118.腹ペコ勇者に出会いました(元勇者:リベル)
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第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(118)
【アマレパークス編・首都アマレ】
118.腹ペコ勇者に出会いました(元勇者:リベル)
エルフの国のカラフルな首都で、「勇者」と「聖女」が出会いました。
出会い頭に相手を「ダメ」呼ばわりしたルルさんと、負けずに「バカ」呼ばわりで返した浮浪者っぽい人。
「勇者」と「聖女」につける形容詞としてそれはどうなんだと思いながら、もっと大事なことに思い至った。
この薄汚れて、ひょろっとして、弱々しい人が勇者なのか?
「ダメ勇者、こんなところで何をしている?」
「バカ聖女に答える義務はない。」
「私のパートナーに声をかけた以上、私の質問に答える義務がある。」
「バカ聖女にパートナーだと・・・あり得ない。」
このまま二人をほっとくと長引きそうなので、割り込むことにする。
けっこうお腹空いてるんで。
「はい、ストップ。」
僕はそう言いながら、ルルさんと勇者さんの間に入った。
そしてルルさんを背にして、勇者さんと向かい合う。
「ルルさん、ちょっと黙っててくださいね。勇者さん、でいいのかな。お腹空いてるんですよね。」
「ボクは正確には勇者ではありません。元勇者です。名前はリベルといいます。そしてとてもお腹が空いてます。」
勇者さん改めリベルさんは僕の質問に自己紹介も混えて丁寧に答えてくれた。
「元勇者」というのがどういうものなのかよく分からないが、リベルさんが切実に空腹なのはよく分かった。
それにしてもルルさんと何か因縁があるんだろうか。
二人とも敵意とまではいかないけど、会話がケンカ腰だった。
「余っている食べ物はありませんか? 腐っていても構いません。」
少し黙っていると、リベルさんが再度、食べ物を催促してきた。
誰にでも食べ物をあげるつもりはないけど、ルルさんの知り合いみたいだし構わないかな。
でも腐った物でもいいって、いったいどんな生活してるんだろう。
「ああ・・・えっと、僕はウィンです。食べ物ならありますよ。いっぱいあります。」
「すみません・・・腐ったのは・・・いっぱいは無理です。」
「いえ腐ってませんから! 腐った食べ物なんて持ってませんよ!」
さすがに腐った食べ物を人にあげる趣味はない。
でもリベルさんは僕の答えを聞いて不思議そうな顔で僕を見る。
その表情は、「腐っていない食べ物をくれる人なんているの?」
って感じ。
この世界では食べ物に困っている人に、そんな仕打ちをするのか。
いや、マッテオさんたちは初対面で食事を振る舞ってくれたよね。
じゃあ世界の常識じゃなくて、リベルさんの境遇の問題かな。
僕はマジックバッグに手を入れ、焼きたての串焼きを3本取り出した。
時間停止機能付きなので、まだ暖かい状態のままだ。
とりあえず3本あれば大丈夫だよね。
この串焼き、1本でもけっこう食べ応えあるしね。
とか考えていると、後ろからルルさんの声がかかった。
「ウィン、本当にいいのか?」
「ルルさん、お腹が空いているのを助けたくないくらい、リベルさんのことが嫌いなんですか?」
「いや、そんなことはまったくない。ダメ勇者は悪いやつではない。」
「じゃあどうして?」
「ダメ勇者に食べ物を与えるとな・・・」
「与えると?」
「なつくぞ。」
なつく?
何それ?
「子犬が懐く」の「なつく」?
人に対してその表現はどうなの。
いや人の場合でも使うか。
ルルさんの言葉にちょっと混乱していると、いつの間にか3本の串焼きが僕の手元から消えていた。
「もぐもぐ、このサンマーレ、塩味が効いてて美味しいですね。」
リベルさんがあっという間に1本目の串焼きを食べ切った。
「もぐもぐ、このエビラも身がぷりぷりで最高です。」
2本目も瞬く間にリベルさんのお腹に消えた。
「カリカリ、もぐもぐ、このカニラ、甲羅の香ばしさがたまりません。」
3本目の串焼きには小さめのカニラが3匹刺さっていたけど、リベルさんは一口で1匹ずつ、三口で全部食べてしまった。
その食べ方で、口の中、切ったりしないの?
