103.報告したほうがいいようです(ギルド出張所:受付嬢さん)
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第二章 葡萄の国と聖女
主人公が戦闘狂の聖女と知り合い、葡萄の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
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第二章 葡萄の国と聖女(103)
【コロンバール編・港町ポルト】
103.報告したほうがいいようです(ギルド出張所:受付嬢さん)
「ウィン、これも見てくれ。」
ルルさんの要望にお応えして、ルルさんの両腕に嵌められたままのガントレットを鑑定してみた。
(鑑定結果)
名称 : ルルのガントレット(白)
ランク : 不明(鑑定レベル不足)
材質 : ミスリル
特性 : 魔法付与特化
ほぼ短剣(白)と変わらないけど、名称の頭に『ルルの』がついているのと、特性に『成長』と『変化』がないところが違っている。
『成長』と『変化』は僕の短剣のオリジナル特性なのかもしれない。
「ウィン、どうだ?」
「ミスリル製のガントレットで、ランクはまだ鑑定できませんがB以上だと思います。あと、魔法付与ができるようです。」
「魔法付与? よし試してみよう。」
ルルさんはそう言うと、いきなり風魔法をガントレット(白)に対して発動した。
すぐにガントレット(白)を包むように風が吹き始める。
そのままルルさんが腕を振ると風の塊が飛び出し、洞窟の壁に当たってドスンという重い音を立てた。
「ウィン、これで物理耐性がある魔物も殴れる!」
ルルさんの瞳がとても嬉しそうに輝いている。
放置するとそのまま『風拳』(とりあえず命名してみた)の試し打ちを延々と続けそうだったので、今回は止めることにした。
「ルルさん、練習は島でやってください。透明ワームの特異種も倒したことだし、とりあえずダンジョンから出ましょう。」
僕はそう言うと、ルルさんの返事を待たずにルルさんの隣に行き、転移陣を発動した。
もちろん転移する前にスラちゃんとディーくんは『召喚解除』で戻しておいた。
転移後に『召喚』で呼ぶこともできるけど、一瞬でも置き去りにするのはなんか嫌だったので。
あ、でもダンジョン内に出した小屋はそのままだ。
まあ、誰も入れないからいいか。
『転移陣』でダンジョンの外に出ると、入り口にいた兵士さんがかなりびっくりしていた。
ダンジョンの中に入って行ったはずの二人がいきなり目の前に現れたら当然驚くよね。
「ダンジョン内からここに転移されたんですか?」
「そうですけど。」
兵士さんの一人(兵士A)が僕にそう尋ねてきたので僕は素直に答えた。
「おい、ダンジョンの中から外には転移できないんじゃなかったか?」
「そう聞いてるが、事実、この人たちは出てきたぞ。」
もう一人の兵士(兵士B)が兵士Aに確認するように問いかけ、兵士 Aがそう答える。
えっ、ダンジョンから転移で外に出ることはできないの?
