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4.


アルバイト中、客の来店を告げる軽快な音楽に笹島は品出し作業をしながらいつものセリフを言う。

「いらっしゃいませー!」

「よぉ。勤労ご苦労」

篠塚が笹島の勤めるコンビニに客として来店した。

「篠塚、何しに来たんだよ」

「笹島の労働を見学に来た」

言いながらも品出しの手は止めない。

笹島は立派なコンビニのアルバイト店員になっていた。

「あ、この新商品。結構美味くておすすめ」

「へー。じゃあそれ貰うわ。あと適当に見てく。仕事頑張れよ」

甘いデザートだったからだろうか篠塚は素直に受け取り、そのまま菓子類を数点選び会計をすると、再び品出し中の笹島に一言「頑張れよー」と声を掛けて帰っていった。

何しに来たんだ?という疑問符が笹島の頭に埋め尽くされたが、まぁ篠塚だしわけわからんとこあるか!と思考を止めた。

店長には「お友達?仲がいいねぇ」と和やかに訊ねられたが、そういえば自分達は友人と呼べる間柄なのだろうか?と笹島は思った。

笹島は篠塚に殺されたいだけだが、何故篠塚は普通に接してくれるんだろか。

上からの指示とやらはまだ出ないんだろうか。

ファミレスにも別に付き合ってくれなくてもいいのに、勝率二割で付き合ってくれる。

ちなみに篠塚がファミレスに来てくれない場合は笹島はファミレスには行っていない。

一人でファミレスに行きドリンクバー制覇チャレンジする度胸がないからだ。

そもそも笹島は篠塚の連絡先も知らなかった。

聞いたら教えてくれるだろうか。

今度ファミレスに誘い成功したら聞いてみようと笹島の目的がまたひとつ増えた。




そして、今日も二人でファミレスに来店した。

ドリンクバー制覇チャレンジも順調に進んでおり、笹島は外が寒いため最初はホット類を選ぶようにしている。

長居し店内の暖房に慣れた頃に冷たいドリンクを順に選択していっている。

篠塚は「これが一番甘い」と相変わらず紅茶と言うには砂糖を入れすぎな砂糖茶と呼んだ方がいいような物体を美味しそうに飲んでいる。

笹島は篠塚の食生活が本気で心配になりつつあった。


そして、それ以外の篠塚のことももっと知りたくなっていた。


死にたい理由も生きたい理由もない怠惰ながらも生きていて普通の高校生をしている、半端な、正常な笹島から見たら篠塚は憧れとも羨望とも言えた。

普通ではないことをする。

それだけで、篠塚は笹島にとって特別になったのだ。

篠塚は他にも仕事仲間は居ると言うけれど、それでも一番笹島にとっての『死』に近いのは篠塚だ。

幼稚園から高校まで一緒に居たのに気付かなかった。

いや、気付いていたら篠塚はとっくに捕まっていただろう。

篠塚は答えたくないことは分かりやすく誤魔化すし甘党の男子高校生だが、それ以外は分からないことだらけの存在だった。

そもそも所属してる組織のバイトとはなんなんだ?

何故普通の男子高校生が殺しなんてことをしている?

何度も聞いてははぐらかされてきたことだ。

聞いても無駄だからもう仕事に関して聞くことはないだろうが、それでも篠塚を構成することなら知ってみたいと笹島は思っていた。


そしてふと店長に友達かと訊ねられたことを思い出した。

笹島と篠塚の関係性はなにか分からないが、連絡先を聞いてみてもいいだろうかと軽い気持ちで慎重に訊ねてみた。

「そういや篠塚のLINE教えてよ」

「別にいーよ」

あんな仕事をしているくせに個人情報を流出させてもいいのか?もしくは仕事用は別のスマホなのか?

笹島は疑問に思ったが画面に新しく映るアイコンの猫の方が気になって仕方がない。

「猫、好きなんだ?」

「実家の猫。めちゃくちゃかわいい。うちの子は天使だと断言できる。かわいい」

篠塚の語彙が死ぬ程には溺愛しているのだろう。

そのままスマホの画像画面を差し出し、スクロールしながら「ほらほら」と愛猫自慢をしてくる姿は普通の甘党猫好き男子高校生だ。

「もうわかったって」

始めはかわいいなと思って画像を見ていたがあまりに長々と見せられ、特に猫には興味もなかった笹島は限界に達して見せ付けてくる篠塚の腕を押し返した。

篠塚のLINEと猫が好きということだけは知ることが出来た。




「なんかさ、篠塚とは幼稚園から高校までずっと一緒だったのに最近ようやく篠塚を知れた気になる」

「いやいや、俺のポテンシャルはまだこんなもんじゃないって。笹島の知らない俺なんてたくさんあるぜ」

確かに、まだ数週間しか過ごしていない。

笹島の知らない篠塚はまだまだたくさんあるのだろう。

「じゃあさ、篠塚の隠されたポテンシャルを知るために質問いいか?」

「いいぜ」

「篠塚の理想の死に方ってどんなん?」

「出たよ笹島の死にたがり。潜めてたと思ったのになー…。理想の死に方…。なんだろうな?まず死について考えたこともねーわ。まだやりたいことも欲しいもんもあるし高一だぜ?進路とかもこれから考えなきゃなんねーだろうし…」