「ご馳走様です。とても美味しかったです。ボク決めました。あなたについて行きます。」
速攻で懐かれました。
串焼き3本で懐くのは早過ぎませんかね。
きび団子1個で命懸けの戦いの旅に参加表明した犬と猿と雉並みですね。
「ほらな。言っただろう。」
「はい、ルルさんの言った通りでした。」
ルルさんがあきれ顔でそう言ったので僕も同意した。
リベルさんはこちらの反応は完全無視で、ニコニコしながら隣に立っている。
ついて来る気満々だな。
まあ、アマレにいる間は一緒でも問題ないか。
街のことに詳しいかもしれないし。
それにいざとなれば、転移で消えればいいし。
でも事前の情報集めはしておかないとね。
「リベルさん、失礼ですけど、どうしてそんなにボロボロなんですか?」
僕は、浮浪者にしか見えないリベルさんの風体についてその理由を聞いてみた。
「なぜでしょうね。フラフラしてたらお金がなくなって、宿にも泊まれず、食べ物も買えず、仕方がないので馬小屋に潜り込んだり、腐った食べ物を分けてもらったりして、気がついたらこんな状態で。」
なぜでしょうねじゃないですよね。
それはそうなって当然です。
ていうか、お金がなかったら働きましょうよ。
元勇者ならどうにでもなるんじゃないのかな。
「ウィン、このダメ勇者は常識もなければ、生活能力もないぞ。」
「失礼だなバカ聖女。ボクは君よりは常識も生活能力もあるぞ。」
「はい、ストップ。とりあえず、ダメ勇者呼びも、バカ聖女呼びも禁止します。二人ともちゃんと名前で呼び合ってください。じゃないと一緒に連れて行きません。」
再びルルさんとリベルさんが絡み出したので、それを止めて、お互いの呼び方を注意した。
心の中でどう思うかまで制限する気はないけど、一緒にいるなら名前は普通に呼び合ってほしい。
周囲の人に聞かれたら変に思われるからね。
「ウィンがそう言うならそうしよう。リベルもそれでいいな。」
「ウィンさんが望むならボクもそれでいいです。これからはルルと呼ぶことにします。」
二人はあっさりと承諾した。
ルルさんがリベルさんの名前を覚えていた事にちょっと驚いた。
でもあっさり受け入れるくらいなら、初めから名前で呼べばいいのにね。
まあお互い敬称なしの呼び捨てみたいだけど。
二人の関係性は後でゆっくり聞かせてもらうとして、まずはリベルさんの身なりをなんとかしないとな。
「リベルさん、その格好にこだわりがある訳じゃないですよね。」
「まったくないです。」
「じゃあ、きれいにしてもいいですか?」
「かまいません。」
「じゃあ・・・ウサくん、来て。」
僕はリベルさんの意思を確認してからウサくんを召喚した。
光とともに現れたウサくんを見て、リベルさんが叫んだ。
「ウィンさん、召喚士なんですね!」
「説明は後でします。ウサくん、リベルさんをきれいにして。」
僕がそう告げるとウサくんのツノに光が集まり、その光がリベルさんを包み込んだ。
光が消えるとそこには、スラリと背が高く、サラサラの薄水色の髪を風に靡かせ、艶々の浅黒い肌をした見目麗しい人物が立っていた。
うん、ウサくん、やり過ぎじゃないかな。
『ヒール』ってここまで凄かったっけ?
僕が訝しげな視線を向けると、ウサくんはとぼけた表情のまま僕に念話を送ってきた。
(主、薬草ちょうだい。一番いいやつ。)
うん、どんな時でも、ウサくんは通常運転だね。
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