111.明日の予定を決めます(進化:ウサくん)
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第二章 葡萄の国と聖女
主人公が戦闘狂の聖女と知り合い、葡萄の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第二章 葡萄の国と聖女(111)
【コロンバール編・港町ポルト】
111.明日の予定を決めます(進化:ウサくん)
〜(忘れられていた支部長メル)〜
【七色ワームの洞窟前】
メル : サニー! ルル様は洞窟に入った?
サニー: はい。
メル : 分かったわ。私も後を追うわ!
サニー: もう出られましたが。
メル : えっ? もう出たの?
サニー: はい。
メル : ルル様はどこに?
サニー: ポルト支部に戻られました。
メル : えっ?
【冒険者ギルド・ポルト支部】
メル : コニー! ルル様は戻られたの?
コニー: はい。
メル : よかった。で、どこにいらっしゃるの?
コニー: 出掛けられました。
メル : えっ? どこに?
コニー: 商人ギルドに行かれました。
メル : えっ?
【商人ギルド・ポルト支部】
メル : ジャコモさん! ルル様は?
ジャコモ: 居らんのう。
メル : ここに来たでしょ?
ジャコモ: どうじゃったかのう。
メル : 今はどこにいらっしゃるの?
ジャコモ: 顧客情報は商人の秘匿事項じゃな。
メル : ・・・・・
* * * * * *
小屋に戻るとダイニングテーブルを囲むように従魔たちが座っていた。
「ただいま〜」
「あるじ〜 おかえり〜」
(お帰りなの。)
「リン(お帰り)!」
(アルジ、オカエリ。)
(ご主人様、お帰りなさい。)
(殿、よく戻られた。)
「もぐもぐ。」
ディーくん、タコさん、スラちゃん、コンちゃん、ハニちゃん、ラクちゃんの順番に出迎えの言葉が続いた。
ウサくんは・・・一応右前足を上げてるので出迎えだよね。
相変わらず何か食べてるけど。
マジックバッグから屋台広場で買い集めた串焼きを出して、お皿に載せてダイニングテーブルの上に置く。
貝類は木のお椀を屋台に返却しないといけなかったので買って来なかった。
次回からはあらかじめ容器類をマジクバッグの中に入れておかないとね。
というよりせっかく容量(城)のマジックバッグがあるのでいろんなものを入れておこう。
従魔たちは思い思いに串を取って食べ始める。
うん、スラちゃんもサンマーレ(秋刀魚のようなもの)の串焼きを食べてるね。
もう君たちの食性、全員雑食でいいんじゃないかな。
ん?
タコさんがイワシーレ(鰯のようなもの)を持ったまま、こちらに向かって何かジェスチャーしてる。
おにぎりを・・・いっぱい・・・お願い。
理解できるけど、念話の方が早くない?
でも焼き魚におにぎりを合わせるあたり、タコさん、なかなか分かってるね。
「もぐもぐ、主、もぐもぐ、薬草ちょうだい。」
タコさんに続いてウサくんから薬草の催促。
ウサくん、口の中に食べ物を入れたまましゃべるのはお行儀が悪いからダメだよ。
齧ってるのはコアジーレ(小鯵のようなもの)だよね。
焼き魚と薬草、一緒に食べるの?
まあ味の好みは人それぞれだけどね。
おにぎり20個と薬草1束をクエストで出してダイニングテーブルの上に置いたところでルルさんが話しかけてきた。
「ところでウィン、食材は買わなくても良かったのか?」
「食材?」
「焼く前の魚とか貝とか。」
あっ、完全に忘れてた。
初めての屋台巡りに舞い上がって、それだけで満足してた。
すぐに買いに行こう。
「ルルさん、どこに行けば買えます?」
「漁港の市場だな。」
「じゃあ今から行きましょう。」
「それは無理だ。」
無理?
なぜ?
「漁港の市場は早朝しか開いてない。行くなら明日の朝だな。」
そうか、がっかりだな。
別に慌てる必要はまったくないんだけど、「思い立ったが吉日」「善は急げ」っていうからね。
うん、例えが微妙に当てはまってないな。
(あるじ、全部倉庫にあるの。)
ちょっと落ち込んでいるとタコさんから念話が来た。
全部倉庫にある?
何が?
(魚、貝、甲殻類、海藻、魔物、この辺の海にいるの全部なの。獲ってきたの。)
獲ってきた?
