106.製作者がバレました(武具鑑定上級:ジャコモ)
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第二章 葡萄の国と聖女
主人公が戦闘狂の聖女と知り合い、葡萄の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
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第二章 葡萄の国と聖女(106)
【コロンバール編・港町ポルト】
106.製作者がバレました(武具鑑定上級:ジャコモ)
「こ、これは・・・」
ジャコモさんが目を見開いて驚きながら言葉を詰まらせた。
ひとまずは悪戯成功。
短剣(黒)は、経験豊富な大商人でも表情を変えるくらいの性能だったようだ。
でも単に驚かせたかっただけじゃなく、実際に上級の武具鑑定で見てもらって、短剣(黒)の詳細を知りたいという思いもあったんだけどね。
「ジャコモさん、鑑定結果を教えてもらえますか?」
僕が尋ねると、ジャコモさんさんは表情を元に戻して僕を見た。
「ウィン殿は本当にお人が悪い。こんな隠し玉を持っておられるとは。この短剣、いくらで譲っていただけるかのう?」
「いやいや、最初に売る気はないと言いましたよね。」
「そうだったかのう。歳を取ると物覚えが悪くなってしもうてな。で、いくらならいいですかのう?」
「だから売りません。」
本当にこの人は油断も隙もないよね。
しれっと買取前提の話に持っていこうとしてくる。
でもそれくらい短剣(黒)の鑑定結果が良かったってことだろう。
短剣(白)をジャコモさんに見せるのはやめておこう。
ルルさんのガントレットもね。
「残念じゃが、とりあえず今は諦めるとしようかのう。」
「とりあえずじゃなくて、キッパリ諦めてください。」
ジャコモさんは僕の言葉を軽く受け流して、さらに話を続けた。
「それで鑑定結果じゃが、武具ランクは鑑定不能じゃった。」
「鑑定不能!?」
「つまり上級のわしで鑑定不能ということはS級か神級ということじゃな。」
「S級以上・・・なんですね。」
一応驚いてみたけど、実はS級以上というのがこの世界でどれくらい凄いのかよく分かっていなかったりする。
割と存在するものなのか、滅多にお目にかかれないものなのか。
その辺の僕の曖昧な雰囲気を感じ取ったのだろう、ジャコモさんが説明を追加してきた。
「ちなみに、S級の武具なんぞランクSの冒険者くらいしか持っておらん。神級となれば王家が秘宝として持っとるかどうかのレベルじゃ。」
短剣(黒)、凄かったんだね。
なんか雑に扱ってた気がするけど。
短剣(黒)が実はお宝だった件について「中の女性」から説明はないんでしょうか。
…武具鑑定の範疇です。…
「中の女性」から説明拒否の答えが示された。
この言い方は知っているけど教えないという意味だ。
クエストで可能なことは自分でやれってことだろう。
武具鑑定のレベルを上げなきゃいけないな。
「それからウィン殿、材質がアダマンタイトなのにも驚いたんじゃが、特性にある『成長』と『変化』というのはどういう意味じゃろうか? わしも長い間武具鑑定をやっておるが、初めて見るんじゃがのう。」
やっぱり普通の武器は成長したり変化したりしないんですね。
これは、でも、説明しない方がいいような気がする。
というか説明したくない。
ということでようやくあの言葉を使おう。
「ジャコモさん、すみません。それは冒険者の秘匿事項です。」
「それはまあ、そうじゃろうのう。」
僕が冒険者の決め台詞(?)で説明を断ると、ジャコモさんは表情を変えることもなく何度も頷きながらあっさりと了承した。
しかしそれに続く会話で、今度は僕が目を見開いてしまうことになる。
「まあ、自分で検証すればいいことじゃな。ウィン殿、同じ短剣をもう一本、わしのために作ってくれんかのう。材料はこちらで用意させてもらうし、製作費用も言い値で構わんでのう。」
ん?
もう一本作ってくれ?
あれっ?
