119.召喚士とテイマー(ウィン:たぶんテイマー)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(119)
【アマレパークス編・首都アマレ】
119.召喚士とテイマー(ウィン:たぶんテイマー)
(主、薬草ちょうだい。一番いいやつ。)
リベルさんに『ヒール』をかけ終えたウサくんが念話でいつものように薬草をおねだりしてきた。
現時点で僕が出せる一番いい薬草は『聖薬草』だ。
もう少し『薬草クエスト』を頑張れば、『神薬草』まで出せるようになるけど、『神薬草』の効能とか、ちょっと怖い気がする。
すぐにクエストで『聖薬草』を出してあげると、ウサくんは短い前足で抱えてもぐもぐし始めた。
僕はウサくんの前にしゃがみ込んで、その薄茶色の体毛を梳かすように撫でる。
星4つに進化したウサくんだけど、普段は星3つの時の姿のまま過ごしているので、見た目は初めて出会った時のままだ。
ルルさんとリベルさんは、ウサくんの『ヒール』の威力を目の当たりにして固まってしまっている。
その間に僕は、ウサくんと念話で会話することにした。
(ウサくん、ヒールの効果、高くなり過ぎてない?)
(主、進化したからこれくらい当然。)
(でもヒールって、治癒と回復と浄化だよね。)
(そうだよ。)
(ケガが治ったり、体力が回復したり、汚れが落ちたりするのは分かるけど、破れた服が修復されたり、ヨレヨレの帽子が新品みたいになってるのはどういうこと?)
(主、そういうものだからだよ。)
ウサくんの答えはまったく説明になってない。
でもそういうものだと言われてしまえば、そういうものとして受け入れるしかないのだろう。
でも一瞬で髪はサラサラ、肌はツヤツヤ、体調は万全で服装まで新品同様になるなんて・・・。
これって、もしバレたら美容専門の従魔として、世の女性たちから引っ張りだこになるんじゃないかな。
うん、人前ではできるだけ『ヒール』を使わせないようにしよう。
生命の危険がある時とかは仕方ないけど。
二人ともなかなか動き出さないので、まず変わり果てた(ボロボロ→綺麗)リベルさんの姿を凝視しているルルさんに声をかけた。
「ルルさん、そろそろ食事ができるお店を探しに行きましょう。」
僕の言葉でルルさんがようやく再起動する。
「ウィン、ウサギさんのヒール、すご過ぎないか?」
「進化したし、そういうものだそうです。」
「そういうもの・・・で済ませていいのか・・・」
続いて、自分の体を何度も見回しているリベルさんにも声をかけた。
「リベルさん、どこか美味しいお店、知りませんか?」
リベルさんはゆっくりと顔を上げ、僕のほうを見る。
「ウィンさん、これ、どうなってるんですか?」
「僕の従魔のウサくんが『ヒール』をかけただけですよ。」
「従魔がヒールを・・・そんな話・・・聞いたことがない。」
二人ともまだ正気には戻ってないようだったけど、お腹を空かせたまま突っ立っていてもしょうがないので街中に向けて移動することにした。
結果的に、リベルさんはルルさんと同じくらい、世事に疎いことが判明した。
まあ予想はしてたけど。
もちろん、アマレの街の美味しいお店の情報なんて欠片も持っていなくて、リベルさんはただ僕とルルさんの後をついて来るだけだった。
仕方がないので僕は適当に歩きながら、目についたお店に入ることにした。
『アマレ料理 エルフィン亭』
お店の看板にはそう書かれていた。
港から比較的近くにあり、テラス席があり、小じんまりとしていて清潔そうなお店だ。
『アマレ料理』というのがどういうものなのかは知らないけど、町の名前が付いているのだから郷土料理みたいなものだろう。
まだ夕食には少し早い時間帯だと思うけど、店内はかなり混み合っていた。
客が多い店に悪い店はないはず。
見た限り客層も普通だ。
ということで僕たちは『エルフィン亭』に入る事にした。
店内に入り空テーブルを見つけて席に着くとリベルさんがすぐに質問してきた。
「ウィンさん、ウサくんは従魔なんですね。」
「そうですよ。」
「ということは、ウィンさんは召喚士ではなくてテイマー?」
「すみません、2つの違いがよく分かってません。」
「???」
リベルさんが不思議そうな顔をしている。
召喚士とテイマーの違いは、この世界では常識なんだろうな。
でも知らないものは知らないからしょうがない。
「ウィン、召喚士が呼び出して使役するのが召喚獣、テイマーが従えているのが従魔だ。」
ルルさんが説明してくれたけど、端的過ぎてイマイチ違いが分からない。
もう少し詳しくお願いします。
「召喚士と召喚獣の関係は使役契約で命令には絶対服従。言い方は悪いが奴隷契約みたいなものだ。テイマーと従魔は主従契約だが縛りは緩い。親密度で従順度が変わる。」
う〜ん、分かるような分からないような。
「召喚士はどうやって召喚獣と契約するんですか?」