「………意外と普通の答えが返ってきた。どこいった隠されたポテンシャル」

「いや、理想の死に方って質問自体がおかしいからな?俺のせいにするなよ」

パフェを攻略しながら非難されるが死への憧れがある笹島は質問を変えた。

「じゃあ、どんな時に死にたくなる?」

篠塚はうんざりとした顔で答える。

「俺にはさ、生きる理由も死ぬ理由も殺す理由もないよ」

嵩増しのコーンフレークに生クリームを着けて咀嚼しながら篠塚は笹島に向き合う。

「俺には、多分お前が思ってるほどなんにもない」

明確な理由がない人間が大多数だろうが、と前置きをして。

「だからちゃんと生きようとしているお前がちょっと羨ましい」

まぁ、死にたがりだけどな、と茶化すように言うがそれはきっと篠塚の本心だろう。

篠塚はそう言うが、笹島にも生きる理由も死ぬ理由ももちろん誰かを殺す理由もない。

理由がないから探し求めているのだ。

そして、本当に求めているものほど手に入らないのは定石だ。


「篠塚に殺されたいために生きているのも理由になるかな?」

「なるなる。笹島、めっちゃ生きてる。俺よりは生きてるよ」


その軽口に少し悲しくも寂しく感じた笹島は手の指で銃の形を作るとバァンと口で言って撃った。

篠塚は薄く笑うだけで応えようもしない。

これが答えなのだろう、ということは笹島も分かっていた。

だが、あの日に見た光景が忘れられない。


あの『死』が数週間経っても忘れられずにいる。


「篠塚、俺のことを殺してくれないか」

「なんで俺に固執するんだよ」

「死ぬなら篠塚に殺されたいと思ったんだ」

「んー」

篠塚は考えた風だがすぐに首を振った。

「そんなこと俺が決められることじゃないよ。上の指示もまだだしな」

「その上の指示っていつ出るんだよ。殺してくれるのは篠塚なのか?依頼もまだ出来ないのか?」

「さぁ?処分となれば俺意外が出る可能性もあるけど俺の失態だから俺が責任を持って担当するかもしれないしわかんねーよ。あと、依頼の件は言ってない。お前はもう少し命大事にしとけ」

「大事に出来るような性格なら死にたがりになんてならない」

「それもそうだな」

篠塚はため息をつくと少しスマホを弄って告げた。

「死ぬ手前なら始末書覚悟で体感させてやるよ」

「それって?」

「お前に向かって銃を撃つ。空砲だけど」

「そのまま殺してくれていいんだぞ」

「まじでなんでそんなに死にたがりなんだよ。バイト始めたばっかだろ。責任感持てよ」

うんざりとした顔はもはや見慣れた顔だった。

篠塚は笹島が死にたがるとすぐにこの顔になる。

笹島は考えた。

笹島が篠塚以外を理由に死んだらどんな顔をするんだろうか?




ファミレスから出て店舗内との寒暖差に震えながら篠塚に導かれるまま廃墟のような建物に来た。

立ち入り禁止と書かれた札を無視して篠塚が入るので、笹島も慌てて後を追った。

「ここ、バイト先の所有物だしさっき連絡したから気にしなくていーよ」

謎の組織の所有物ということで少し笹島のテンションが上がったが、何より今から篠塚が撃ってくれるのだ。

例え空砲であろうと、あの時の『死』の感覚に近付けるだろうか。

笹島がドキドキしながら篠塚の後を追い続けると篠塚が止まったので笹島も止まった。

篠塚は振り向きうんざりした顔をすると懐から銃を取り出した。

篠塚が人を殺したところを初めて見た高揚感が甦る。

篠塚は笹島を見定めると笹島の胸が高鳴った。

この感覚を味わいたかったのだと笹島は実感した。

篠塚の手から銃が撃たれ発砲音が響いた。

だが生憎と笹島はまだ生きていた。

空砲なのだから当然だ。

笹島はまだ生き延びていた。

「殺してくれて良かったのに」

「まだドリンクバー全種類制覇してないだろ」

薄い笑みで銃を仕舞う篠塚に、笹島は早くドリンクバーを全種類制覇することを誓った。



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