107.連絡手段ができました(隠れクエスト:ポスト機能追加)
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第二章 葡萄の国と聖女
主人公が戦闘狂の聖女と知り合い、葡萄の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第二章 葡萄の国と聖女(107)
【コロンバール編・港町ポルト】
107.連絡手段ができました(隠れクエスト:ポスト機能追加)
「この商人ギルドに裏庭はありますか?」
僕の言葉にジャコモさんは怪訝な顔をした後、聞き返してきた。
「裏庭はあるんじゃが、それがどんな条件になるんじゃろうか?」
「とりあえず、裏庭に案内してもらえませんか? そこで説明します。」
「まあ、構わんが。」
ルルさんと僕はジャコモさんの案内で一度商談室を出て、ギルドの裏庭に向かった。
もちろん取り出した金剛石は一旦マジックバッグに戻してある。
商人ギルドの建物から裏庭に出ると、想像していたよりもかなり広い敷地にいくつかの倉庫があり、馬車や馬房、大きめの裏門などが見えた。
「かなり広いですね。」
「そうじゃのう。荷物の搬出搬入もあるでのう。敷地だけじゃと建物部分よりも広いかもしれんのう。」
僕は裏庭を見渡して邪魔になりにくそうな場所を探し、早速ジャコモさんに1つ目の条件を提示することにした。
「あの倉庫の横の空いてる場所に小さな小屋を建てさせて下さい。それが1つ目の条件です。」
ジャコモさんは僕の示した条件を聞いて、少し考えてから口を開く。
「あそこに小屋を? 別に問題はないんじゃが、いったい何に使うんじゃ?」
「ポルトにおける僕の拠点です。」
「拠点? 小さな小屋でかのう?」
「まあ、百聞は一見に如かずなので、お見せします。」
「見せてくれるというても、まだ小屋がないじゃろう?」
僕が目当ての倉庫の横まで歩いていくと、ルルさんとジャコモさんが後ろをついて来た。
細かく説明すると長くなるのでいきなり小屋を出してしまおう。
「HOME!」
僕は小屋を出す場所に向けて右手を伸ばし、そう叫んだ。
本来は右手を伸ばす必要も叫ぶ必要もないんだけど、初めて見る人のために分かりやすく演出してみた。
僕が叫ぶと同時に、見慣れた小さな小屋が出現する。
隣の倉庫と比べると本当に小さく見える。
「な、なんと。一瞬で小屋が出来上がるじゃと。」
さすがのジャコモさんもこれには驚いている。
ルルさんは見慣れているので特に反応はない。
僕はとりあえず、ジャコモさんに簡単に説明する。
「これが、僕の拠点です。魔法で出しました。この小屋はいくつでも作れます。そして扉の中はどこの小屋から入っても共通空間になってます。つまり、この扉から中に入り、首都コロンにある小屋の扉から出ることもできます。」
本当は魔法ではなくてクエストで出してるんだけど、そこから説明すると話がややこしくなるので、クエスト関係は全て魔法ということにしておく。
「ウィン殿、わしも長く生きとるがのう、こんな魔法は初見じゃよ。それにしても素晴らしい魔法じゃ。各地にこの小屋を置けば、どこにでも一瞬で移動できるということかのう?」
「はい、ただし、今の所この扉を通れるのは僕とルルさんだけですが。」
ジャコモさんが使いたがると思って、先手を打ってそう伝えると、ジャコモさんはがっかりする様子もなく頷いた。
「これだけの魔法、制約があるのは当然じゃ。そしておそらく、使えるかどうかの基準はウィン殿との信頼関係じゃな。」
頭の回転が早く、知識と経験が豊富で、人の感情を察知する能力が高い人って、これだから怖いよね。
特にヒントも与えていないのに、核心をズバリと突いてくる。
僕はジャコモさんの半分断定するような問いかけに対して、黙って微笑み返すだけにした。
「ところでウィン殿、この扉の横に立っとるモノは何じゃろうか?」
ジャコモさんにそう指摘されて小屋の方をよく見ると、確かに扉の横に何らかの付属物が設置されている。
今まで『HOME』で小屋を出した時には、そんなものは存在しなかったはずだ。
構造的には細い棒が垂直に立てられて、その上に四角い箱が乗っている。
いわゆる「郵便箱」、いや「郵便受け」だったかな?
とにかく家の前にあって手紙を入れるアレだ。
これはどういうことなのかな、「中の女性」?