僕が作ったとは一言も言ってないよね。
うん、絶対に言ってない。
「ウィン殿、そんな表情をしたら心の中がバレバレじゃよ。でも別にカマをかけた訳じゃないんじゃ。上級の武具鑑定には『製作者』の項目があってのう。そこに『ウィン』と表示されとるんじゃよ。」
それを聞いて僕はガックリと肩を落とした。
武具鑑定も上級になると製作者まで分かっちゃうのか。
軽くジャブを当てて喜んでたら、思いっきりカウンターを食らった感じ。
思いつきで悪戯なんてするもんじゃないな。
特に慣れないフィールドでは。
でもこうなったら仕方がない。
潔く負けを認めて正直に話そう。
「ジャコモさん、もしもう一本同じものが作れたら、その時は売らせていただきます。でも正直、同じものができるかどうかは僕にも分かりません。」
ジャコモさんは僕の言葉を聞いて、しばらくの間まっすぐに僕を見つめてから頷いた。
「なるほどのう。これ以上深く詮索するのはやめておこうかのう。いつ手に入るか分からんというのも、また楽しみ方のひとつじゃしな。では本題に入ろうかのう。」
そう言ってジャコモさんは心なし居住まいを正す。
それだけで部屋の中の空気がピンと張り詰め、真剣勝負の舞台が整えられたような気がした。
「まず、金剛石を見せていただきたい。」
ジャコモさんは改まった言葉遣いでそう言うと、紅い布を敷き詰めた皿のようなものをテーブルに置いた。
僕は黙って頷き、マジックバッグからブリリアントカットされた金剛石をひとつ取り出し、その皿の上に置いた。
ジャコモさんは皿を持ち上げ、時間をかけて僕が渡した金剛石を角度を変えながらじっくりと見る。
肉眼と鉱石鑑定の両方でその価値を見定めているのだろう。
しばらく無言の時間が続き、ジャコモさんがゆっくりと金剛石を載せた皿をテーブルの上に戻した。
そして溜めていた息をゆっくりと吐き出し、一呼吸おいて言葉を発した。
「白金貨100枚。」
白金貨100枚。
白金のインゴットの2倍。
前の世界の通貨に換算すると1億円くらいだろうか。
てことは、50個全部売ったら50億円!
年末ジャンボ宝くじが10回当たったレベル!
「と言いたいところじゃが・・・」
あれ?
ぬか喜び?
ここから値段交渉でもっと下げられるのかな。
「ウィン殿、駆け引きじゃなく本音の話でも良いじゃろうか?」
「もちろん。」
「普通であれば、ここから交渉してこちらの利益の最大化を目指すのが商人の本分なんじゃが・・・それにウィン殿との駆け引きはわしのような老人にとってはこの上ない娯楽でもあるんじゃが・・・今後のことを思えばウィン殿とは本音の関係を作ることが肝要と、わしの商人としての勘がささやいておるんじゃよ。」
ジャコモさんの言ってる意味はよく分かる。
一回の取引で大儲けするより、信頼関係の下に長期に渡って利益を得ていく方がいいってことだよね。
それが見込める相手であれば。
でもその台詞も含めてジャコモさんの高等戦術かもしれないので、油断はしないぞ。
「そこで提案なんじゃが、この金剛石をいくつか商人ギルドに預けてくれんかのう。そうしてくれればわしが高く売れそうなタイミングでオークションに出そうと思うておる。取り分はウィン殿が売却額の9割、商人ギルドが1割でどうじゃろうか?」
ジャコモさんの提案を受けて、僕は少し考えてみる。
でも基本的な知識が不足しているのでこの提案が妥当なものかどうか判断できない。
まあ、もともとダンジョンで拾ってきたようなものだし、原価は0に等しい。
ここは素直にジャコモさんの提案に乗ることにしようかな。
ただし・・・
「ジャコモさん、その提案をお受けします。」
「おお、了解してくれるかのう。」
「はい、ただ、条件が2つあります。」
「条件が2つ? さすがにウィン殿、無条件というわけにはいきませんかな。じゃがお手柔らかにお願いしたいのう。」
「難しいことじゃありませんよ。1つ目は・・・」
「1つ目は?」
「この商人ギルドに裏庭はありますか?」
「??」
僕の質問にジャコモさんが怪訝な表情を浮かべた。
まあ無理を言うつもりはないし、簡単なお願いなんだけどね。
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