・」
全部バレてる。
まあ失礼なことというより、素直な感想だと思うけどね。
「ウィン、まず最初に勇者パーティーは一つじゃない。」
「一つじゃない?」
「そうだ。勇者の称号持ちは複数いると言っただろう。多くはないが、常に数名は確認されている。」
「勇者の称号持ちの数だけ勇者パーティーがあるということですか?」
「それも少し違う。勇者の称号持ちでも勇者パーティーを組まない者もいる。」
それはそうだよね。
勇者の称号持ちが複数いるなら、考え方も人それぞれだろうし。
「それから勇者パーティーは国が認定し国に所属する。個人が勝手に作ったものは勇者パーティーとは呼ばない。」
なるほど。
『勇者パーティー』というのは、国から与えられる公式の名称ということですね。
しかも国に所属するということは、『騎士団』の勇者版みたいなものか。
「魔王討伐とかは?」
「前にも言ったが、魔王とは魔族の国の王様のことだ。魔族の国と戦争でもしない限り、そういう話にはならない。」
「じゃあ勇者パーティーは何のためにあるんですか?」
「国家の武力の一つ。まあ、精鋭部隊だな。勇者の名を冠することで、国威高揚や治安維持に利用できる。あと、戦争にもな。」
勇者パーティーが戦争に出る。
なんかすごくきな臭い話だな。
「現時点で勇者パーティーはいくつあるんですか?」
「去年まで4つだったが、今は3つだ。」
「1つ減った?」
「ああ、リベルが逃げたからな。」
そうか、それでリベルさんは称号が『光の勇者』なのに、職業が『元勇者』なのか。
「ちょっと待て、勇者パーティーから逃げたのはルルのほうが先だろう。」
「私は聖女だから逃げても問題ない。聖女がいなくても勇者パーティーは成立する。だが勇者が逃げたら、それはもう勇者パーティーではない。」
つまり二人とも逃げたんですね。
正式に抜けたのではなく。
まずルルさんが逃げて、その後リベルさんが逃げて、勇者がいなくなったので勇者パーティーが一つなくなったと。
ルルさんの主張は論理的には間違ってないけど、聖女だから逃げてもいいっていうのは、ちょっと違うんじゃないかな。
「なぜ逃げたんですか?」
僕はルルさんの方を見て問いかける。
「辞めさせてくれないからだ。」
「誰が?」
「国が。」
「どこの国ですか?」
「もちろんセントラルだ。今時、勇者パーティーを作って喜んでいるのはあの国くらいしかない。」
僕の質問にルルさんが答えた。
セントラル。
戦争好きの大国だっけ。
コロンの冒険者ギルド長のネロさんがそんなこと言ってたな。
あんまり関わりたくない国だね。
こっそり見物には行ってみたいけど。
「そもそもどうしてルルさんはセントラルの勇者パーティーに入ったんですか?」
「私の場合は中央教会から強制的に派遣された。私は中央教会所属の聖女だったからな。」
「リベルさんは?」
「ボクの場合は・・・その・・・何というか・・・」
リベルさんは僕の質問を受けて視線が泳いでいる。
「リベルはな、弱気なくせに目立ちたがりなんだ。エルフ族は争いを極端に嫌う種族なのに、セントラルの甘言に乗せられて勇者パーティーを作ってしまった。」
言い淀むリベルさんに代わって、ルルさんが答えた。
リベルさんが反論しないところを見ると、その通りなのだろう。
でも勇者の称号持ちが勇者パーティーを作ること自体には問題ないように思えるけど。
「そしてな、勇者パーティーとして活動し始めてすぐに、リベルの欠点が判明した。」
「リベルさんの欠点?」
「そうだ、リベルはな、人でも魔物でも、敵を倒せないんだ。」
敵を倒せない?
リベルさんが?
ステータスを見る限り、『勇者の剣』とか『剣術(上)』とかあるし、弱くはないはずだけど。
ということはメンタル的なことか。
「正確には、リベルは相手を傷つける行動を取ろうとすると身体が拒否反応を起こす。一瞬でも動きが止まることは、戦いにおいては致命的だ。」
「でもそれは事前に分からなかったんですか?」
「訓練では何の問題も無かった。本気で相手を殺そうとするわけではないから、拒否反応は出なかったんだろう。それ以前の狩りでは捕縛専門だったらしい。つまり、勇者パーティーを組むまで、本気で戦ったことは無かったということだ。」
戦えない勇者か。
いや、正確には直接相手を倒せない勇者かな。
まあそれでも戦いようはあると思うけど。
「それでどうなったんですか?」
「私とリベルは、『黄金コンビ』と呼ばれるようになった。」
えっ、また話がよく分からない方向に飛んだ。
うまくいかなかったから逃げたんじゃないのか。
「リベルの『光縛り』は強力なんだ。人でも魔物でも、レジストできるものはほとんどいない。」
それで?
僕は言葉に出さずに表情でその先を促した。
「リベルが縛り、私が殴る。それで終わりだ。」
なるほど。
それは最強かもしれない。
むしろ他のパーティーメンバーの出る幕がない。
勇者がアシストで聖女がクローザーって、配役的には微妙だけど、機能するなら問題ないように思える。
「じゃあ、ルルさんはなぜ逃げたんですか?」
「決まっている。つまらないからだ。」
「つまらない?」
「動けない相手を一方的に殴って何が面白い?」
そうだった。
ルルさん、こういう人だった。
ルルさんの件はこれで納得だけど、リベルさんはどうして逃げたんだろう?
そう考えながらリベルさんの方に顔を向けた。
「ボクは・・・陰口に耐えられなくなって・・・」
「陰口?」
「ルルがいた時はまだ良かったんだ。ほとんど二人で魔物を瞬殺してたからみんな称賛してくれた。でもルルがいなくなって、魔物を倒すのに手間取るようになって・・・。ボクは縛ることしかできないし、他のメンバーはルルほど強くないし・・・。」
そこまで言って、リベルさんはまた言葉を濁した。
そしてその後をルルさんが引き継いだ。
「リベルは初めは『捕縛の勇者』と呼ばれていたんだ。でもその呼び名が変化した。」
「どんなふうに?」
「『捕縛しかできないダメ勇者』と。」
ああ、それで『ダメ勇者』なんですね。
でも完璧に捕縛できるなら、十分勇者だと思うけどな。
やっぱり先頭を切って敵に切り込み、我が身を顧みず敵を殲滅するみたいなのが勇者には求められるのかな。
まあ周囲の評価なんていい加減で勝手だから、気にしなければいいんだけど、リベルさん、気が弱いみたいだし、耐えられなかったってことか。
「それで、ウィンさん。」
「何でしょう、リベルさん。」
「お腹が空いたので、料理頼んでもいいですか?」
ふ〜(溜息)。
リベルさんまだ食べるんですね。
さっき串焼き3本食べましたよね。
まあいいですけど。
これからリベルさんのこと、『腹ペコ勇者』って呼んでもいいですか。
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