116.次の国に到着します(第二章最終話)
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第二章 葡萄の国と聖女
主人公が戦闘狂の聖女と知り合い、葡萄の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
第二章 葡萄の国と聖女(116)
【コロンバール編・港町ポルト】
116.次の国に到着します(第二章最終話)
パチパチパチ。
吟遊詩人が語りを終えると、甲板上で耳を傾けていた乗客、乗員たちから拍手が起こった。
それなりに興味深い話だったし、多くの人が聴き入ってた割に拍手が控えめなのは、結末のあやふやさに少し戸惑っているからだろう。
まあそもそも、聴衆もそれほど多くないしね。
「ルルさん、今の話、聞いたことあります?」
「いや、初めてだな。」
「結末が曖昧な物語って、割とあるんですか?」
「私の知る限り、ほとんどないな。勝利か敗北かは別として、英雄譚なら大抵最後ははっきりしている。結末は見せ場だからな。」
「そうですよね。そのほうが話として盛り上がりますよね。」
そんなことをルルさんと話していると、目の前にひょいっと派手な羽付きの帽子が差し出された。
「吟遊詩人のパサートと申します。以後、お見知り置きを。」
驚いて視線を向けるとそこには、左手に派手な帽子を持った吟遊詩人が立っていた。
帽子の中には鉄貨や銅貨が入っているのが見える。
これはあれかな。
街頭で音楽や芸を見せてチップを集めるあのパターン。
相場がよく分からないけど、どう見ても銀貨は入ってなさそうだし、銅貨でいいか。
「ありがとうございます。」
僕が銅貨を一枚帽子の中に入れると、吟遊詩人のパサートさんが深く頭を下げた。
続いてルルさんも銅貨を入れながら、彼に話しかけた。
「銀の語り部さん、さっきの話は初めて聞くが、どこかの国の実話かな?」
「はい、実話に基づいた英雄譚でございます。」
「どこの国か伺っても?」
「国の名前は教えられておりません。そもそもこの世界の国ではありませんので。」
「貴殿の口上にもあったが異なる世界の話であると?」
「左様でございます。」
「ではなぜ実話だと分かるのかな?」
「神より賜りし物語ゆえ。聖女様も神のお言葉を疑うことはございませんでしょう?」
吟遊詩人はそう言うと、にっこり笑って次の乗客の方へ移っていった。
「ルルさん、聖女だってバレてましたね。」
「そうだな。吟遊詩人は情報通だからな。コロンバールにいたのなら私のことも知ってるだろう。」
ルルさんはそう言うと、珍しく少し考え込む表情になった。
視線は吟遊詩人のパサートさんに向けられている。
「ウィン、ちょっと鑑定してくれ。」
「はい?」
「銀の語り部さんだ。ちょっと気になる。」
黙って人物鑑定をかけるのは失礼なんじゃなかったっけ。
まあバレなきゃいいのか。
今までも散々通行人とか勝手に鑑定してるしね。
そう考えて僕は少し離れたところで背中を向けているパサートさんに人物鑑定をかけることにした
ちなみに僕の人物鑑定レベルは現時点で上級になっていて、鑑定項目に「信頼度」が追加されている。
(鑑定。)
銀髪の吟遊詩人を見つめながらそう念じると、視界の中に鑑定結果が表示された。
(鑑定結果)
名前 : パサート(・・・) 男性
種族 : 魔族
職業 : 吟遊詩人・(・・・)
スキル: 語り部・(・・・)
魔力 : (・・・)
称号 : 『古の語り部』
友好度: (・・・)
信頼度: (・・・)
何だこれ?
(・・・)がいっぱいある。
年齢、種族の詳細、二つ目の職業、二つ目のスキル、魔力、友好度、信頼度が(・・・)表示になってる。
部分的に鑑定できないってことだろうか。
それと、種族が「魔族」になってますけど・・・。
「ウィン、どうした?」
鑑定表示を見て固まっている僕に、ルルさんが質問してきた。
「ええっと、鑑定が部分的にしか表示されません。」
「完全に見えないということは・・・隠蔽持ちか。」
「隠蔽ですか?」
「そうだ。ウィンの鑑定でも完全に表示できないということは、かなり強力な隠蔽だ。」
そういう能力もあるんですね。
まあ魔法とスキルの世界なので、どんな能力にも対抗手段があって当たり前かもしれない。
いやそれよりも、
「ルルさん、あの人、種族が魔族なんですけど。」
「なるほどな。何かおかしいと感じたのはそのせいか。」
「魔族って、普通にいるんですか?」
「ん? この辺では珍しいが魔族の国に行けば普通にいるぞ。」
魔族の国があるのか。
安全なら行ってみたい。
吟遊詩人の物語の中では人族と魔族が争ってたけど、この世界ではどうなってるんだろう?