「魔物を倒すと一定の確率で契約できる。召喚士の強さや魔力量によって契約できる魔物に制限がある。」
「テイマーは?」
「魔物によって条件が違う。同じ種類でも個体によって違うらしい。主と認める基準が個体によって異なるのだろうと言われている。ウィンは召喚もできるからややこしいが、魔物との関係性を見る限りテイマーだろう。」
そう言いながらルルさんは僕の向かいの席を見た。
そこにはウサくんがちょこんと座っていて、聖薬草をもぐもぐしている。
ウサくんの隣にはリベルさんが座っている。
エルフの国では召喚士やテイマーが多く、連れていてもあまり目立たないらしい。
実際、港からこのお店まで歩く間にも、従魔らしき魔物を連れている人を何人か見た。
ただ余計な揉め事を避けるためにも、テイマーギルドで従魔登録して従魔章をもらった方がいいそうだ。
「ウィンさん、ウサくんって『角兎』の上位種か何かですか?」
リベルさんがウサくんについて質問してきた。
でもこの世界の魔物について、まだほとんど知識がないので『角兎』がどういうものか分からない。
字面的に、ポルトの冒険者ギルドで誰かが言っていた『ホーンラビット』の別名かな。
魔物のこと、もう少し勉強しないといけない気がする。
今度、図書館か冒険者ギルドで魔物図鑑みたいなものを探してみよう。
「『角兎』のことはよく分からないけど、ウサくんの種族はレプス・ミニマ・・・いや、セイントレプス・ミニマです。」
「セイントレプス・ミニマ? 初めて聞く魔物の名前です。どこで見つけたんですか?」
「リベル、それはウィンの秘匿事項だ。」
リベルさんの質問に対して、ルルさんが割り込んできた。
まあ、「遠くの無人島で」くらいなら答えてもいいんだけど。
どうせ誰も行けないはずだし。
「ルルには聞いてない。でも『ヒール』が使える魔物なんて聞いたことがないです。伝説だと、白龍が使えたって話もありますけど。」
リベルさん、ルルさんに対してと僕に対してで口調が違う。
しゃべりにくいだろうから統一してもらって構わないんだけどな。
そう言えば、リベルさんって何歳くらいなんだろう。
ルルさんと同じくらいに見えるけど、エルフ族やドワーフ族の年齢って見た目だけじゃ分からないこともあるし。
「リベルさん、年齢を聞いてもいいですか?」
「ウィン、面倒だから鑑定すればいい。」
「ウィンさん、人物鑑定もできるんですか?」
「はいできますよ。」
「ウィン、鑑定してみろ。」
「ルル、うるさい。ウィンさん、鑑定して下さい。」
三人いると会話がややこしいな。
ルルさんとリベルさん、お互いのことを無視して勝手にしゃべるからね。
でもとりあえずリベルさんの承諾は取れたので鑑定してみよう。
☆リベル(LIBER)
名前 : リベル(48歳)
種族 : エルフ(海系ダークエルフ)
職業 : 元勇者・浮浪者
スキル: 勇者の剣・光衣・剣術(上)・光縛り
魔力 : 1800
称号 : 『光の勇者』『捕縛の勇者』『ダメ勇者』
友好度: 100
信頼度: 80
リベルさんの鑑定結果が表示された。
48歳!?
大先輩じゃないですか。
ルルさん、目上の人には尊敬語、いやせめて丁寧語を使わないと。
この世界にそういう常識はないのかもしれないけど。
職業が『元勇者』で『浮浪者』って、そのまんまだね。
でも元勇者だけあって、スキルと魔力が凄い。
スキルの詳細は不明だけど、名称がなんかキラキラしてる。
魔力はルルさんの方が少し上だけどね。
称号の『ダメ勇者』はルルさんのせい?
それとも、割と多くの人にそう呼ばれてるのか?
それに『捕縛の勇者』ってどういう意味だろう。
スキルの『光縛り』と関係があるのかな。
出会ったばかりで友好度が『100』って、何かルルさんと同じ匂いを感じる。
餌付け(串焼き3本)の効果なのか?
元勇者なのにちょっと安過ぎじゃないかな。
信頼度が『80』あるので、悪い人じゃないんだろうけど。
しかし疑問だらけで何から聞いていいのやら。
まず年齢からかな。
「ウィン、鑑定できたか?」
「はい。でもリベルさん、ルルさんよりずっと先輩じゃないですか。」
「先輩? 確かに年齢的には上だが、精神的には下だぞ。エルフとしてはまだまだ子供みたいなものだ。」
「ルル、うるさい。子供じゃない。精神的にもルルと同じくらいだ。」
精神的には同じくらいなんですね。
じゃあ三人とも同じくらいってことでいいかな。
いろいろ考えるの面倒だし。
次に・・・あっそうだ、二人の関係を聞いておかないとね。
「ルルさんとリベルさんはどうやって知り合ったんですか?」
僕が二人に問いかけると、すぐにルルさんが何でもないことのようにサラリと答えた。
「ああ、リベルとは勇者パーティーで一緒だった。」
勇者パーティー?
そんな話、初耳なんですけど。
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