110.初めての屋台巡り(ポルト:屋台広場)
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第二章 葡萄の国と聖女
主人公が戦闘狂の聖女と知り合い、葡萄の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第二章 葡萄の国と聖女(110)
【コロンバール編・港町ポルト】
110.初めての屋台巡り(ポルト:屋台広場)
鍛冶士ギルドを出た所でジャコモさんと別れた。
ジャコモさんはこれからコロンに戻るらしい。
別れ際に、ジャコモさんから一つ提案というか、お願いをされた。
「次にコロンに来られた時に、商人ギルドに小屋を置いて欲しいんじゃが。」
僕たちに連絡をしたい時に、毎回ポルトまで来るのは大変らしい。
かと言って、教会の裏庭に出入りするのも気が引けるということで、できれば商人ギルドのコロン本部にポスト付きの小屋を設置して欲しいとのこと。
特に問題もないので快諾しておいた。
商品販売を委託する以上、簡易な連絡手段は必要だしね。
「ウィン、次はどこに行く?」
二人きりになるとルルさんが次の行動予定を尋ねてきた。
僕は少しだけ考えて当初の目的を果たすことにする。
「ポルトの海産物が食べられる所はどこでしょう?」
「ここからなら、少し港の方に行けば屋台がたくさん出ている場所があったな。」
「じゃあ、そこに行きましょう。」
とりあえず「初めてのダンジョン探索」はクリアしたので、次は「初めての屋台巡り」に挑戦しよう。
海産物を売ってる屋台がたくさんあればいいんだけど。
ルルさんの後についてしばらく歩いているといろいろなお店が集まっている通りに出た。
さっきまでいた辺りが官庁街だとすると、この辺は商店街的な雰囲気。
時刻も昼過ぎくらいなので人通りもかなり多い。
「この先に広場があって、屋台が結構出てるはずだ。」
ルルさんの説明を聞きながらてくてく歩いていくと、丸い広場に到着した。
真ん中に三叉の槍を持った誰かの像があり、その周りに固定式のベンチがたくさん並んでいる。
目当ての屋台は、その広場の外縁部分に広場を囲むように設置されていて、その前にも小さめのテーブルや椅子が置かれている。
何というか、屋外型のフードコートのような感じだ。
広場の中に入ると食材を焼くいい匂いが漂ってきた。
見た感じでは具材を串に刺して焼いているものが多い。
ほとんどの人がベンチや椅子に座って串に刺したものを齧っていた。
ただ一部にはテーブルにお椀のようなものを置いて食べている人もいるので汁物を売る屋台もあるのだろう。
早速広場の入り口近くの屋台から見て回ることにした。
ルルさんは、とりあえずついて来てくれるようだ。
一軒目で売られている串焼きを見て思わず頬が緩む。
そこでは、大きめのエビのようなものが丸ごと炭火で炙られていた。
「すみません、それを20本ください。」
「えっ、20本。お兄さん、そんなに食べられるのかい?」
「はい・・・いえ、仲間の分もあるので。」
「そうかい、そうかい、ありがたいねぇ。エビラは人によって好き嫌いがあってねぇ。こんなに美味しいのにねぇ。」
屋台の女性はそう言って、焼き具合を確認しながら20本の串焼きを選んでくれる。
恰幅のいいその女性をこっそり人物鑑定してみるとドワーフ族の女性だった。
「これ、エビラっていうんですね。」
「お兄さん、名前、知らなかったのかい?」
「僕の島(前の世界)では違う名前だったので。」
「ああ、南の群島から来たのかい? そう言えば地域によって呼び名が違うこともあるらしいね。はい、エビラの丸焼き。20本で鉄貨40枚だよ。」
正しい名前は串焼きではなくて丸焼きなんですね。
20本で鉄貨40枚ってことは、1本で鉄貨2枚(200円相当)。
この値段は安いのか高いのか。
まだこの世界の相場感はよく分からない。
それからなぜ名前が「エビラ」なんだろう?