…「隠れクエスト」が達成されましたので表示します。…
○隠れクエスト(HOME①)
クエスト : 小屋を建てろ
報酬 : ポスト機能追加
達成目標 : 小屋を建てる(5カ所)
カウント : 達成済み(6/5)
隠れクエスト?
そんなものもあるの?
内容が表示されたのでとりあえず確認してみる。
どうやら小屋の数を増やしていくと小屋の機能が追加されるようだ。
5カ所で「ポスト機能追加」。
おそらくあの「郵便受け」がその機能だろう。
でもどうやって使うのかな。
…「郵便受け」には誰でも手紙やカードを投函できます。投函された内容は即座に私を通じてウィン様に伝わる仕組みとなっております。…
なるほど、それはかなり便利だな。
小屋のことを知っている人に限られるけど、僕に連絡を取りたい時には「郵便受け」にメッセージを入れればいいと。
今のところだと、マッテオさんとアリーチェさんとジャコモさんくらいか。
でもそのうち増えていくだろうしね。
ところで今気づいたけど、達成目標が5ヶ所なのに、カウントの項目を見るとすでに6ヶ所になってない?
どういうことだろう?
ちょっと小屋の数を数えてみるか。
島の浜辺。
島の台地の上。
マッテオさんの農園。
教会の裏庭(ルルさんの小屋の隣)。
ダンジョン「七色ワームの洞窟」の中。
商人ギルド・ポルト支部の裏庭。
うん、やっぱり6ヶ所ある。
クエスト達成報告がなぜこのタイミングなんだろう?
…ウィン様、申し訳ありません。クエスト達成報告を忘れておりました。…
「中の女性」が謝罪してきた。
「中の女性」でもうっかりすることがあるんだね。
まあ人間、ミスをすることもあるよね。
「中の女性」が人間なのか神なのかAIなのか分からないけど。
「ウィン殿、どうされましたかのう?」
ジャコモさんが心配そうに声をかけてきた。
内面でのやり取りは他の人には見えないので、どうしても放心してるように思われてしまう。
確かジャコモさんから「郵便受け」について質問されたところだったよね。
ちゃんと答えないとね。
「ジャコモさん、これは郵便受けです。」
「郵便受けとはどういうものかのう?」
どうやらこの世界には郵便受けというものはないらしい。
おそらく直接手渡しか、ギルドなどに自分で取りに行くというパターンなのだろう。
「郵便受けというのは、相手が留守の場合に手紙やメッセージカードを入れておく箱です。この小屋の郵便受けの場合、即座に僕に内容が届きます。」
「つまり、ウィン殿に何かを伝えたい場合、この箱に内容を書いたものを入れれば、すぐにウィン殿に伝わるということじゃな?」
「その通りです。」
「了解じゃ。必要な時に使わせてもらっても構わんかのう?」
「構いません。でも他の人には内緒です。」
「無論じゃ。」
小屋を無事に設置できたので、続いて2つ目の条件を提示する。
「ジャコモさん、2つ目の条件ですが、今後ジャコモさんを通した取引で出た利益は僕とルルさんで折半という扱いにして下さい。」
「了解じゃ。こちらとしては何の問題も無いのう。」
2つ目の条件はジャコモさんによってあっさり承諾された。
しかしそこに異論を挟む者がいた。
ルルさんである。
「ウィン、それはおかしい。利益は全てウィンのものだ。」
清々しいというか、お金に執着がないというか、ルルさんが全面的に否定してきた。
「そういう訳にはいきません。パーティーで協力して動くんですから、半分はルルさんのものです。」
「その必要はない。」
「どうして必要ないんですか。ルルさんだって戦闘を続けるのにお金は必要ですよ。」
いくら欲がないといっても、生きていくには最低限お金が必要だし、戦闘狂のルルさんが戦いを続けていくのにも、武具の購入や整備、遠出する時の旅費などお金が掛かる。
もしかして、すでに使いきれないくらいのお金を貯めているのだろうか。
「必要ないと言ってる。なぜなら私はこれからずっとウィンと一緒だ。私のものはウィンのもの。ウィンのものは私のもの。だから分ける必要はない。」
戦闘狂の聖女が意味不明の理由を宣言した。
この人、キッパリと断言しやがりましたよ。
ジャコモさんの前ですけど、頭をはたいてもいいですかね。
誰かハリセン(張り扇)持ってきてくれませんか。
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