114.吟遊詩人が現れました(異世界の英雄譚?)
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第二章 葡萄の国と聖女
主人公が戦闘狂の聖女と知り合い、葡萄の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第二章 葡萄の国と聖女(114)
【コロンバール編・港町ポルト】
114.吟遊詩人が現れました(異世界の英雄譚?)
「唐揚げ!」
料理名を叫んだのが功を奏したのか、4体の羽雷魚は狙った通り唐揚げになった。
すぐに齧り付こうとするタコさんを一旦止めて、床の上に出現したお皿をダイニングテーブルの上に置く。
「じゃあ港に戻るね。」
「羽雷魚の姿揚げ」をガジガジ、もぐもぐするタコさんとウサくんにそう声をかけた。
羽の部分のパリパリ具合がかなり美味しそうで、食べてみたい誘惑に駆られたけど、ルルさんが待っているのでポルトの港へと転移することにした。
まあ、いつでも食べれるしね。
ポルトの港に戻ると、目の前にルルさんが立っていた。
転移する時に「ポルトの港、ルルさんのいる所」と念じたので当然の結果だけど。
ルルさんは僕に気付くとすぐに声をかけてきた。
「ウィン、用事は済んだのか?」
「はい、電撃無効、取れました。」
「ウィン・・・そんな軽々しく・・・まあウィンだから仕方がないが・・・。」
ルルさんが呆れた顔で溜息をついた。
いや、そんなに呆れなくてもいいと思いますけどね。
そうだ、ルルさんも『電撃耐性』取れないか試してみよう。
(電撃耐性クエスト、受注者枠、ルルさん。)
・・・・・
ダメか。
受注者枠の活用方法、いまいち把握できないな。
何か隠されたルールがあるのかもしれない。
「そうだウィン、そろそろ定期船が動きそうだ。」
「羽雷魚、いなくなったんですか?」
「ああ、通り過ぎたみたいだな。今、漁船が確認に出ている。」
「じゃあいよいよ船旅に出発ですね。」
「半日ちょっとだから、旅ってほどじゃないがな。」
定期船乗り場に行くと思ったより人が集まっていた。
定期船の再開を待っているのだろう。
服装や荷物から判断すると、冒険者や行商人が多いようだ。
人々の様子を見渡していると、少し派手な服装の人が目についた。
緑色の衣装に金色のベルト、銀髪の長髪にカラフルな羽飾りの付いた帽子、背中に楽器のようなものを背負っている。
「あの人は、吟遊詩人?」
「そうだな。背中にリュートがあるしな。」
「初めて見ました。」
「そうか、広場とか酒場に行けば割と見かけるぞ。」
「船にも乗るんですね。」
「放浪は彼らの基本だからな。旅をしながら物語を集め、世界中に広めて歩く。彼らの持ってる情報は貴重だぞ。」
「創作とかじゃないんですか?」
「脚色はあるかもしれないが純粋な創作はない。実際にあったことや実在の人物が題材だな。」
フィクションじゃなくてノンフィクションなのか。
英雄譚とか恋愛物とか、かなり内容を盛ってる可能性はあるんだろうけど。
「吟遊詩人って、どういう人がなるんですか?」
「『語り部』や『演奏』のスキル持ちがほとんどだ。一部、特殊なのもいるが。」
「特殊?」
「『諜報』とか、『暗殺』とか、『扇動』とかだな。」
「それは不穏ですね。」
「ああ、裏の仕事人だ。争い事があると暗躍する。」
「吟遊詩人には気をつけろって感じですか?」
「それほどでもない。ほとんどの吟遊詩人は無害だぞ。」
ルルさんとそんな話をしていると、港から定期船に木の板がかけられ、集まった人たちが乗り込み始めた。
船と言っても前の世界の客船と比べるとかなり小さい。
50人乗りくらいかな。
木造の帆船で、これで外洋に出るのは難しそうに見える。
沿岸沿いを進んで隣の国に行くくらいなら大丈夫なんだろうけど。
乗り場の所でルルさんと二人分の料金を支払って定期船に乗り込んだ。
ほとんどの人が手荷物を持ったまま甲板の上にいる。
船倉は貨物用で船内上部に乗客用の休憩室があるけど、海が荒れていなければ乗客はだいたい甲板で過ごすそうだ。
しばらくすると船が岸壁を離れて動き始めた。
ゆっくりと方向を変え、沖に向かって進んで行く。
「ルルさん、これ、どうやって操船してるんですか? 帆はあるけど櫂はありませんよね。」
「風魔法だな。船には必ず魔術師が乗ってる。」
櫂の代わりに風魔法ということか。
細かいところは風魔法で対応し、沖に出れば風を受けて進むのだろう。
船の縁にもたれて海を眺めていると、日差しと海風が心地よく体を包み込む。
乗客たちが甲板を好むのも理解できる。
荷物を置いてその上に座っている者。
甲板に座りこんで柱に持たれている者。
立ったまま知り合いと話をしている者。
舳先に近い所でじっと前方の海を見つめている者。
みんな、思い思いの形で船上の時間を過ごしていた。
〜ポロンポロン、ポロロロン〜
太陽が中天を過ぎ少し傾き始めた頃、船の甲板に優しげな音が流れ始めた。
音がした方を見てみると、吟遊詩人が木の箱に腰を下ろしてリュートを爪弾いている。
抑えめの音量でゆったりとした曲調なので特に邪魔にはならない。
むしろ、船が波を切って進む音と昼下がりの気怠げな雰囲気に見事に調和している。
吟遊詩人は過去の記憶を手探りで探すような感じでメロディーを紡いでいく。
少しずつ甲板の乗客たちの意識が吟遊詩人の方へ集まっていくのが分かる。
僕とルルさんの視線もいつの間にか彼の姿に吸い寄せられていた。
不意にリュートの音が途切れると、ほぼ全ての人の視線がその吟遊詩人に注がれていた。
吟遊詩人は静かに立ち上がると優雅に一礼し、笑みを浮かべたまま語り始めた。
「みなさま、旅の途中の貴重なお時間を拝借いたしまして、ひとつの物語を語らせて頂きたいと思います。このお話は遠い昔の英雄譚。しかし今まで一度も語られたことのない物語です。舞台はこの世界とよく似た別の世界。人族と魔族が激しい戦いを繰り広げている世界。語り部の神が私に授けてくれたこの物語を、ここで初めて披露させて頂きたいと思います。」
吟遊詩人が言葉を切ると、静寂が甲板の上を包んだ。
誰一人言葉を発する者はいない。
波の音や風の音さえ遠慮して小さくなったように感じられる。
吟遊詩人はゆっくりと視線を巡らせ、最後に僕の方を見た。
そしてにっこりと微笑んだ。
「それでは語らせて頂きます。お題目は『七龍の勇者』。しばしのご清聴、よろしくお願い申し上げます。」
そして吟遊詩人は英雄譚を語り始めた。
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