自動翻訳で「エビ」になりそうなもんだけど。
ほとんどエビだけど、ちょっとだけエビじゃないってことかな。
そう言えば飛魚っぽいのも、太刀魚っぽいのも名前は全然違ったよね。
まああれは魔物だったけど。
余計なことをあれこれ考えながら、代金を銅貨4枚で支払う。
「お兄さん、ありがとね。それから屋台だとお釣りはもらえないから、銅貨を使う時は気をつけてね。」
「分かりました。ありがとうございます。」
屋台の女性、いい人だね。
とても親切だった。
そして新しい情報をゲット。
屋台ではお釣りはもらえない。
確かに鉄貨数枚の取引のために釣り銭を用意するのは面倒だし、屋台営業だとリスクもあるんだろう。
20本のエビラの丸焼きの内18本をマジックバッグにしまって、1本をルルさんに渡した。
ルルさんは素直に受け取ったので嫌いではないようだ。
自分の分のエビラを間近でよく見てみたけど、エビとの違いは発見できない。
念のため『魔物鑑定』もかけてみたけど情報は表示されなかった。
エビラは魔物ではなく、普通の魚介類ということだろう。
エビラの丸焼きは名前の通り丸焼きだった。
殻の上から塩を振ってそのまま焼いた感じ。
殻を剥くべきかどうか迷っていると、ルルさんが豪快に頭から齧り付いていた。
「殻、硬くないですか?」
「まったく。むしろ殻のパリパリ感と香ばしさがエビラの丸焼きの魅力だぞ。」
ルルさんの口の中からは、パリパリというより、バリバリって音がしてる気がするけど・・・。
でも美味しそうに食べているので、僕も頭の方から齧ってみる。
あっ、これ、美味しい。
殻もそんなに硬くない。
パリパリの食感と少し強めの塩味。
頭の方にはエビ味噌の苦味があり、身の方にはプリプリの食感と甘みがある。
なんか懐かしい味。
すぐに食べ終わって、もっと食べたくなったけど、屋台はまだまだたくさん並んでいる。
自重、自重。
その後も、広場をぐるっと一周回るように屋台を巡って行った。
甲殻類はエビラの他にカニラやシャコラというのがあった。
名前から想像できる通り、カニみたいなものとシャコみたいなもの。
カニラは、小さめのカニラを3匹、殻ごと串に刺して焼いたもので魚醤味。
シャコラは、殻を剥いた身だけを軽く炙ったもので薄い塩味。
シャコのイメージより二回りくらい大きい。
魚系は、1匹を丸ごと串に刺して焼いたものがほとんどだった。
大型の魚の切り身のようなものはなく、一人で食べ切れるくらいのサイズのものばかり。
ルルさんに訊いてみると、大型の魚介類は主に貴族や商家、店舗を構えている飲食店に回るようで、屋台では扱わないとのこと。
貝類は網焼きで焼かれたものとスープで煮込まれたものに分かれていた。
どちらも素朴な木のお椀で提供されていて、木の匙や竹串のようなものが添えられている。
僕は片っ端から買いあさって味見していった。
基本的にどこの屋台も商品は1種類だけ。
値段は串1本(お椀1杯)につき鉄貨1〜3枚。
最初の屋台の女性の忠告に従い、お釣りが発生しないように10本単位で購入する。
1本は自分で食べて、1本はルルさんに渡し、残りはマジックバッグの中へ。
たくさん買い置きできるのは時間停止機能のおかげだね。
「ルルさん、港町だけどお肉の屋台もけっこうあるんですね。」
港の近くなので大半が魚介類の屋台かなと思っていたけど、実際には半分くらいがお肉系の屋台だった。
「そうだな。港町とは言っても肉類が好きな者もいる。逆に内陸の街に行くと、屋台はほとんど肉系だぞ。魚介類は鮮度の問題で遠くには運べないからな。」
確かに。
干物とかに加工すれば多少は日持ちするだろうけど、手間暇がかかるか。
あれ、でも氷の魔法とか使えば運べそうだよな。
マジックバッグという手もあるし。
「ウィン、魚を運ぶのに氷魔法を使うとか有り得んからな。魔法使いの無駄遣いだ。あと、マジックバッグは超希少品だからな。」
何も言ってないのにルルさんに考えを読まれてしまった。
あのルルさんに読まれるなんて・・・。
ちょっとショックかもしれない。
「ウィン、今、失礼なことを考えたな。」
「いえいえ、ちなみに屋台で売ってるお肉は何の肉ですか? 魔物?」
ルルさんに突っ込まれたので慌てて話題を変えた。
いつもは戦闘以外には無関心なのに、時々妙に鋭いんだよね。
「鳥、豚、兎だな。街の周辺で狩れるものがほとんどだ。魔物肉は屋台では扱わない。」
「どうしてですか?」
「魔物を狩るのはリスクが高い。リスクが高いと値段が高い。高いものは屋台では無理だ。」
そういうことですね。
魔物を狩るのはリスクが高いと。
クエストでズルができる僕やAランク冒険者のルルさん基準で物事を考えちゃいけないということですね。
「あと、屋台の人たち、ほとんどドワーフ族ですけど何か理由があるんですか?」
「この国はドワーフの国だぞ。」
「でも街中にはいろんな種族の人がいますよね。」
「他国から来る者はほとんど特定の職業持ちだ。冒険者や商人や職人といったな。屋台をするためにわざわざ来る者は少ない。」
なるほど。
確かに屋台のような仕事は、地元の人が多くなるか。
さて屋台広場も一巡りしたし、一度戻るとしますか。
従魔たちが海産物のお土産を待ち侘びてるはずなので。
「ルルさん、一度小屋に戻ってもいいですか?」
「もちろんだ。」
僕とルルさんは、屋台広場から転移陣で商人ギルドの裏庭に移動した。
あれ、何か忘れている気がするな。
何だったっけ?
忘れるくらいのことだからまあいいか。
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