109.鍛治士ギルドに登録します(ウィン:マジックバッグ拡張)
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第二章 葡萄の国と聖女
主人公が戦闘狂の聖女と知り合い、葡萄の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
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第二章 葡萄の国と聖女(109)
【コロンバール編・港町ポルト】
109.鍛冶士ギルドに登録します(ウィン:マジックバッグ拡張)
「そしてここに来たのは、もちろん、ウィン殿の登録のためじゃよ。」
ジャコモさんがそう告げた。
僕は少し混乱した。
鍛冶士ギルド?
でも僕は鍛冶なんてしたことがない。
まったくの未経験者でも登録できるのだろうか?
正直なところ、3つ目のギルド登録は魔術師ギルドか錬金ギルドにしようかと考えていた。
魔法なら使える。
僕の中では『クエスト』という認識でも、発生する現象は『魔法』なので、魔術師ギルドなら認められるんじゃないかと思っていた。
錬金も一応できる。
あれがこの世界における錬金と同じかどうかは分からないが、そこはギルド登録の時に確認すればいいかと考えていた。
鍛冶士ギルドについてはその存在も知らなかったけど、たとえ知っていたとしても登録する候補には入らなかっただろう。
ハンマーもやっとこも握ったことさえないんだから。
「ウィン殿、わしに任せておけば大丈夫じゃよ。」
僕の心配をよそに、ジャコモさんはそう言うと鍛冶士ギルドの受付カウンターの方へ歩いて行った。
「ジャコモ様、本日はどのようなご用件でしょうか?」
さすがにジャコモさんは有名人らしく、本人が名乗る前に受付嬢の方から声をかけてきた。
鍛冶士ギルドの受付嬢はウサギ獣人の女性だった。
ポルトにあるギルドの受付嬢はウサギ獣人率が高いな。
まさか、三姉妹じゃないよね。
「支部長のマーロン殿はおられるかのう?」
「はい、おります。支部長室にご案内いたしましょうか?」
「いやいやたいした用ではないんじゃ。新規にギルド登録したい友人がおってのう。マーロン殿がご多忙でなければ紹介しておきたいと思うてのう。」
「かしこまりました。すぐに支部長にお伝えします。」
受付嬢が立ち上がり、奥にある部屋に向かう。
受付嬢が部屋に入ってしばらくすると、その扉から一人の小柄な男性が現れた。
「なんだ本当にジャコモじゃないか。こんな所に来るなんて珍しいな。」
「マーロン殿、相変わらず壮健そうで何よりじゃ。」
鍛冶士ギルドの支部長はドワーフ族だった。
ジャコモさんやマッテオさんのように大きなドワーフではなく、僕の知識の中にある小柄でヒゲモジャで樽のような体型のドワーフ。
ちなみに髭の色は黒だ。
ドワーフ族にもいろいろなタイプの人がいるようだ。
「で、何の用・・・ルル様! ジャコモ、なぜルル様がここに!?」
「ああ、黒髭さん、私は今回は関係ない。ただの付き添いだ。用があるのは隣にいる私のパートナーだ。」
「ルル様のパートナー?!」
また始まりました。
ルルさんを巡る一連のルーティン。
いい加減パートナーを強調するのやめてくれないかな。
そこで相手が驚くのもお約束。
何回も同じようなやり取りを見てると、なんか小芝居みたいに見えてくる。
「マーロン殿、ルル様のことはとりあえず横に置いてくれんかのう。本題はこちらのウィン殿じゃ。鍛冶士ギルドへの登録をお願いしたい。」
ジャコモさんの言葉を聞いてマーロンさんは僕の顔を見た。
そしておもむろに両手で僕の右手を握り、続いて左手を握った。
それはもちろん、握手ではない。
「ジャコモ、何をとち狂ったのか知らないが、こいつはダメだ。鍛冶士の手じゃない。見習いにしてももう少し修行してからじゃないとギルド登録は認められんぞ。」
マーロンさんがすごく当たり前のことを指摘した。
もっともだと僕も思う。
