117.三人目の「中の人」(アマレパークス担当:中の侍)
長らくお待たせしてしまいました。
連載を再開させて頂きます。
第三章 世界樹の国と元勇者(アマレパークス編)
主人公が、世界樹の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
仲間として戦闘狂の聖女に続いてエルフの元勇者が加わります。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第三章 世界樹の国と元勇者(117)
【アマレパークス編・首都アマレ】
117.三人目の「中の人」(アマレパークス担当:中の侍)
「なんか・・・カラフルですね。」
それが、アマレ港に初めて降り立った時の僕の第一声だった。
アマレ港は湾の中にあり、その規模はポルトの港よりはるかに大きい。
そして港の背後には扇状に街が広がっていて、外縁部のなだらかな丘の上までたくさんの建物が立ち並んでいた。
さすがに首都というだけのことはある。
建物の壁はほとんどが白で、そこだけ見れば『カラフル』という感想は出てこない。
特徴的なのは屋根の色だった。
海沿いの街として前の世界の知識にあるのは、「白い壁に青い窓枠」とか「白い壁に赤い屋根」とか統一感がある風景だ。
でもこの街の場合、青・赤・黄色・オレンジ・緑といった明るめの色に塗装された屋根がバラバラに並んでいる。
一つ一つの屋根は単色だけど、全体として統一感がないため、遠景で見ると一つの大きなモザイク画のように見える。
これ、夕暮れだからまだいいけど、晴れた昼間に見たら目がチカチカするんじゃないのかな。
僕の中のエルフって、森の中で静かに暮らすイメージだったから、ちょっと違和感がある。
でも先入観に縛られるのは良くないよね。
この世界のありのままを受け入れないと。
「海エルフたちは、派手な色が好きだからな。」
僕の戸惑いを含んだ第一声に対して、ルルさんが理由を教えるかのように答えてくれた。
海エルフ?
エルフ族の中にそういう種族の方々がいらっしゃるんですね。
種族名からして、「海と共に生きる」って感じですかね。
そして派手な色が好きと。
そう言えばこの世界のエルフ族のこと、何も知らないな。
まあ、他の種族のこともほとんど知らないけど。
でもエルフの国に来たんだし、常識としてもう少し情報を入れとかないとまずいかもしれない。
「ルルさん、エルフ族にはどんな種族があるんですか?」
「海にいる海エルフ、山にいる山エルフ、森にいる森エルフ、基本はこの3種族だな。あと稀に先祖返り系というのがあって、これは3種族に分かれる前の種族だと言われている。」
海、山、森、先祖返りと。
ちゃんと覚えておこう。
そういえば、森エルフってどこかで見た気が・・・
あっそうだ、完全に忘れてた。
「ルルさん、すっかり忘れてましたけどメルさんのことは・・・」
「ああ、メルは放置でいい。冒険者ギルドの支部長だって簡単には辞められん。ずっと一緒だとうるさいしな。」
放置でいいんですね。
ちょっと可哀想な気もするけど、ずっと一緒に行動するのは100歩譲っても1000歩譲っても無理っぽいし。
あの機関銃トークを封印するクエストってないのかな。
毎回、氷のドームに閉じ込める訳にもいかないし。
なんかこう、「サイレンス(沈黙)」みたいな・・・
…うぃん殿、少々お待ちくだされ。今調べます故・・・…
うん?
メッセージが流れたけど、これ、新しい「中の人」だよね。
口調(文体)がちょっとアレな感じだけど。
それに、「調べます」ってどういうこと?
…おお、うぃん殿、あり申した。しかしこれは・・・次はどうすれば・・・…
大丈夫かな、この「中の人」。
不慣れな感じが滲み出てる。
初めてスマホ触る人みたいになってるけど。
…くえすと? 表示? おお、これでいいのでござるか・・・…
ござる?
語尾が「ござる」って、忍者とか侍とかな感じ?
今回の「中の人」ってサムライなのか?
それとも言葉がかなり時代がかってるのは翻訳機能のせいかな。
まあいいや、「中の侍」と呼ぶことにしよう。
間違ってても問題ないし。
そんなどうでもいいことを考えていると、ようやく新しいクエストが表示された。
○状態異常クエスト
クエスト : 黙らせろ①
報酬 : サイレンス(沈黙)(弱)
達成目標 : 「黙れ」と叫ぶ(10回)
※親しい相手限定。会話途中で行うこと。
カウント : 0/10
う〜ん、達成目標が微妙にこじれてるのは、「中の女性」の影響なのか。
簡単といえば簡単だけど、面倒といえば面倒なクエスト。
小屋とか島にいる時に、ルルさん相手によく説明してから挑戦してみよう。
ところで、「中の侍」さん、これからよろしくお願いします。
…おお、うぃん殿、ご丁寧にご挨拶頂き、恐縮にござる。不慣れなお役目ではござるが、拙者、身命を賭して努める所存にござる…
「中の侍」さん、もっと気楽な感じでいいと思いますが。
身命を賭す必要もないし。
ていうか、「中の侍」が「身命を賭す」ってどんな状況?
まあ性格的なものもあるだろうから、自分でやりやすいようにお願いします。
…過分なお言葉、かたじけない。このむさ(ピー)…
…(調整中につきしばらくお待ちください)…
…過分なお言葉、かたじけないでござる…
なんかバグった?
でも戻った?
クエスト表示や鑑定表示と違って、メッセージは流れて消えるので再確認できないんだよね。
まあ機能してるならいいか。
「中の侍」さん、慣れてなさそうでちょっと不安だけど。
「ウィン、これからどうする?」
「中の侍」とのやり取りに気を取られていると、ルルさんがこれからの予定について訊いてきた。
さてどうしようかな。
あんまり、というか何も考えてなかった。
とりあえずお腹も空いてきたし、せっかくだからこの街でご飯でも食べようかな。
「ご飯食べるところ、探しましょう。」
「アリーチェさんは、いいのか?」
「このまま転移で帰るのもなんかもったいないし。ルルさん、美味しいお店とか知ってます?」
「いや、食事はいつも適当だったからな。」
「まあ・・・そうでしょうね。」
訊く人を間違えた。
戦闘狂とか魔術狂以外の旅の仲間が欲しい。
今のところ、魔術狂は仲間にする予定はないけど。
マッテオ夫婦は頼りになるけど、葡萄作りがあるので一緒に旅はできないし、商人ギルドのジャコモさんはなんでも知ってそうだけど油断ならないし。
できればこの世界の世事に通じていて、一緒に冒険の旅ができるような人材がどこかにいないかな。
「あの〜、なにか食べ物、余ってませんか?」
さてどこでご飯を食べようかなと考えていると、いきなり後ろから声をかけられた。
振り返ってみると、薄汚れたマントを羽織り、ヨレヨレの帽子を被った長身の男性が、ちょっと弱々しい感じで立っていた。
帽子からはみ出している髪の毛は薄い水色。
あちこち絡まって飛び跳ねている。
瞳の色は濃いめのブルー。
疲れているのか、強さも輝きも見られない。
肌の色はダークブラウン。
水分が足りていないのか、カサカサした感じだ。
「お腹、空いてるんですか?」
「はい、3日ほど、何も食べてなくて。」
確かマジックバッグの中にポルトで買った串焼き類が入ってるけどとか考えていると、後ろにいたルルさんがスタスタと歩いてきて僕とその男性の間に立った。
そして、大きな声を出した。
「おい、ダメ勇者!」
「あっ、バカ聖女!」
・・・どうやら二人は知り合いのようです。
ようやく第三章をスタートすることができました。
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次回投稿は5月29日(月)です。
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