できちゃったけどね。
「どのように転移されたか、お話を伺ってもよろしいですか?」
兵士Aがそう言ってきたのでちょっと困っていると、隣のルルさんが即座に対応する。
「冒険者の秘匿事項だ。」
ルルさんはそう言い放つと、僕の腕を掴んでギルド出張所の方へ歩き出した。
兵士さんたちには冒険者に対してそれほど強い権限はないようで、僕たちを追いかけては来なかった。
ルルさん、やっぱりその言葉、便利ですね。
機会があれば僕も使おうと思ってたけど、咄嗟に出てきませんでした。
次回は必ず自分で使ってみようと思います。
ギルド出張所でダンジョンから出たことを報告すると、ここでもちょっとびくりされた。
まあ、入ってから2時間も経ってないからね。
聞いてみると、たいていの冒険者は一度入ると暗くなるまでは出て来ないらしい。
効率を考えたらそれが普通だろうな。
「カラードワーム、あまり出てきませんでしたか?」
ウサ耳の受付嬢さんが心配そうな顔でそう聞いてくる。
僕たちが思うような成果を上げられず、すぐに出てきたと思われたようだ。
ギルドとしてもダンジョンに対する冒険者の満足度とか気にしてるのかもしれない。
「いえ、いっぱい出ましたよ。多すぎるくらいに。」
「そうですか。良かったです。」
僕が成果は十分だったと告げると、受付嬢さんがホッとした感じで笑顔になる。
この人、いい人だな。
「もしかするといい色、出ませんでした?」
「いい色?」
「茶色ばかりだと鉄鉱石しか落ちませんので。白色とか黄色が出るといいんですけど。」
確か白色だと銀鉱石で、黄色だと金鉱石だよね。
普通は銀とか金とかが出ると当たりなのかな。
まあ、全部出ちゃったけどね。
「心配してくれてありがとうございます。でも大丈夫ですよ。全部出ましたから。」
僕が気を使ってそう言うと、受付嬢さんは少し考えてから目を見開いた。
「ぜ、全部と言いますと?」
「全色ですね。茶色から透明まで7色全部。」
「ちょ、ちょっと待って下さい。ということは鉱石も・・・」
「はい、鉄、銅、銀、金、白金、金剛石、レアはミスリルでした。」
そこまで伝えると受付嬢は完全に固まってしまった。
そのままにするのもどうかと思ったので、じっと待ってみるけどなかなか再起動しない。
正直に報告しただけだけど、言わないほうが良かったのかな。
でも嘘ついてもしょうがないしね。
遠い目になっていた受付嬢の視点が僕の顔の上に戻ってきた。
ようやく頭の中が働き出したらしい。
「す、すみません。もしよろしければ、鉱石を確認させて頂いても構わないでしょうか?支部に報告しないといけませんので。」
珍しい色が出た場合、冒険者ギルドのポルト支部に報告しないといけないのだろう。
受付嬢さんが上目使いに僕を見ている。
これがもし嫌な人が相手だったら、今こそ「冒険者の秘匿事項だ。」を使う場面だったね。
でもこの受付嬢さんはいい人なので素直に応じることにしよう。
「分かりました。一つずつ出しますね。」
僕はそう言うと、マジックバッグから鉱石を1種類につき一つずつ出して、受付のカウンターの上に並べていった。
それを見つめている受付嬢さんは、白金石と金剛石を見て、再び目を見開いている。
このダンジョンの受付で働いていても白金石以上はなかなか見る機会がないのだろう。
最後のミスリルを出そうとして、ミスリルは鉱石じゃなくインゴットしかないことに気がついた。
普通の透明ワームを倒した場合はミスリル鉱石が出るのかもしれないけど、僕たちが倒したのが特異種だったせいか、インゴットの状態でドロップしたのだ。
仕方がないので、ミスリルのインゴットを一つ、カウンターの上に置いてみる。
「あの・・・この最後のはなんでしょう?」
「ミスリルのインゴットですが。」
「!?」
「透明ワームが普通のじゃなくて特異種だったので、鉱石じゃなくてインゴットがドロップしたみたいです。」
「?!」
受付嬢さんが言葉にならない音を発している。
それでも驚きや疑問を表現していると判断できるので、人間の感情表現というのは不思議なものだ。
でも驚き過ぎている受付嬢さんを見ていると、なんか可哀想になってきた。
心なしか涙目になってる気がする。
知らない人が見たら僕が受付嬢さんをいじめてるみたいに見えるよね。
「あの〜、良かったら僕たち、ポルト支部で直接報告しますけど、問題ありますか?」
そう提案してみると、受付嬢さんは言葉にできないまま、すごい勢いで首を横に振り、その後何度も頭を下げた。
おそらく、首を横に振ったのは「全く問題ありません」で、頭を下げたのは「よろしくお願いします」という意味だろう。
「じゃあ、ポルト支部に向かいますね。また来ますね。」
ウサ耳の受付嬢さんにそう告げると、僕はルルさんと二人ですぐにポルト支部へ転移した。
あっ、受付嬢さんの目の前で転移してしまった。
最後にまた驚かせてしまったかもしれない。
反省、反省。
次からはもう少し周りに気を遣おう。
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