「ルルさん、この世界では人族の国と魔族の国って戦ってたりします?」
「いいや、今、魔族の国と戦争してる国はないな。魔族の国も他の国と同じように、いくつかある国の一つだ。」
「魔王はいるんですか?」
「いるぞ。魔族の国の王様だな。」
「勇者もいるんですよね?」
「ああ、勇者の称号持ちは何人かいる。まああれは、国が持つ兵器みたいなものだ。」
魔王は王様で勇者は兵器?
お互い敵対関係とかじゃないんだね。
『魔王』は国を統治する王様という身分に対する呼び名で、『ドワーフ王』とか『エルフ王』みたいな感じかな。
『勇者』は特殊なスキル持ちに付く称号か。
複数いるみたいだし。
それにしても「国が持つ兵器」か。
戦争大好きな国とかが勇者を取り込んで、その能力を利用してるってことだろうか。
悪を倒すためとか、民を救うためとか、神の正義のためとか、そんな言葉に踊らされて、自分こそが正しいと思い込んで戦っちゃってるんだろうな。
あ、なんかムカムカしてきた。
勇者に対してじゃなく、自己嫌悪的な感じ。
なんだろう、この感情?
何かの記憶に繋がりそうな感じが・・・・・
…ウィン様、今、いいでしょうか?…
突然視界に「中の女性」からのメッセージが流れた。
それにしてもいきなりだね。
何かクエストのきっかけになるような事あったかな?
…クエストではなく、ひとまずお別れの挨拶をさせて下さい…
お別れの挨拶?
このタイミングで?
もしかして国が変わるから担当も代わるってことかな。
…はい、その通りです。もう間もなくエルフの国、アマレパークスに到着します。担当が代わりますのでよろしくお願いします。(心の声)本当は代わりたくないんだけどなぁ・・・…
エルフの国は「アマレパークス」っていうんですね。
それから(心の声)って書いても、文字なので普通に読めてますよ。
まあとりあえず、ご丁寧にありがとうございますと返せばでいいのか?
でもたぶんコロンバールにも島にも度々戻ると思うんだよね。
お別れとか大げさじゃないかな。
…ウィン様、何事にもケジメが大事です。それではまた会う日まで。アデュー…
はい、また会う日まで。
一応合わせておこう。
でもたぶん、今日の夜とか、明日とか、アリーチェさんのご飯を食べにコロンバールに戻ると思うけどね。
お別れしてもすぐに再会だろうな。
定期船は何事もなく航海を続け、太陽がかなり低くなった頃、目的地の港が見えてきた。
この航路は大陸の海岸に沿うように設定されているようで、航海の間、陸地が見えなくなることはなかった。
ただ、視界に入るのは崖や岩場ばかりだった。
それが徐々に開けた土地が見えるようになり、やがて港とその背後に拡がる街並みが現れた。
「ルルさん、この辺りから急に海の色が変わった気がするんですけど。」
「『碧の海』だな。港を包むように拡がっている。この海域はほとんど天候が荒れず、海の魔物たちも近付かない。海竜の骨が沈んでいるという伝説もあるが真偽は分からない。」
港の風景が見え始めた辺りから海の色が深い青色から日差しを受けて輝くような緑色に変化した。
海の雰囲気が変わったことで、いよいよ次の国に到着するという気分が盛り上がってくる。
エルフの国「アマレパークス」。
目の前に見える港街「アマレ」は、この国の海の玄関口であり首都も兼ねているらしい。
「ルルさん、なんかワクワクしますね。」
「ウィンは初めてだからな。私は何度も来たことがある。」
ルルさんと会話している間にも定期船が少しずつ速度を落として岸壁に近づいて行く。
大小様々な船が停泊しているのが見える。
街の規模は予想したよりも大きく、奥の方にはお城のような建物も聳え立っている。
この国にも貴族や王族がいるのだろう。
(この国でも何か面白いことがあればいいな。)
美味しい食べ物や美味しいお酒。
珍しい素材や綺麗な風景。
そして何より、興味深い人たちや未知の出来事。
面倒な事件はない方がいいけどね。
そんなことを考えていると、定期船が静かに動きを止め、接岸の合図の鐘が夕暮れの港に鳴り響いた。
(第二章 『葡萄の国と聖女』 終わり)
(第三章 『世界樹の国と元勇者』 に続く)
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ここで第二章完結となります。
第三章執筆のためにしばらく投稿を休ませていただきます。
なるべく早く再開したいと思いますので、これからもよろしくお願いします。