鍛冶は特殊な技術が必要な職業だし、まったくの素人をギルド登録するのではギルドの意味がないだろう。
「マーロン殿、ちょっと待ってくれんかのう。ウィン殿、黒い短剣を出してもらえんか?」
ジャコモさんに言われたので、マジックバッグから短剣(黒)を出してジャコモさんに渡した。
ジャコモさんはその短剣(黒)をそのままマーロンさんに渡す。
「この短剣は?」
「ウィン殿が作ったものじゃ。」
マーロンさんの問いかけにジャコモさんが答えた。
マーロンさんは受け取った瞬間から、片時も目を離さず短剣(黒)を見つめ続けている。
角度を変え、距離を変え、光の当たり具合を変え、かなり時間をかけて検分している。
そしてその後は、指先や手の平で各部分に触れながら何やら唸り出した。
「ジャコモ、何だこれは? どこで手に入れた? アダマンタイトで短剣を打つなんて、普通の鍛治士ならもったいなくてやらんぞ。」
「ウィン殿の作じゃ。そう言うたはずじゃが。」
「この若者がこれを打ったと言うのか。ジャコモ、そんな話、誰も信用せんぞ。アダマンタイトを打つのがどれだけの苦行か、おぬしも知っとるだろうが。」
「もちろんじゃ。そう言われると思うてのう、これを用意したんじゃ。」
ジャコモさんはそう言いながら一枚の書面をマーロンさんに差し出した。
マーロンさんはその書面を受け取り、目を通した後、驚きの声を上げた。
「これは、正規の鑑定書か?」
「当然じゃ。魔法紙仕様の鑑定書じゃ。だから嘘は書けん。わしの鑑定通りの内容がそこに載っておる。これでも信用できんかのう?」
マーロンさん、鑑定書を見たまま黙ってしまった。
どうやら正規の鑑定書というのは、理屈は分からないけど偽造不可能なもののようだ。
それにしてもジャコモさん、いつの間に鑑定書なんて用意したんだろう。
「ジャコモよ、わしにはどうしても理解ができぬ。鑑定書がある以上、認めざるを得んが、その若者の手ではアダマンタイトは打てぬはず。ならばどうやってこの短剣を作った?」
「マーロン殿、それは鍛冶士の秘匿事項じゃよ。」
おおっ、そのセリフ、冒険者の専売特許じゃなかったんですね。
まあ考えてみればどんな職業にも公開しない独自技術ってあるよね。
有名ラーメン店のスープの作り方とか、フライドチキンのオリジナルスパイスとか、黒い炭酸飲料の製造方法とか。
あれっ、思いつくの食べ物関係ばっかりだな。
「しょうがない。その若者の鍛冶士ギルド登録を認めよう。ウィンといったか。ギルドの利用方法は説明を受けたか?」
「はい、ジャコモさんから聞きました。」
「義務については?」
「いえ、まだ聞いていません。」
「まあ難しい義務はない。非常時の緊急依頼があった場合、特段の理由がない限り応じるということだけだ。もちろん相応の対価は支払う。良いかな?」
「分かりました。分からないことがあれば、その都度お尋ねします。」
「そうだな。新人はその心構えが大切だ。まあ、あの短剣を見てしまうとウィン君を新人とは思えないがな。」
マーロンさんはそう言いながら、初めて笑顔を見せてくれた。
そこまでは終始、難しそうな顔をしていたので、ちょっと安心した。
…すみません、そろそろよろしいでしょうか? タイミングを逃すとまた忘れそうなので。…
「中の女性」のメッセージが視界に流れた。
話に一区切りが着くのを待っていたんだろう。
この状況では声に出して対応できないので心の中で承諾する。
…では、達成済みのクエストを表示します。…
○収納クエスト
クエスト : ギルドに登録しよう③
報酬 : マジックバッグ機能(城)
達成目標 : 3つのギルドに登録
視界に表示されたクエストを確認する。
3つ目のギルド登録が完了したのでマジックバッグの容量が拡張されたようだ。
「倉庫」から「城」に表示が変更されている。
容量が城規模って・・・。
どれくらいなのか想像がつかない。
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