いつの間に?
(あるじがいない間なの。海に行ったの。)
そうだった。
従魔たちって、僕がいなくても小屋の扉から自由に出入りできるんだった。
本当なら大問題だよね。
星3つの魔物が、小屋さえあればどこにでも行けるって。
従魔たちが各地に現れて暴れるなんてことはないだろうけど、食材や素材を集めまくるのってどうなんだろう?
知らないうちに誰かに迷惑をかけてるかもしれない。
(大丈夫なの。加減してるの。獲り尽くしたりしないの。)
それならいいけど。
別に行動に制限とかかけないけど、他の人に迷惑はかけないようにね。
(了解なの。)
タコさんの返事と一緒に他の従魔たちも頷いている。
もしかすると全員(全従魔)食材及び素材集めに出かけてたんだろうか。
あんまり考えないようにしよう。
「それでウィン、明日の朝、漁港の市場に行くのか?」
「いえ、その問題は今、解決しました。」
「そうなのか。じゃあ、今から訓練でもするか?」
訓練かあ。
夕食まではまだ少し時間があるんだよな。
おやつの時間帯に屋台で買い食いしちゃったしな。
あれ、ちょっと待てよ。
今日は安息日じゃなかったっけ。
朝から「安息」には程遠い濃すぎる1日だった気がするけど。
「ルルさん、今日は安息日で訓練は無しでしたよね。」
「そう言えばそうだったな。じゃあ訓練じゃなくて訓練の練習をしよう。」
訓練の練習?
意味不明だよね。
無視しよう。
「ところでルルさん、ポルトの港、貿易港の方ですけど、どこ行きの船が出てるんですか?」
「確かここからは南の群島方面と西隣のエルフの国への航路があるはずだ。」
「2つだけですか?」
「ああ、もちろん海は繋がってるから行こうと思えば他にも行けるが、航路以外を通ると海の魔物の被害を受けやすい。だから短距離の航路に沿って移動するのが普通だな。」
次の行き先の選択肢はとりあえず2つか。
南の群島か隣のエルフの国。
このままコロンバール(ドワーフの国)で滞在するのも悪くはないけど、この世界を楽しむためには旅をしないとね。
クエストや訓練についても特に急ぐつもりはないんだよね。
本来なら一つずつ極めていくべきなのかもしれないけど。
今のところ魔王と戦う予定もないし、極悪龍の討伐依頼とかも受けてないし、国同士の争いに関わるつもりもないし。
親しくなった人たちを助けるくらいの力は欲しいけどね。
「エルフの国までは船でどれくらいかかります?」
「朝出れば夕方には着くぞ。一番近い港までだからな。」
「じゃあ明日、早朝訓練の後、船に乗りましょう。」
「なぜ?」
「エルフの国を見てみたいので。」
「いやそうじゃなくて、ウィンなら転移ですぐに行けるだろう?」
「それじゃあつまらないんですよ。というか、船に乗ってみたいんです。」
「まあ、ウィンのしたいようにすればいい。私はついていくだけだ。」
よし決まりだ。
明日は船に乗ろう。
これから農園に戻って、マッテオさんとアリーチェさんに明日の予定を伝えないと。
もしかすると数日戻らないかもしれないし。
まあ、小屋と転移陣があるからいつでも戻れるけどね。
船の旅、楽しみだな。
海の魔物に遭遇するかな。
怖いけど、見てみたい気もする。
そんなことを考えていると、突然ダイニングテーブルの辺りから強い光が発生した。
「ウィン、この光は何だ?」
けっこう驚いている僕の隣でルルさんが淡々と尋ねてきた。
たぶんこれまでいろいろ驚きすぎて、耐性ができちゃってるんだろうな。
それよりこの光、本当に何だろう?
目を眇めながら光の元を見ると、発生源はウサくんだった。
ウサくんを包むように光が大きく広がり、しばらくするとその光がウサくんの体に吸い込まれるようにして消えた。
光が消えるとそこには、何事もなかったようにもぐもぐするウサくんがいた。
いや、何事もないことはない。
薄茶色だった体毛が銀色になり、ツノが長くなってる気がする。
「あるじ〜、ウサくん、進化したよ〜」
ディーくんの間延びした声が小屋の中に響いた。
ウサくんが進化した?
それって、けっこう大事件じゃないの?
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